自#434「美味なものを食べていたら、戦争に勝てません。実際の戦争だけじゃなく、受験戦争とかも、きっと同じです」

        「たかやん自由ノート434」

 カエサルは、40歳くらい頃は、まだ多くのローマの政治家の一人に過ぎませんでした。どこかの属州で閑のあった時
「アロクサンドロスは、20代で、すでにあれほど多くの民族の王になっていたのに、自分はこの年齢(41歳)で、まだ何ひとつ華々しいことを成し遂げてない」と、嘆いたそうです。アレクサンドロスは、マケドニアの王室のプリンスでしたから、父親が亡くなったあと、20歳で王になりました。ロイヤルファミリーですから、血筋で王になれます。
アレクサンドロスに較べると、いくら名門出身と言っても、カエサルは、所詮、叩き上げです。30代でローマの財務官や法務官に就いていますし、出世は早い方ですが、そもそも、共和政ローマの市民は、システム上、誰も王にはなれません。カエサルは、40代で、ガリア遠征をして、50代でローマの覇権を握ります。

 今のアメリカ大統領は、70代の後半。日本の首相も70代前半。現代の政治の世界では、50代は、まだ若手って感じですが、それは人生百年時代と言われて、長生きできるようになったからこそ、言えることであって、平均寿命が短かった古代ですと、50代はすでに晩年です。政治家の場合、晩年になって活躍する方が、大半です。年功序列的な慣行もまあ、あると思いますが、政治家の資質は、天性のものと言うよりは、人生の疾風怒濤の試練の中で、磨き抜かれて行くものだと推測できます。それなりの場数を踏んだ、ゆたかな経験値のようなものが、要求されています。カエサルは、ガリア遠征で、分厚く、逞しい経験値を築き上げます。軍人として苦労すれば、政治家としての資質も向上し、政治家としてローマの政界で活躍すれば、軍人としての指揮能力はさらにupすると、ローマでは考えられていました。ですから、政務官と軍務の両方をこなすことが、求められていました。だいたいどこの国でも、軍人(指揮官)は職業軍人で、軍務だけに専念していましたが、ローマは、政治家から軍隊のトップに横滑りしました。一種のシビリアンコントロールです。帝政の末期は崩れましたが、共和政時代、帝政前期は、このやり方で、広大なローマ帝国を統治していました。やはり、古代ローマは偉大です。

 カエサルは、軍務に関しては、政治よりも熱い感じがします。屈強無敵な働きをする部下も沢山います。たとえばアキリウスは、マッシリアの海戦で敵艦に乗り込み、剣で右手を斬り落とされても、左手の楯を敵に投げつけて、悉く潰走させ、その軍艦を占領しました。矢で片目を射られ、肩にも腿にも投槍を受け、楯にはおびただしい矢を浴びているのに、二人の敵が近づくと、剣で一人の肩を斬り落とし、もう一人の顔に打ち込んで追いやり、無事、生還した部下もいます。

 カエサルは、てんかんの持病があり、身体はやせ型で、皮膚も白く、身体的には元来、病弱だったようです。が、軍務に励むことが、病弱を克服する療法だと考えていました。止む間のない行進に質素な食事。打ち続く夜営。こういう艱難によって、病気と闘い、身体を強健に保とうと努力します。移動中の車の中で眠って、休憩時間には、あっちこっちを視察して、部下を励まします。動く車の中で、物を書取る練習ができている奴隷を一人乗せて、命令書などを書かせます。馬術は、子供の頃から得意だったそうです。両手を背中で組んだ姿勢で、馬を全力で走らせることもできます。馬に乗りながら、手紙の文句を口述して、馬に乗って傍に控えている書記に、書き取らせたりしていたようです。ガリアにいた間は、頻繁にローマの友人たちに手紙を書いて、コミュニケーションをしていました。

 私は、馬に乗ったことはありませんが(鳥取砂丘に行った時、ラクダに3分間くらい乗ったくらいです)馬に揺られている状態で、文章のアイデアやネタが、出て来ると言うことは、普通に想像できます。今は、余裕があるのでやりませんが、フルタイムで教職に就いていた頃、とんでもなく忙しい日は(文化祭とか夏の大会の時とか)電車に乗っている時に、毎日のノルマの2000字を原稿用紙に綴っていました。無論、スタンディングです。朝の上りの中央線は混み過ぎていて無理ですが、他の路線ですと、立ったまま原稿用紙に字を書くくらいの余裕のスペースはありました。窓の外の景色は流れて行きます。周囲には、通勤・通学途上のいろんな人がいて、刺激も受け、なおかつ電車が揺れているのも、ある意味、心地良いので、スタバやエクセルで書くよりも、楽に書けると感じました。ただ、字が普段よりさらに汚いので、そう間を置かず、すぐにワープロに打ち込まないと、自分の字が判別できなくなります。学校に到着して、職員室のパソコンのキーボードを叩いて、打ち込んでいました(当時は、授業で配るプリントの原稿でしたから、学校のパソコンを使っていました。今は、プライベートなnoteなので、自宅のパソコンで、朝、登校する前に打っています)。

 スパルタが強かったのは、いろいろ理由がありますが、ひとつの大きな理由は、美味なものを食べなかったことです。七歳以降は共同生活で、結婚しても、食事は共同食事でした。この食事が、早く死にたいくらい不味いんです。パリ大学神学部の寮の食事も、途方もないレベルの不味さでした。こんな不味い食事を食べるくらいなら、早く、神様に召されたいと思わせてくれる超劣化版の食事です。インドには、食事をまったく摂取しなかった聖者が、かつてはいたと言われています。食事以外の何らかの方法で、エネルギーを生み出す仕組みが、きっと備わっていたんです。とにかく、美味なものを食べない、これが強い軍隊を造り上げる大切なポイントだと想像できます。カエサルも部下も、当然、質素な食事をしています。カエサルが、50代でローマのトップに成り上がることができたのは、美味なものを食べないし、奢侈な生活に流されたりしなかったからってとこも、確実にあると私は想像しています。

 食事だけでなく、眠るとこも劣化した場所で、平気でした。ある時、貧乏な小屋で一夜を過ごすことになって
「必要な事柄は、最も弱いものに譲るべきだ」と言って、部下を部屋で寝かせて、カエサルは、入り口の軒の下で眠りました。まあ、こういう姿勢だと、確かにどんどん強くなって行けるような気がします。

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