公#2「ヴァレリーは、未来には後ろ向きで、背中から進んで行くと言ったんですが、そのリアルは、歳を取ると実感として解ります」

              「公共2」

 文化祭の二日目、教えているクラスのアトラクションを体験するために、2年生の教室に出向きました。まず、最初に向かったのは2Aです。すぐ手前の2Bのお化け屋敷に、沢山の人が並んでいました。並ぶというよりは、蝟集(いしゅう)しているといった語彙の方が、ぴたっと来ます。正直、2Aの教室には容易には辿りつけないくらい、混雑しています。人が並んでいるとこに、自分も並びたくなる、これは群集心理です。
 生徒玄関を入った昇降口のとこに、二階の渡り廊下から、垂れ幕のように、各クラスのポスターを垂らしています。2年生のクラスの中では、2Bのポスターが、もっとも手が込んでいて、すぐれていました。ポスターが優れている=実際のアトラクションも充実している、と言えます。手抜きのポスターを提出するクラスのアトラクションが、超ド級にすぐれているということは、99.99パーセントあり得ません。2Bのお化け屋敷に入りたかったんですが、列の混雑ぶりから判断して、最低でも1時間は待つことになります。優先順位的には、やはり教えているクラスのアトラクションを体験することの方が先です。2B教室の横の大混雑を通り抜けて、2A教室横の廊下に辿り着くと、客は、誰一人、待ってませんでした。お化け屋敷の奥のアトラクションだと、位置的に圧倒的に不利だと言えます。
 2Aのアトラクションはメイドカジノ。「可愛いメイドさん沢山いますよ」などと、呼び込みをしたりしますが、私が知る限り、現在、勤めている学校のメイドは、全員、男子です。それも、ニューハーフ系の男子のメイドではなく、バリバリの体育部活系の男子メイドです。調布にあるJ高校に11年間、勤めました。このJ高校のサブカルチャースピリッツは本物でした。京アニが最初に創った「フルメタルパニック」の舞台になっている聖地の学校です。文化祭のメイド喫茶は、アキバのメイドカフェより、レベルが上だと、その筋の方に褒められた(?)ことすらあるほど、メイドの水準の高い学校でした。
 2Aのメイドカジノのゲームは、トランプ、卓球、ダーツの三択。二学期がstartして、廊下の窓の横のロッカーの上に、ビニール袋に入ったダーツが置いてあるのを見かけました。的に向かって投げつけるわけですが、矢の先が鋭く尖っていました。普通、学校の文化祭だと、マグネット式のものを使います。鋭い切っ先の方が、磁石でペタっとくっつくやつよりは、本物志向で迫力はありますが、コントロールに自信がないので、まずダーツをパスしました。卓球は、どうやら机を二個か四個並べたミニ卓球。広い卓球台でも、自分の実力では、サーブが入らなさそうだし、結局、消去法で、トランプを選びました。他にお客さんは、いなかったので、私の傍には、4人のメイドさんが、ついてくれました。本当のメイド喫茶に行ったことはありませんが(キャバクラもありません)いくら豪遊したとしても、4人もメイドがつくことはあり得ません。高校の文化祭の、それも男子のメイドだからこその、過剰サービスだと多分言えます。
 トランプは、貧民ゲームでした。貧民ゲームは、普通にできます。このゲームが始まったのは、私が大学生の時です。高校生の頃は、トランプ遊びと言えば、ブリッジ(ナポレオン)でした。が、いつしか貧民ゲームが主流になりました。親ガチャと同じく、最初から、貧富の差が定まっているというとこがリアルで、それを受け入れる余地が、若者の側にもできたといった風な社会学的な分析を、私は勝手にしています。
 2Aの貧民ゲームは、ローカルルールが多すぎて、覚えられませんでした。すぐにルールを会得できる、小中学生のような柔軟な思考力をもった若い人たちでしたら、ローカルルールが沢山あっても、すぐに覚えられるし、楽しく遊べるんだと思いますが、私のような認知症予備軍とも言えるような年寄りには、複数のローカルルールは無理です。ローカルルールは、まったく覚えられず、最初に配られた手札も悪く、多分、これはビリだなと、ゆるゆるやっていたら、何となく偶然にビリから二番になりました。が、人と競争する闘争心は、もうほぼないので、ビリから二番上等!!って感じでした。
 萌え萌えキュンで、写真を撮りますと言われて、photo stageに移動しました。メイドさんが、萌え萌えキュンの指導をしてくれました。まず、両手の指で萌えハートを拵え、最初は右に、次に左、最後にハートを前に突き出してキュンします。このキュンのとこで、声を出しました。
 次に2Dに行きましたが、結構、人が並んでいたので、先に2Eに廻りました。2Eのアトラクションは、イーマックのハッピーライド。教室の後ろのドアが開いていて、アトラクションのメカニズムが丸見えでした。ローラーのついた移動できる椅子を四つ用意し、それぞれに横棒を取り付けます。そしてその横棒を、中央の心棒にくっつけています。出、横棒を人力で廻して、ぐるぐる回転するHappy Rideを体験してもらうという趣向です。
 私は、去年の文化祭で、3Aのアリスのティーパーティのカップに乗りました。それと比較すると、見た目の偏差値は、去年のアリスが75超えだとすると、今年の2Eは、35くらいでした。つまり見た目は、とんでもなくしょぼいんです。
 手の内を軽々しく明かしてはいけない、これは、男女交際の場合だって、同じことが言えます。黒板に絵を描いていて、それは、結構、凝っているんですが、室内には、工作物らしきものは何もなく、今ならすぐに入れますよと言われて、教室の中に入りました。中で、順番待ちをしている人は、何人かいました。
 教室の中には、男子もいるんですが、横棒を押して廻しているのは、私が見ている間は、ずっと女子でした。真ん中に立っている心棒のベアリングの部分が、どうなっているのかは解りませんが、横棒を押して廻す人は、相当大変だった筈です。
 私がライドするまで、4巡くらいしました。1巡目→2巡目→3巡目→4巡目と経過するに従って、等差級列的に、廻す時間が短くなっていました。ちなみに前向きではなく、後向きに廻るようになっています。ポールヴァレリーが言ったように、未来には後向き、背中から進んで行くもので、それを実践しているアトラクションと言えます。ハッピーライドのかけ声の後、傍にいたスタッフの女の子たちが、上半身だけのフリをつけて(つまりパラパラのようなノリで)踊りを披露していました。ハッピーライドに、踊りがつくのは、そこはちょっとお得感があるかもと思ってしまいました。
(to be continued)

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