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オーストラリアから移住。高山村の「幸せな食環境」を味わい自然とつながるカフェを準備中|先輩移住者file.11

先輩移住者ドキュメントfile.11 太田めぐみさん

  • 生まれ:群馬県沼田市

  • 移住タイプ:Jターン

  • 以前の住まい:オーストラリア

  • 移住時期:2021年5月(現在3年目)

  • 家族構成:2人(夫と二人暮らし)。

  • 仕事:珈琲店にてケーキの製造に従事

近年、高山村へは、国内だけでなく海外からの移住者も少なくありません。今回の先輩移住者・太田さんは、オーストラリアから2021年に夫婦で移住。特に、オーガニック野菜が手軽に手に入る高山村の食の環境に魅了されているそう。なぜ日本の小さな村である高山村に移住することを決めたのか、海外から見た高山村の魅力とはなんなのか、夫妻の移住ストーリーから高山村の客観的な魅力を発見できそうです。さらに、太田さん夫婦は高山村の自宅でカフェをオープンするべく準備中。どんなお店作りが進んでいるのか教えてもらいました。

世界中をバックパッカー旅行し、コロナを機に帰国

 高校の時にアメリカへ留学して、現地の学校を卒業しました。帰国してからもっと英語を磨きたいと思って、地元で働いてお金を貯め始めました。結局、ホテルマネジメントを学べるオーストラリアの専門学校に留学したんですが、夢中になったのはオーストラリアの”海”でした。海で泳いだりシュノーケルをしたり、特にイルカと一緒に泳ぐ「ドルフィンスイム」に魅せられましたね。学校を卒業してからワーキングホリデーの制度を使ってオーストラリア滞在を続けて、ドルフィンスイムのボランティアを始めました。

ドルフィンディスカバリーセンターでのボランティア。一番左がめぐみさん。

 当時、家賃を抑えるためにルームメイトを探していて、友人に紹介してもらったのが今の夫です。夫はオーストラリア人で、私は永住権のない日本人。結婚する前はビザの制限があったので、一緒に過ごすために日本とオーストラリアを3ヶ月ごとに行き来したりしていました。その間に東南アジアや南米を何ヶ月も旅したりして……そんな生活を5年くらい続けていましたね。

二人で旅したマチュピチュ

 オーストラリアで入籍した後も旅は続きました。オーストラリアという土地をもっと知った方が良い、という夫の勧めで、二人で全土を巡るロードトリップです。費用を抑えるために車で寝て料理をして、という生活を何ヶ月も続けました。資金が尽きたら各地の農園でフルーツの収穫の仕事をして収入を得ていました。今思うととても楽しかったですが、ある意味では辛さもありましたね。毎日何が起こるか分からないし、出逢いと別れの連続。ルーティーンの生活とは無縁でエキサイティングな一方で、大変。私は料理が大好きなので、狭い車内ではなく広いキッチンでじっくり料理したい! というフラストレーションもありました。
 各地をバックパッカーのように旅した後、日本に夫と一緒に帰国したのは、コロナがきっかけでした。私も夫もそろそろ日本で暮らしたいと感じていたので、ちょうど良かったです。実家のある沼田に一時的に住みながら、自分達の家を探し始めました。

海に住むつもりが、高山村の森の中の物件に一目惚れ

 海が好きなので、最初は沖縄の西表島で物件を探しました。でも、価格が高いしあまり物件もなかったんです。次に探したのは、沼田のお隣・みなかみ町。みなかみ町は外国人のコミュニティがあって、夫にとって暮らしやすいかと思いました。いろんな人に物件情報を聞いていたら、ある耳寄りな情報が入ってきました。それは、「みなかみ町の隣の高山村の物件が激安だよ」というもの。高山村は沼田の隣でもあるので、私も馴染みがあり興味が湧きました。実際に村の物件を扱う不動産屋さんのHPを見てみたら、確かに他のエリアと比べて安くて驚きました。早速問い合わせをして内見したのが、今の家です。

購入した当時の家の様子

 築15年くらいの別荘用のログハウスで、薪ストーブやバルコニー、中庭も付いているし、家庭菜園用のスペースもある。夫はもう少したくさんの物件を比較したかったみたいですが、私はここだ!って感じました。もともと、のんびりとした場所でのんびりとカフェをやりたいというイメージがあって、その夢が実現できると直感が働きました。当初は海辺のカフェのイメージだったんですが、自然を存分に感じられる森の中のカフェもいいなってすぐ切り替えができました。それで、ほぼ即決で購入しました。
 別荘用の住宅なので、冬の間も住みやすくするためあちこちリフォームしました。真冬はとっても寒いので、夫に床下に潜ってもらい断熱材を入れてもらったり。庭には大きな石がゴロゴロと置かれていたので、片付けるのにも一苦労。でも、自分達のライフスタイルに合わせて住まいを整える作業は、大変ですがやり甲斐があります。これからバルコニーのデッキはサンルームに改修したり、中庭のパティオはアウトサイドキッチンにしようかと計画中です。

室内も住みやすく改装を重ねている最中だそう

 移住してすぐに家庭菜園も試みました。が、夏場の湿気が多いみたいで、野菜がうまく育ちません。代わりに、原木舞茸を栽培してみたらとっても立派に育ってびっくり。大きくて、とっても美味しかったですよ。

人の顔と同じくらいの大きさに育った原木舞茸

 きっと、この家の環境に合った作物と栽培方法があるんですね。今年はレイズドベッドでハーブを育ててみようと思います。試行錯誤しながら、この家に即した自給自足スタイルを確立していきたいですね。

小麦アレルギー発症をきっかけに米粉料理に目覚める

 オーストラリアに住んでいる時に、恐らく小麦栽培の残留農薬が原因で小麦アレルギーを発症しました。眠れない、起きれない、やる気が起きない、だるい……という症状で、とても辛かったです。アメリカに留学していた時代から食の重要性は感じていましたが、アレルギーを発症してからさらに健康で安全な食の大切さを痛感しました。やっぱり一番は、自分の住む土地で安全に育てられた作物を食べること。そういう作物はエネルギーが違います。エネルギーのある食べ物を食べると、頭がスッキリするし、体も動く。例えば、外国産の野菜やフルーツや小麦ではなく、国産や地元のものを食べる方がベターだと思います。そういう意味では、高山村はとても幸せな食の環境が整っています。オーガニック野菜がリーズナブルに、かつ手軽に手に入るし、お米から野菜、フルーツまでいろんな作物が育てられている。こんな恵まれた環境は世界中を見ても珍しいです。
 小麦が食べられなくなったので、市販のパンが食べらません。仕方なく、米粉を使って自分のためにパンを手作りするようになりました。もともと料理は好きですが、パン作りは特に楽しいです。生地が膨らんでいくのを見ていると、菌が生きているのを感じますね。高山村に移住してからやっと自分専用のキッチンを手に入れたので、毎日料理を楽しんでいます。好きな音楽をかけながら、お酒も飲みつつ料理をする時間がお気に入り。ロードトリップをしていた時のような刺激的な出逢いやハプニングはないけれど、自分のやりたいことにじっくり集中できるこの環境が気に入っています。

車の片隅で料理していたバックパッカー時代とは違い、伸び伸びと料理ができる環境が整ったそう

 周りに私と同じ米粉のアレルギーを持つ人もいて、頼まれて米粉のパンやケーキを焼く機会が増えてきました。特に米粉のケーキは好評で、働いているコーヒー屋でもメニューとして出しています。ゆくゆくは高山村のお米を自分で製粉してパンやケーキにするのが目標です。

取材中にちょうど焼き上がった米粉パン。薪ストーブの中にダッチオーブンを入れて焼き上げる。

自宅の敷地内に色々な小屋を作り、人々が自然とつながる場所を提供したい

 今この場所は私たち夫婦が住んでいるだけですが、ゆくゆくは色んな人が出入りするような場所にしていくつもりです。カフェのオープンはその第一ステップ。他にも、瓶詰め工房や燻製小屋、夫の鍛冶工房など、いくつかの小屋の建設を計画しています。実は先日、中古の小屋を譲って頂き、夫が組み立ててくれました。

自宅のすぐ横に設置した中古の小屋。
小屋の中は意外にも広く、キッチンと客室のスペースが充分ある。

 この小屋を「ドルフィンネックレス」という名前のカフェにして、ランチ、ドリンク、スイーツを提供していくつもりです。ランチメニューは、日替わりの気まぐれ料理にしたいです(笑)というのも、その時その時で、旬の作物は違いますよね。美味しい原木舞茸がたくさん採れた日には、それを食べてもらいたいし、野菜が豊富な時は色とりどりの野菜サラダを味わって欲しい。その日に一番美味しいものを提供したいので、固定のメニューは少なめにする予定です。自然の恵みは一期一会。「ドルフィンネックレス」で過ごすことで、移り変わる自然とのつながりを感じてもらいたいです。

取材時にめぐみさんが出してくれたみかんの米粉ケーキ。しっとりとしてコーヒーによく合う。
こんな素敵なお菓子が近い将来、高山村で食べられるようになるとは、感激です。

 レイズドベッドで育てたハーブでハーブティーを作るのはもちろんですが、自家製の紅茶も出したいです。なので、お茶の栽培もしてみようかと思っていて……やりたいことは尽きませんね。高山村は家と土地が安いので、自給自足的なプロジェクトにチャレンジしやすいのが魅力だと思います。ハーブも育ててお茶も育てて小屋も作ってカフェもやって……なんて、実現できるところはなかなかないと思いますよ。一つ不満を挙げるとすれば、私たちの大好きな海が遠いところ。カフェや工房などの場所作りが落ち着いたら、リフレッシュのために海に通うような暮らしを実現したいです。

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●先輩移住者ドキュメントの連載について
移住にあたって一番知りたい、でもどんなに検索しても出てこない情報。それは、その地域の「住みにくさ」や「閉鎖的な文化の有無」、そして「どんな苦労が待っているか」などのいわゆるネガティブな情報です。本連載では、敢えてその部分にも切り込みます。一人の移住者がどんな苦労を乗り越えて、今、どんな景色を見ているのか。そして、現状にどんな課題を感じているのか……。実際に移住を果たした先輩のリアルな経験に学びながら、ここ群馬県高山村の未来を考えていきます。



取材 山中麻葉

2021年に夫と0歳の娘と高山村に移住。里山に暮らしながら、家族でアパレルのオンラインショップ「Down to Earth 」を営む。山中ファミリーの移住の様子は「移住STORY」へ。日々の暮らしやお仕事のことはinstagramへ。

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