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編集者に好奇心は必要か問題

編集者に好奇心は必要でしょうか?

はい、必要です。

「これって本当はどうなんだろう?」「あの人に話を聞きに行きたい!」「これについての真相を知りたい!」

そういう好奇心は編集者の武器になります。好奇心は必要です。

以上。

と、このnoteを終えてもいいのですが、それではあたりまえすぎますよね。

編集者に必要なもうひとつの要素

編集者にはもうひとつ必要な要素があると思います。

それは「冷めた目」です。

冷めた目というのは「こんなものおもしろくないよ」「ぜんぜん興味がわかないや」という視点です。

好奇心が旺盛な人が陥りがちな罠がここだったりします。

自分は好奇心が旺盛で、なんでも「おもしろい!」と思えるのだけど、一方で読み手というのは好奇心が強い人ばかりではありません。というより、大半が冷めていると思っておいたほうがいいでしょう。

編集者やライターがおもしろがって内輪で盛り上がっていても、読者にはぜんぜん響かなかったり、まったく興味を持ってもらえないことはよくあります。

よって、取材のときや文章を生み出すときは好奇心全開でいろんなことを聞いて熱をこめて文章を作り上げていけばいいのですが、それを発表するときは一度「冷めた目」で見直してみないといけないと思うのです。

「こんなもの誰も読まないんじゃないか」

ぼくもこれまでいろいろ本を作ってきましたが、取材対象の方にお話を伺うときは「好奇心のスイッチ」を全開にします。幼少期のころの話から学生時代の話、ご両親やご兄弟の話など根掘り葉掘り聞いていきます。

そうして原稿ができあがっていくのですが、いざ編集の段階になると急に冷めた目になります。

「こんなもの誰も読まないんじゃないか」「おもしろいと思ってるのは自分だけなんじゃないか」と思うようにする。(というか、本気でそう思って怖くなります。)

そして、そんな冷めた目で見たときでも「おもしろい」「役に立つ」と思えるレベルにまで高めていきます。冷めた目で見ながら「なーんも興味ねーや」と思うような人でも手に取りたくなるように仕上げていくわけです。

編集者に好奇心や情熱は必要です。それがあるから、取材も深いものになり熱のこもった文章が生まれるわけです。しかし一方で考えなければいけないのが「読み手はそこまで興味がない」という事実なのです。

SNSでの発信は、渋谷の交差点で他人に話しかけるようなもの

ぼくはnoteを書くときも、思いを込めて一気に作り上げた文章をいったん冷静な目で見るようにしています。

「好奇心がそこまでない人でも読みたくなるようなものか?」「自分にしか興味がないような人でもクリックしたくなるようなものか?」といつも考えています。

ぼくがSNSで発信するときは渋谷の交差点でまったく知らない人に話しかけるところを想像します。

自分とは関係のない、利害関係のない、無関係な人たちが行き交う交差点。そこでいきなりぼくが「政治の問題点というのは選挙制度に起因すると思うんですよね」などと話し始めてもチラッと見られてスルーされるだけでしょう。もしくは怪訝な顔をされてしまう。

一方で「お金持ちには共通点があるんですよね」とか「ぼく、編集者なんですけど、文章力を上げるためのコツがいくつかあるんですけど」と話し始めたら「ん? なんだろう?」と一瞬立ち止まってくれるかもしれません。(実際にやったらヤバい人ですが……あくまでイメージの話です。)

自分とはまったく無関係な人でもパッと振り向いてくれるような文章かどうか。そこを冷静になって考えてみるといいかもしれません。

「ふつうの人」だからこそできること

ぼくは編集者という職業をやっていますが、そこまで好奇心が強いほうではありません。

わりと世の中を冷めて見ていますし、あんまりいろんなところに首を突っ込んでいくような人でもありません。飽きっぽいし、オタクでもありません。『鬼滅の刃』すらハマれません。ごくふつうの人間だと思っています。

ただ、だからこそ「こんな好奇心もなく冷めたふつうの人でも振り向くようなものは何か?」という考え方ができているんだと思います。

ぼくがタイトルをつけるときは、ベタでわかりやすくてノウハウ色の強い「味付け濃い目」のものにしがちです。いい悪いはおいておいて、それは「冷めた自分でもこれならクリックするだろうな」と思っているからです。

ヒットを生み出せる人は好奇心コントロールがうまい

ヒットを生み出せる人は「好奇心のコントロール」ができる人と言えるかもしれません。

インプットのときはアンテナを高くして好奇心をマックスにする。でも、それを多くの人に伝えるアウトプットの場面では、あえてアンテナを低くして、好奇心の少ない人にも届けられる。

この「マニア」と「無関心」の行ったり来たりができる人がヒットを出せるような気がします。

『嫌われる勇気』の編集者である柿内さんはこんなことを言っていました。

原稿を触っているときはものすごく没入して「これ、めちゃくちゃすごい! 世界が変わるんじゃないか!」と興奮する。でも次の日の朝には「こんなもの誰も読んでくれないんじゃないか」と不安になる、と。

好奇心の強い人が編集者に向いている、というのは一般論だと思いますが、一方で「これほんとはつまんないんじゃないか……?」「誰にも読まれないんじゃないか……?」とビクビクするメンタルも必要なのかもしれません。

というわけで今日は、「好奇心」は編集者の武器になる一方で「冷めた目」で一度見直してみることも必要という話をしました。

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