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おそるべき老年モテ映画、『さらば愛しきアウトロー』

おそるべき老年モテ映画でした。ロバート・レッドフォード、82歳。スターである自分への揺るぎない自信がすごい。何しろ、全編・全カットで、躊躇なくかっこいい。「すべての演出が主演の魅力を引き出すことに奉仕しているジャンル」をスター映画と呼ぶならば、本作こそ純度100%のスター映画だと思います。で、この俳優引退作を、自分でプロデュースしているところがまたすごい。

主人公は、生涯一度も発砲することなく、16回の脱獄と銀行強盗を繰り返したという実在のアウトロー、フォレスト・タッカーです。オープニングに「ほぼ真実の物語」と注釈が出ますが、この「ほぼ」の部分をどう膨らませるかが作り手の腕の見せどころなわけで、当然のことながら劇中では、思いきりレッドフォード好みの老人に造形されています。

とにかく粋で、スマートで、何より自由を愛するジェントルガイ。強盗の手口から服の着こなし、女性との会話、お店の選び方まで、すべてにスタイルがある。93分という適度な尺のなかに、レッドフォードの決め顔、決め台詞、決めショットが詰め込まれています。そして、顔こそ皺クチャゃになったけれど、それがいちいち映画的に成立していることに新鮮な驚きがある。

少なくとも私は、心の中で「よくもまあ」「ぬけぬけと」と呟きながらも、たいへん楽しく観ました。後半の山場でものすごく有名な曲が流れるのですが、その雰囲気がまた彼の美学をこのうえなく象徴していて、思わず微笑んでしまった。続くシーンで主人公が取る行動も「まじかいな」というぐらいレッドフォード的だったし。もしかしたらこの辺りのイカニモ感は、『明日に向かって撃て!』へのオマージュ、あるいはセルフ・パロディなのかもしれませんが。

主演俳優が80歳を超えていること。実在の犯罪者をモチーフにしていること。そこに演者の「こう見えてほしいオレ像」が色濃く投影されているところなどは、クリント・イーストウッドの『運び屋』との共通点も感じさせます。ただ、どこか「枯淡の皮をかぶった」感じがあった『運び屋』に対して、本作は映画らしい「華麗なる嘘」に徹している気配があって、私はこちらの方が好みでした。

長らくアメリカ映画を体現してきた二枚目俳優への敬意は、たぶん『さらば愛しきアウトロー』という邦題にも込められているのだと思います。原題は「The Old Man & the Gun」。私自身はさらっと「老人と銃」みたいな直訳もよかった気がしますが……それだとやっぱりお客さんを呼べないのかな?

主人公と親密になる老ヒロインが、シシー・スペイセク。強盗を追いかける地方刑事が、ケイシー・アフレック。共演者もそれぞれによかった。監督は、昨年観た『ア・ゴースト・ストーリー』が素晴らしかったデヴィッド・ロウリー。ルックはクラシカル、80年代初頭を舞台にした美術も隙がなくて、すこぶるグッド・フィーリンです。

最後に、本筋とは関係ないネタバレをちょっとだけ。

劇中、イイ感じでキンクスの「ローラ」が流れて、気分が上がります。あとは、主人公の強盗仲間の一人をトム・ウェイツが演じています。バーのカウンターで主人公と並んで「子どもの頃、継父に銃で撃たれそうになった」身の上話をするシーンがあるのですが、その語り口がそのままトム・ウェイツの曲みたいで、短いけれど独壇場という感じでした。それにしてもトム・ウェイツって、思い出したように脇役で映画に出てますが、作品の選び方が独特というか、不思議ですよね。7月12日公開。


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