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”同質化”こそがトライアルを生む?

 この3商品、とってもよく似ていますよね?

 お酒好きな人はわかると思いますが、これはPB(流通のプライベートブランド)が、売れ筋のNB(ナショナルブランド)に似せてつくったものでなく、キリン・サントリー・サッポロという大手酒類メーカーが「新ジャンルビール(またはビール、発泡酒に次ぐ”第三のビール”と言われている)」カテゴリーに投入した商品を並べたものなのです。

 この新ジャンルビールでは、キリンが投入した「本麒麟」が大ヒットし、話題になったのは記憶に新しいところです。そのポイントは真っ向勝負の「味」。つまり麦芽比率が高いビールと比べると「品質・味が劣るのでは?」と認識されがちな新ジャンルビールの味覚領域でイノベーションを起こし、一大ヒットになりました。

 この「本麒麟」の大ヒット後に、サントリーから「金麦ゴールド・ラガー」が導入されるのですが、その際に私も含めて、多くの方は「このパッケージ、本麒麟にずいぶん似てない?…」という印象を持ったのではないでしょうか。さらに、「金麦ゴールド・ラガー」に続いてサッポロビールの「麦とホップ<赤>」も導入され、冒頭の写真のような状態になったわけです。さて、この状況、どうみるべきなのでしょうか?

 ブランディングのセオリーからすると「競合と明確に違うと認識されない商品を出すこと=市場での存在価値意義がない=失敗する」ということになるかもしれませんが、今回もそうだったのかというと、私は少し違う見解を持っています。

 そもそも「新ジャンルビール」の共通のカテゴリー課題は「ビールと比べると新ジャンルビールは”味覚・品質で劣る”」という認識の改善です。その課題解決のために、各社とも長年にわたり「新ジャンルのビールは、あたかもビールのようにおいしい」という訴求を繰り広げてきたのですが、正直なところ「いくら頑張っても新ジャンルビールは、ビールにはかなわないよね」という認識の生活者は多かったと思います。

 そんな状況の中、生活者の固定概念を覆したしたのが「本麒麟」の登場。企業の自信を感じさせるネーミング、印象的な赤パッケージ、醸造(熟成)へのこだわりなど「従来の新ジャンルビールとは違うのでは?」という期待感を持たせる強烈な存在感がありました。そして実際に「本麒麟」を飲んでみて、多くの生活者の間に「実は進化版の新ジャンルビール(=本麒麟)は品質が向上していて、ビールと大きな差はない」という認識が生まれ「どうせ同じぐらいのおいしさなら安いほうがいい」といって本麒麟のヒットにつながったのだと思います。

 このような状況の中、金麦ゴールド・ラガー、麦とホップ<赤>のブランド担当者がどのようなことを考えていらしたのか。本麒麟への大量流出が起こりかねない危機だったと思うのですが、私は以下のようにお考えになったのではないかと、勝手に想像しています。

●ブランディングのセオリーで行けば、競合との差別化は必須だが、絶好調の本麒麟と差別化しても、自ブランドを選んでもらえないリスクが高い
●むしろ本麒麟と同調して「進化版の新ジャンルビールの1つ」として生活者の頭の中にポジションすることで、従来の課題であった「他社にも”進化版・新ジャンルビール”があり、それらはビールと変わらないだけの品質・味」という認識を獲得する
●これで長年の課題を解決しつつ、喫緊の課題である「本麒麟」への流出防止にもなる。まずはこの手を打ち、ブランド間の差別化はその後で実施していく

この仮説が正しいかはわかりませんが、金麦ゴールド・ラガーも好調のようです。次のステージは「差別化」となり「本麒麟」は「品質面での本格感」を伝えるために、セレブリティーが認めたという”情緒面”と、モンドセレクション受賞などの”ファクト面”の双方で、優位性維持のアプローチをし始めています。これへの他2社の対策がどうなるか、今後の動向が楽しみです。


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