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主婦からセルフリノベのshop&ギャラリー「カエルトープ」のオーナーへ。これまでの十年とこれから|先輩移住者file.9

先輩移住者ドキュメントfile.9 飯塚和子さん

  • 生まれ:群馬県前橋市

  • 移住タイプ:Iターン(夫のUターンがきっかけ)

  • 以前の住まい:群馬県前橋市

  • 移住時期:2015年4月(現在8年目)

  • 家族構成:4人(夫、子供2人)。子供は2人とも独立。

  • 仕事:shop&ギャラリー「カエルトープ」オーナー

群馬県高山村にあるshop&ギャラリー「カエルトープ」

 時は2012年5月。中心地から車で1時間以上かかる山の上の小さな村・高山村に、1軒の雑貨店がオープンしました。お店の名前は「カエルトープ」。布小物の作家・飯塚和子さんのアトリエを兼ねたお店です。義両親の家の一室を夫婦でセルフリノベし、雑貨を少し並べただけの小規模なお店でした。
 それから11年後、カエルトープの敷地には、ギャラリーが増え、カフェスペースが増え、焚き火小屋が増え、ワークショップスペースが増え、ハーブガーデンも整えられました。県内外から多くの人が訪れ、数々のイベントが開催され、出逢いと交流が生まれました。ここ数年は、カエルトープがきっかけとなり高山村へ移住する人も増えています。
 小さなお店が今の姿のように成長するとは、オーナーの飯塚さん自身も想像していなかったそう。カエルトープの変遷と一緒に「自身の内面も変化している」と語る飯塚さん。11年をかけてどのように人の集まる場所を作ってきたのか、そしてこれから未来に向けて何を目指すのかーー、現在の心境を聞きました。

主婦からハンドメイド作家へ

 高山村に移住する前は前橋市の団地に住む普通の主婦でした。子供二人を育てながらパート勤めをして、手が空いた時にちょこちょこと自分の小物や子供用のバッグなどを手作りしてました。趣味でやっていたのですが、「うちのお店に置いてみない?」と声を掛けてもらい委託販売をしたり、クラフトフェアに出店したり……少しずつ作家として活動するようになっていきました。今振り返ると、当時の私の技術でよく販売していたなって恥ずかしい気持ちです。でも、作ることが楽しかったんですよね。いろんなイベントに出店することで他の作家さんとも知り合えるようになりました。
 その頃、夫は定年を迎えるまであと数年というタイミングでした。夫婦でこれから先どのような人生を歩んでいきたいか話し合ったんです。それで、私のアトリエを兼ねた小さなお店を開こうということに。前橋から車で1時間ちょっとの高山村に夫の両親が住んでいたので、その家の一室を自分たちでリノベーションして、アトリエ兼お店を開くための準備を始めました。

お店になる部屋の床を塗る飯塚さん。
リノベーション作業は旦那さんが中心となって進めてくれたそう。

前橋と高山村の二拠点生活がスタート

 前橋の家から高山村に通って、古い家の客間を少しずつリノベーションしていきました。まずは大量の荷物を片付けて、それから壁をぶち抜いて部屋を広くして、床を張って壁を塗って、トイレとキッチンも作りました。レジを置くカウンターや商品を陳列する棚も夫の手作りです。入り口には広いウッドデッキも設置しました。デザインは二人で話し合って決め、主な作業はDIYが得意な夫にお願いしました。。
 1年半のリノベーションの末、2012年に開店。開店当初は、自分の作品とクラフトフェアで出会った作家さんの作品などが中心でした。当時は前橋に住みながら週末に高山村に通っていたので、日曜しかお店を開けられませんでした。

カエルが賑やかに鳴く5月にオープンした。
「カエルトープ」と名付けた由来は、『故郷に帰る』、『自然に還る』と言う意味も込めて。

雑貨店の店長という仕事に目覚める

 最初は細々と続けられたらいいなぁという感覚だったのですが、実際にお店を運営し始めて、「私、こういうの好きだったんだ!」と目覚めました。思えば、子供の時から雑貨が大好きだったんですよね。靴屋さんでパート勤めをしていた時から、接客も好きなんだな...…と気づきました。商品を通してお客さまに寄り添えることが嬉しかったです。それまでは一人で遠出なんかしないタイプだったのですが、一人で東京に行って展示会に参加したり、卸先に商談に行ったり、自分でも驚くほど行動的になりました。お店をやっていなかったら家から出ることはなかったんじゃないかな。
 オープン後、作家さんが展示会を開催できるようなギャラリースペースの必要性を感じて、隣の農機具小屋のリノベーションを始めました。開店の翌年、「ギャラリー天泣(てんきゅう)」が完成しました。

「ギャラリー天泣」の床を作る旦那さん。飯塚さんはお店のソフト面を、旦那さんはDIYなどのハード面を担当し、二人三脚でカエルトープをつくってきた。
今から10年前、義理のお母様の88歳を記念して「八十八足展」を開催した。

高山村の四季を3回過ごし、2015年に移住

 子育てをした前橋の家にも思い入れはあったのですが、週末に高山村へ通う生活を3年続けて、ここで暮らしたいと思うようになりました。私は特に、高山村の春が大好き。冬は本当に寒いけど、春が来た喜びは格別です。草花が芽吹いてくる様子はとても美しいし、桜、そして新緑と景色が瑞々しく変化する様子は何度見ても心が豊かになります。春という季節がこんなに美しいなんて、高山村に通い出すまで知りませんでした。両親の家をリノベーションして、前橋の家を引き払い、2015年に移住が完了しました。

カフェスペース、焚き火スペース、ワークショップスペースが誕生

 移住後に着手したのが、カフェスペース「カエル舎」です。カエルトープに来てくれた人達が飲んだり食べたりできる場所が欲しいね、ということになり、もとは鶏舎だった建物をリノベーションしました。床を取り替えて壁に木材を建て付けてキッチンスペースを作って……大掛かりなリノベーションでした。

旦那さんは昼間はお仕事。帰宅し、夜ご飯を食べた後に作業をしていたそう。

その後、外でピクニックやBBQができるスペースがあったら面白いよね、という思いつきで「焚き火小屋」を作りました。

建築中の焚き火小屋
現在の焚き火小屋

 カエルトープのDIYは、最終的な完成イメージがあるわけではないんです。たいてい、「こういうのがあったら良いよね」という想い付きが発端。材料も、新しいものを購入することはほとんどなくて、ある物を再利用したり、友達から貰った物で作るのが私たちのスタイルです。

 その後、義理の母が漬物を保管したり内職をしていた小屋を「hut」にリノベーション。現在は作家さんのワークショップに活用して頂いてます。

 義理の父が作った日本庭園も、少しずつ手を加えて、私達の好みに変貌を遂げています。最初は松やつつじなど、純和風な雰囲気でしたが、ハーブ系の植物を増やして、アプローチを作って、いわゆるロックガーデンの雰囲気になりつつあります。

ギャラリー天泣へ続くアプローチ作り

オンライン販売はしないというこだわり

 小さなお店だったカエルトープにいろんな機能ができて、イベントやワークショップをたくさん開催してきました。毎年春に開催するカエル市は10年続き、県内外から多くのお客様に足を運んで頂きました。遠くからわざわざ高山村までいらしてくださるお客さまには、本当に感謝しています。
 不便な土地でお店を営んでいるからこそ、オンラインショップを持ってみたら? というアドバイスもよく頂きます。お金を稼ぐという観点で考えたらネット販売をするべきだということはよく分かるのですが、そうなると私が大切にしたいことはできなくなってしまいます。ですので、これからもネット販売をすることはないと思います。カエルトープに来て、商品を見て触って感じて欲しいのです。そして、私とのちょっとした会話の中から暮らしのヒントを見つけてご自宅に帰ってくださったらいいなぁと思っています。ボタンひとつでなんでも買える世の中ですが、だからこそ人とのふれあいを大切にしたいと思っています。

陶器の質感や手触り、色味などを実際に手にとって感じてもらいたい、と願う。

高山村への移住のきっかけになれる喜び

 お客様には、高山村暮らしのこと良く聞かれます。心がけているのは、良いところだけでなく悪いところ、大変な部分も伝えること。特に冬の寒さや雪のことは正直に話します。夫は高山村が故郷ですが、私は縁もゆかりもなかった土地。村外の方と話すことが多いので、高山村のことを割と客観的に伝えられるのかもしれません。正直にお話しをした数ヶ月後に、「移住しました!」と遊びに来てくれる方も少なくありません。カエルトープが高山村への移住のきっかけになれるというのは、私の喜びにもなっています。

自分の内面の変化に沿うように、カエルトープも変化していく

 オープンして11年という年月で、私自身の変化と共にカエルトープも少しずつ変化しています。毎年開催していたカエル市は一区切りし、今年は娘が代表を務める会社「在る森はなし」と共同イベントで開催しました。年齢や性別など関係なく、お互い成長し学んでいける仲間たちと今、奮闘しています。パソコンを始めたり、知らない世界を知ると言うことは大変なこともありますが、ワクワクします。時に親子ほど離れた女の子たちと女子会をして、美味しいものを食べたり、ファッションやメイクの話しなんかもしているんですよ。とっても楽しいですし幸せです。
 ショップに置いてある商品も、私の変化と共に変わりつつあります。それはとても自然なことで、今、自分が一番心地よいと思うことが未来の私、カエルトープを作っていくのだと思います。


 来年は、イベントや展示会のペースを少し落として、その空いた時間とエネルギーを有効に使っていこうと考えています。わざわざここまでいらしてくださるお客さま一人ひとりとしっかり向き合って、暮らしを心地よくする、感性を豊かにする商品の提案をしていきたいです。
 ここ高山村に、カエルトープに来て良かった..…そんな風に思っていただけるよう、これからも楽しく続けていきたいと思います。 

●shop&ギャラリー「カエルトープ」
HP

instagram

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●先輩移住者ドキュメントの連載について
移住にあたって一番知りたい、でもどんなに検索しても出てこない情報。それは、その地域の「住みにくさ」や「閉鎖的な文化の有無」、そして「どんな苦労が待っているか」などのいわゆるネガティブな情報です。本連載では、敢えてその部分にも切り込みます。一人の移住者がどんな苦労を乗り越えて、今、どんな景色を見ているのか。そして、現状にどんな課題を感じているのか……。実際に移住を果たした先輩のリアルな経験に学びながら、ここ群馬県高山村の未来を考えていきます。



2021年に夫と0歳の娘と高山村に移住。里山に暮らしながら、家族でアパレルのオンラインショップ「Down to Earth 」を営む。山中ファミリーの移住の様子は「移住STORY」へ。日々の暮らしやお仕事のことはinstagramへ。

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