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カフェの立ち上げを経てキッチンカー起業。高山村の野菜で、のけぞるくらい美味しい料理を届けたい|先輩移住者file.10

先輩移住者ドキュメントfile.10 城智子さん

  • 生まれ:千葉県千葉市

  • 移住タイプ:Iターン

  • 以前の住まい:千葉県千葉市

  • 移住時期:2021年10月(現在3年目)

  • 家族構成:2人(夫と二人暮らし)。

  • 仕事:キッチンカー「3kakufoodstand(サンカクフードスタンド)」運営

 2022年9月、群馬県高山村で唯一のカフェがオープンしました。道の駅中山盆地に併設する公共施設「さとのわ未来センター」の中の「さとのわカフェ」です。立ち上げの中心となったのは、当時千葉県から移住したばかりの城智子さん。飲食店での勤務経験を武器に、高山村の作物をふんだんに使ったメニューを次々と開発していきます。今でこそ多くのお客さんに喜ばれるカフェですが、行政と民間の間を立ち回る日々の業務は「髪が抜けるかと思うくらい大変だった」そう。立ち上げの役目が落ち着いた後は、自身の店舗を構えるために奮闘。屋号を「3kakufoodstand」として、キッチンカーの営業を始めました。移住後すぐに村の中心的施設の立ち上げに関わった苦労と、キッチンカーオープンの道のりと展望を取材しました。

「移住するなら絶対長野」と決めていたはずが、通りすがりに立ち寄った高山村に移住

  山が好きな夫と自然豊かなところに移住しようと決めてから、場所を探し始めました。夫は「移住するなら絶対長野」という意志があったものの、いざ視察してみると土地や家が高い……。また、おしゃれなカフェやレストランや雑貨屋がたくさんあって観光するには楽しいのですが、「自分達がそこで暮らす」イメージが湧いてこなかったのです。視察の帰りにたまたま通りかかった高山村で「カエルトープ」という看板を見つけて、お店なのか、カフェなのか、よく分からないまま迷い込みました。

移住者のきっかけになることの多いギャラリー&shop「カエルトープ」

 「カエルトープ」で、店主の娘さんである移住・定住コーディネーターの木暮咲季さんに出会いました。その場で高山村について熱心に説明してくれて、彼女自身に惹かれたことから高山村への移住を考え始めました。日を改めて高山村を視察してみると、商業的な看板はわずかで、美しい田園風景と山の景色に感銘を受けました。さらに、有機農業をしている村民の方々にも会わせてもらい、特に夫は、彼らの人柄と活動内容に惹かれていましたね。移住希望者用のお試し住宅でその方達が育てた野菜でごはん作って、二人で「うまい〜っ!」と感動しました。名前も知らなかったこの村のポテンシャルの高さに驚きつつ、ついに移住を決めました。実は高山村は、首都圏へのアクセスも良いですが、長野も遠くないのです。長野への移住は叶わずとも、高山村に住みながら遊びにいけばいいね、という結論になりました。
(お試し住宅についてはこちらの記事へ↓)

村の中心地に入るカフェの立ち上げに任命されるも、苦難の連続に

 その頃、高山村では「村の中心地づくり」という大きな予算を投じた計画が動いていました。道の駅の隣に新しい施設を建て、カフェやコワーキングスペース、イベントスペースを設置し、村の活性化を図るという計画です。その中のカフェの立ち上げのポストが地域おこし協力隊として募集がかかることになりました。村の中心施設の立ち上げという役目は、私には荷が重すぎると躊躇するところもありましたが、メニューを開発できる点や村の生産者さんとのネットワークを構築できる点に魅力を感じ、思い切って応募しました。ゆくゆくは自分のお店を持ちたいと考えていたので、そのステップとしてもまたとない機会です。
 無事に採用されたものの、仕事は私の経験不足もあり想像以上に苦難の連続でした。行政の管理する施設のため、意思決定をしても承認プロセスが長いため迅速に動きづらい。備品の購入1つでも事前に申請を挙げて承認を待たないと前に進めないので、スケジュール管理は大変でした。また、公共施設のため関わる人が多く、本当にいろんな方々からいろんな意見が届きます。様々な意見をもらう中で私自身の考えがブレてしまうことも多々あって……それでもオープンは近づいていて逃げられない、プレッシャーに押しつぶされそうにもなりました。

精神的な逃げ道の少ない田舎暮らしで、自分の弱さと向き合っていく

 思えば、千葉に住んでいる時は精神的な逃げ道がたくさんありました。ストレスが貯まったら気軽に飲みに行けるし、ショッピングに繰り出して発散もできます。落ち込んだ時には近所に住む友達や家族にすぐに会いに行けました。ちょっとした気分転換をするためのカフェもたくさんあります。田舎にいるとそういう気晴らしのための行動が簡単にできないこと痛感しています。カフェの立ち上げで忙しかった時はあまり実感していませんでしたが、個人で事業を始めた今、特に感じます。でも良く考えてみると、そういう気晴らし行動って、ただ問題から逃げて気を紛らわしているだけで、本質的な解決にはなってなかったんですよね。自分の中にある「弱さ」のようなものから目を伏せていただけなのかなと気がつきました。今は、否が応でも自分の弱さと対面しています。私自身はそれで少し成長しつつあるようにも感じています。

スタッフをはじめ、色々な人に支えてもらいながら立ち上げに向けて奔走したそう

高山村ならではのピザメニューを開発

 カフェメニューを開発する際に私が一番大切にしたかったこと。それは、高山村ならではの作物を美味しくアップデートすることです。ピザを出すというところまでは行政側で決まっていたのですが、どんなトッピングにするかは私に任せて貰えました。私が移住の際に感動した村の野菜をふんだんに使って、数ヶ月以上レシピ開発に明け暮れました。その間、「ピザだからやっぱりジャンクにして欲しい」とか「肉をたくさん使ってボリュームを出して欲しい」などの意見もありました。でも、ジャンクでボリューミーなピザならどこでも食べられます。わざわざ高山村で食べるのだから、村ならではのものを味わってほしいというこだわりを貫いて、野菜中心のメニューに舵を取りました。

看板メニュー「ビーツなサラダピザ」。他にも、トマトソースに旬の野菜をたっぷりのせた 「村の恵み野菜ピザ」、村のお母さんグループが作った味噌を使ったソースと舞茸・豆腐を合わせた 「高山みそとマイタケ」が誕生した。

結果、お客さんからは「他では食べたことがない」「野菜が美味しい」と好評で安心しました。特に、有機栽培のビーツとルッコラを合わせたピザは看板メニューとして根強い人気です。
(※最新のピザメニューは「さとのわカフェ」のHPやSNSをご確認ください。)

お客さんを待つのではなく、自ら向かっていくキッチンカー事業

 無事にメニューも決まり、さとのわカフェは2023年9月にオープンを迎えました。もともとカフェの立ち上げメンバーとして採用して頂いたので、私の役目はいったんここで一区切りです。地域おこし協力隊2年目以降は、自身の起業に向けた活動に少しずつ軸を移していきました。
 いざ「自分のお店を持つ」という夢を具体的に検討した時に、一つ不安がありました。ここで店舗を構えたとして、本当に集客ができるのかという点です。飲食業に携わる中で、「お客さんを待つ」ことの辛さは身に沁みています。そんな中、映画『シェフ』という作品をきっかけにキッチンカーでの活動に興味が湧きました。お客さんを待つのではなく、お客さんのところに自ら向かい商売ができるなんて、すごい! と。早速キッチンカー事業の調査開始です。街でキッチンカーを見つけたら声を掛けて、事業として成立するのかを現場の方々から直接教えてもらいました。

いざオープンするも、撃沈の連続。努力が報われた瞬間は、子どもとのやりとりの中で

高山村の作物をふんだんに使ったメニュー

 キッチンカー活動の屋号は「3kakufoodstand」にしました。「3kaku」というのは、高山村の三並山をイメージしています。三並山は、小野子山、中ノ岳、十二ヶ岳の連山で、高山村のシンボル。「高山村のお米、野菜、大豆を味わう」をコンセプトにしています。

高山村のビーツや人参、お米をつかったエスニックライスと、高山村の有機大豆「秘伝」で作った白いおしるこ。

 少しずつ出店が始まっていますが……正直、苦戦しています。イベント会場でお隣のキッチンカーには人が並んでるのに、私のところは閑散としているという状況も多々あり、凹みますね。そんな中嬉しかったのは、あるイベントで6歳くらいのお子さんがお母さんとエスニックライスを購入してくれて、口に合ったらしくほとんど一人で完食したそうなんです。翌日別の場所で出店していたら、その子がお財布を握りしめて現れてびっくり。「あのご飯が忘れられなくて、お母さんに頼んで連れて来てもらったの」と。キッチンカーの活動を始めてから、お客さんの食べている時の表情が見れないという難しさを感じていました。でも、こうやってリピーターになってくれるということは、気に入ってくれたということ。これまでの努力が報われ、自分の提供するものに自信が持てた瞬間でした。

美味しくて、身体がのけぞるような料理を届けたい

 今は日替わりでご飯ものと飲み物を準備しているのですが、看板メニューがないことや提供までに時間がかかることなど課題がたくさんあります。目標は、食べた人が「うまー!」って身体をのけぞらせるくらい美味しい料理を届けること。「なんとなくおいしね」というレベルでは自分が納得できなくて、期待の上の上をいきたい。キッチンカーの先輩の中には売上と効率性のバランスをとるために料理のクオリティはそこそこでいいと助言してくれる方もいます。「その方が賢いのかも」と思うところもあるのですが、今のところは自分のこだわりを貫いていきたいです。

 前橋や高崎の都市部で出店することも多いです。高山村から来たことをお客さんに伝えると「遠いところからよく来たねー!」と驚かれます。それがきっかけで話しが弾むことも多く、ついつい高山村の魅力をアピールしてしまいます。多くの人が高山村で認知しているのは、ロックハート城と天文台くらいみたいなのです。美味しい野菜とか、美しい里山の風景とか、魅力的な人々とか……私がポテンシャルを感じている高山村の良さをもっと多くの人に知ってもらいたいです。これからキッチンカーの活動を通して、美味しい料理と一緒に高山村の魅力も届けていきます。
 
●高山未来センター さとのわ

●3kakufoodstandのinstagram

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●先輩移住者ドキュメントの連載について
移住にあたって一番知りたい、でもどんなに検索しても出てこない情報。それは、その地域の「住みにくさ」や「閉鎖的な文化の有無」、そして「どんな苦労が待っているか」などのいわゆるネガティブな情報です。本連載では、敢えてその部分にも切り込みます。一人の移住者がどんな苦労を乗り越えて、今、どんな景色を見ているのか。そして、現状にどんな課題を感じているのか……。実際に移住を果たした先輩のリアルな経験に学びながら、ここ群馬県高山村の未来を考えていきます。



2021年に夫と0歳の娘と高山村に移住。里山に暮らしながら、家族でアパレルのオンラインショップ「Down to Earth 」を営む。山中ファミリーの移住の様子は「移住STORY」へ。日々の暮らしやお仕事のことはinstagramへ。

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