親知らず占い §1.2

 甲高い合成音声が、モニターの脇につけられたBOSEのスピーカーから聞こえてくる。それに、金管楽器をベースとした、エキゾチックBGM。さっきまで胸と脇腹に取り付けられていた心拍計のせいか、自分のあらゆる身体感覚が敏感になっていて、血流が早くなり、目が見開かれるのを感じる。微かに漂う、消毒液の香り。

 金色の輪っかの周りには梵字が12個、ぐるっと取り巻いており、ちょうど時計の文字盤のような形になっている。佐藤は干支を表しているのだろうかと思っていたが、世界史は苦手だったので干支が古代仏教に由来しているかどうか怪しいとも思っていた。

「ヨンホンメノ、ハノカタチデ、アナタノ、ウンメイワ、スベテ、キマリマス」

 画面に、これまで抜いた歯の精巧なCGが浮かび上がる。佐藤の親知らずはどれもこれもいびつな形をしていた。あるものは一本だけ歯根が大きく平らで、上下が分からないくらいだったし、あるものはタコのように方々に広がって顎に引っかかっていたし、あるものは脇にちょこんと小さな棘のような骨が生えていた。三つめのやつについては佐藤は勃起したペニスのようだと思った。先端が少し膨らんで亀頭のようなディテイルもついていた。女医もおそらく同じことを思ったのか、「すみません、これが引っかかって中々取れなかったみたいです」という顔は少し恥ずかしそうだった。瞳孔もやや開いていたから興奮もしているようでもあった。

 これまでの3本の歯はそれぞれ曖昧な占い結果を出されていた。

 ・一昨日に向かって走れ、されば汝救われん(上下逆さの歯)
 ・次の山には心してかかるべし(タコ足の歯)
 ・11時が最良の時、19時が最悪の時(ペニス付きの歯)

 どれもこれも、佐藤には理解しがたく、それでいてイミシンな雰囲気があって、佐藤はモヤモヤとこの占いのことが頭から離れないのだった。顎をゴリゴリと削った痛みとともに、頭のなかに居座り続けていた。

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