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創#594「歳上の女性との恋愛は不可だと、子供の頃から、今に至るまで、思い込んでいます。これが、もし可だったら、自分の人生は、まったく違うものになっていたと想像できます。好きな先輩が沢山いて、きっと収拾がつかなくなってしまっていました」
「降誕祭の夜のカンパリソーダー331」 列車は杉で有名なO駅に到着した。O駅からバスに乗り、Sダム前で下車して、そこから西に山径を歩いて行けば、Mの家に辿り着く。が、Sダム方面に向かうバスは、昼間は走ってなかった。朝と夕方のみ運行していた。タクシーを利用するといった贅沢なことは、さすがに考えられなかった。 私は、徒歩でMの家に向かうことにした。このあたりの山径は、高校時代、Mと一緒に何回か歩いていたので、道に迷う心配はなかった。 途中に、八十八ヶ所巡り
美#102「STEAM人材のAは、アートのことで、アート的な視点を持って、人間にとって、新しい価値を創出するということらしいんですが、絵に描いた餅以上に、曖昧な言葉の文(あや)って感じがします」
「アートノート102」 2019年の秋、上野で開催されたコートールド美術館展は、開催者一推しのマネの「フォリー・ベルジェールのバー」とルノワールの「桟敷席」、ゴーギャンの「ネヴァーモア」の三つを重点的に見るつもりで出かけた。が、結果として、一番、強烈に惹(ひ)かれて集中して見たのは、モネの「アンティーブ」だった。この展覧会では、モネの「秋の効果、アルジャントゥーユ」も出展されていて、客観的に見て、アートとしての価値は、こちらの方が、より優れていると
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創#592「大学1年の時、二個下の女の子に手紙を出しました。二個下なのに、どう考えても、自分より賢いと感じる部分があって、女の子の知恵の働かせ方は、男たちとは、かなり違うなという気がしました」
「降誕祭の夜のカンパリソーダー329」 私は、高知駅から高松駅に向かう土讃線の普通列車に乗り込んで、四人掛けのボックス席の窓際に座った。大阪までフェリーで出ることが多く、土讃線に乗るのは、久しぶりだった。四国山脈の山の景色を見ることは、嫌いではなかった。が、杉や檜の植林が多く、町の近くの標高三百メートル以下の端山に登る方が、植生が豊富で、山径を歩いていても、面白かった。四国山脈の山奥にいるMに、 「しばらくゆっくり滞在して、手びねりで茶碗とかを焼いてみたら
美#101「自然主義は、科学文明と結びついて、すべて説明可能という前提に立っているような気がします。ですが、この世の中の大切なことは、だいたいに置いて、説明不可能です」
「アートノート101」 市の図書館で、「ゾラ・セレクション」という全11巻のシリーズを見つけた。私は、高校時代、ゾラの著作7、8冊読んだ。ルーゴンマカール叢書のアウトラインは、概ね理解したと思っている。ただ、もう一度、ゾラのおさらいをしたいという野望などは、一ミリもない。ゾラを通して、パリの19世紀の下層階級の生活ぶりを知り、ディケンズを読んで、イギリスの下層民の悲惨な生活を知った。 2000年に発売されたコールドプレイのファーストアルバムを聞けば、
創#591「社会人として、仕事をする上でもっとも必要な能力はコミュニケーション能力です。喋ったことのないクラスメートと喋る努力をする高校生とかって、明らかに少ないですから、まあ、やったもの勝ちだろうって気がします」
「降誕祭の夜のカンパリソーダー328」 「追手門の近くに、一杯、千円の高級珈琲専門店ができたらしい。ちょっと高いけど、行ってみると、何か得るものがあるかもしれない」と、まりさんが切り出した。 「知ってます。友だちの親戚がopenした店です。珈琲だけじゃなく、手作りのケーキもセットで千円です」と、S子は補足した。 「ケーキ込みでも、千円は高い」と、私が言うと 「圭一は、相変わらずケーキやクッキー、マフィンや羊羹などは口にしないと思うけど、それで、本当に珈琲や紅
創#590「高校時代、見るたびに違う彼氏と歩いてるMさんという先輩と、親しくしていましたが、確かに、この彼女と一緒にいたら、幸せになれるかもと、夢を見させてくれる魅力的な人でした」
「降誕祭の夜のカンパリソーダー327」 「あんな、ちっちゃな絵葉書をずっと大切にしてくれて嬉しい。S子さんは、あのちっちゃなコピーでも、『睡蓮』の美しさが理解できるわけだ。それは、それですばらしい才能と感受性だと思う。あの絵葉書が、手元に何枚かまだ残っていたので、Gのカウンターで、その絵葉書を使って、まりさんに何か、事務連絡みたいなメッセージを送ったことがあります。覚えてますか?」と、私は、まりさんに訊ねてみた。 「え、いつ?」と、まりさんは覚えてない様子だっ
創#588「私より10歳くらい年下だと推定できるんですが、朝からハイトーンで、元気良く挨拶をして、笑顔で応接している非常勤の英語の先生がいます。女性のパワーとエネルギーには勝てないなと、あらためて思ってしまいます」
「降誕祭の夜のカンパリソーダー325」 「K子には、S子という妹がいる。S子は、ごくたまにこの店にも来る。S子に、『圭一先輩は、どうしてますか』と、聞かれた。圭一は、S子のこと、知ってるの?」と、まりさんは、唐突に訊ねた。 「知ってるって、ほどではありません。K子さんの妹だとは知ってました。J中で私が3年だった時、1年生だった筈です。が、J中時代に喋ったことはないです。というか、今に至るまで、会って話したことは一度もありません。高専の寮にいた頃、3回、手紙を
創#587「人脈がどっさりと言った先輩を結構、見ましたが、それはそれで、大変そうでした。自分は、狭く、深くで、まあ自分のキャラに合った人付き合いだったと思っています」
「降誕祭の夜のカンパリソーダー324」 「健康的なカフェのママなんて、初めて言われた。でも、中学時代と較べると、確かに健康的。圭一は、通りすがりの旅人だから、気がついてないかもしれないけど、あたしたちの故郷は、今、どんどん老人化している。中学生の女の子が子供を産んで、ヤンママになるとかって、あたしの周囲には、ざらにあったけど、もうそんな話は聞いたことがない。若い子が、恋愛とかsexとかを気軽にしなくなった。ゲイとか、レズの恋愛も増えた。だから、子供が次々に生
創#586「大学1年の夏、一個上の先輩のM子さんに、『あんたは、中学校で転校して来た時から、通りすがりの旅人だった』と言われましたが、人生をトータルで見ると、確かにそうだったなと、納得してしまいます」
「降誕祭の夜のカンパリソーダー323」 まりさんの店は、K川に向かう道路沿いにあった。看板には、「Marie」と店名を掲げてあった。アルファベットの最後のeは、女性名詞につける無音の語尾で、これでマリと読ませるんだろうと想像できた。 もう夕暮れが迫っていて、店内にお客さんはいなかった。 「すみません。もう店じまいしてます」と、まりさんは、洗い物をしながら言った。 「でも、紹介状持参です」と、私はO先生が書いてくれたメモをカウンターに置いて、カウンター席に
創#585「300人くらいの生徒の作文を、睡眠時間を削って、丁寧に読んで、一枚一枚、コメントを書いていた時期がありました。還暦を過ぎて、物理的にそれができなくなりました。還暦を境に、人は老いの世界に、自然に入って行くんだと思います」
「降誕祭の夜のカンパリソーダー322」 「生徒の絵を見ることは、嫌いではないが、枚数が多すぎる。オマエも知ってる通り、J中では、中二で美術が必修だ。花でも果物でも、風景でもいいが、全員に絵を描かせると、ひとクラス50人だから、350枚の絵を見ることになる。描かせた以上、それを評価しなければいけない。それなりに丁寧に見て、一人一人に簡単なコメントを書くとすると、どうしても一人五分くらいは、時間が必要だ」と、O先生は私に言った。 「350枚だと、1750分、約3
美#99「歳を取ったら、日本の古典を読んで、仏教美術に没頭するだろうと、勝手に想定していたんですが、今は、19世紀のフランス絵画を見て、フランス語のおさらいをし、ボードレールなどを、少しずつ、読んでみようとしています。老後になっても、人生がどうなるか全然、見えてなくて、まあ、そこがちょっと楽しかったりもします」
「アートノート99」 昨日、吉祥寺の駅ビルの階段を上がって、中央線の改札口に向かっている時、「Can't take my eyes off you」の曲が聞こえて来た。高校の吹奏楽部が、新入生歓迎ライブで演奏しそうな曲だから、季節でいうと、春の今ぐらいの時期のBGMだと言えるのかもしれない。日本語のタイトルは「君の瞳に恋してる」。上手い訳だと感心する。今から70年くらい前の1950'sの翻訳者たちの方が、今よりずっと英語力は、すぐれていたんじゃな
創#584「中1、2の頃、一個のグラスのレモンスカッシュに、二本のストローをさして、男女で飲むのが、juvenileの恋の典型なsceneだと思ってましたが、生涯、そんな経験もせず、過ごしてしまいました」
「降誕祭の夜のカンパリソーダー321」 「自分は美術の教師だ。自分自身には、絵やデザインを描いてプロになれるだけの才能はない。だから、中学校の美術の教師になった。『でもしか教師』という言葉が流行ったが、オレなんか典型的な『でもしか教師』だ」と、O先生は、冷静な口調で言った。 「が、先生は偽善的な説教は、一切、しません。先生が生徒に説教を垂れているのを、見たことがないです。それだけでも、立派だと思います。不倫をしていることが、生徒にだってバレているのに、何ごと