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Dear Mr.Songwriter Vol.8

佐野元春の音楽的ルーツを辿る旅 1


音楽的ルーツの系譜を辿る

さて今回のDMS Vol.8は趣向を変えて楽曲から(今回は初期3作品)感じとれる音楽的なルーツについてです。 
 まずここで最初に触れておきたいのは、元春の特に初期の音楽性についてなんですが、60年代、70年代の英米他の洋楽ロックを聴いてきたロック通と呼ばれる人たちにとっては、元春の楽曲から見える洋楽との接点を鬼の首をとったみたいに、いわゆる◯クリという表現で片付けて、いい印象を持たれていない方も一部ではありますがいると思います。そして、そういう方達の言葉を受けて、実際に複雑な心境になった事も経験しました。まぁそういう方達に関しては"わかっちゃいないぜ、まったく"と内心思っていましたが。自分の場合いわゆるその方達が類似していると指摘するアーティストは、元春の音楽に触れた後に経験しているので、ここら辺でまた話は違ってくると思うのだけれど。

 さてここで重要なのはそこにリスペクトがあるのか、そして音楽的なルーツはどんなものなのか、スタイルではなく、スピリットがあるのか、そこのところを理解して楽しむという事の方が健全な聴き方なんかじゃないかと思っています。
"愛情にあふれた引用は、イコール、最上のオマージュなのである"(木村ユタカ)
※オマージュ hommage フランス語 意味 尊敬、敬意、賛辞

新しいオモチャの作り方 コステロの場合

話しはそれますが、少し前に印象に残った出来事がありました。オリヴィア•ロドリゴのデビュー•アルバム『SOUR』収録の「brutal」の冒頭部分が1978年リリースのエルヴィス•コステロの「Pump It Up」に類似しているという指摘です。こちらのオリヴィア•ロドリゴさんはあまりよく存じてないんだけど、自分の意図なのか制作陣の方針だったのかは当事者しかわかりませんが、そこに愛と尊敬の念があったかどうかなんかじゃないかと思います。ここで重要なところは、それに対してのコステロのコメントです。

Olivia Rodrigo 「brutal」2021

Elvis Costello & The Attractions
「Pump It
UP」1978

私は気にしないよ。そうやってロックンロールは機能するものだ。別のスリリングな曲から一部を取り入れて、新しいオモチャを作る。私もそうやったものだよ。

エルヴィス•コステロ2021年7月28日Twitterの返信

そしてそのツイートにチャック•ベリーのToo Much Monkey Business、ボブ•ディランのSubterranean Homesick Bluesの2曲にハッシュタグをつけて、SNSにあげており影響されている事をほのめかしていた。
まぁ、ここら辺のやり取りは個人の判断なんだけど、自分はコステロ、ナイス!と感じましたね。

ロックンロールの列車に乗っていこう

そして今までのモヤモヤした気持ちが腑に落ちたのは、BS12で放送の『ザ•カセットテープ•ミュージック』でのマキタスポーツから発せられた「佐野元春とは編集者(エディター)」である。という言葉。それは何かというと、その時代の空気を敏感にキャッチをし、自分なりに編集をして、作品が完成する。という解釈をしています。
 そこの部分をいや、そうじゃない、と言う人もいるでしょうし、考えはそれぞれの自由でいいって感じています。これを読んでくれている方たちは、きっと思いは伝わるのではないかと信じているけど。

 そして、元春の音楽をずっと聴いてきて感じでいるのは、よく言う列車に例えた表現です。自分なりに解釈すると、ロックンロールとは一本の線路で繋がっており、同じ列車に乗り、しかも同じ車両に乗り、進んでいく。そして聴き手にも委ねられてある。その列車に乗るのか、乗らないのかは、君次第って事だ。君はどうする?僕は行く、先に行くよ、ごめんね!

 では今回は二人の人物について探っていこう。

ボブ•ディラン 

やっぱりまずはこのお方、ボブ•ディランこと本名ロバート•ジンママン先生。「ディランの詩を通してアメリカというものを勉強した。歴史の勉強でいろんな年号を覚える時に、僕はディランの誕生した1941年をいつもゼロにおいてやっていた。ディランが何歳の時に公民権運動があったとか」この様な発言もある事から若き日の頃のアイドルであった事は間違いないようです。歌詞に関して感じる事は、アイロニー(皮肉)とボヘミアン(放浪)という表現方法だろう。デビュー•アルバム収録の「プリーズ•ドント•テル•ミー•ア•ライ」を取り上げてみよう。"君の後に影ができる 一度 影の中を のぞいてみな" それから "きっと雨が君を濡らすだろう 君のタオルは小さすぎて 濡れた身体をぬぐいきれないだろう" この皮肉ともとれるフレーズはディランの歌詞に見え隠れするものだと感じている。そしてディランとも関わりが深いビート•ジェネレーションの詩人を経由しているのは、「君をさがしている」の"片手には宝石 もう片方の手の中では 狂暴な情熱が吠えはじめている" この一節はビート文学を読んだ様な錯覚に陥るほどの感覚があります。
 ボヘミア的な表現は、「ダウンタウンボーイ」かな。"Boyfriend Girlfriend 大切なMy Friend あの輝きは かえらない いつまでも お前にキスしていたいのに"のフレーズは、もうここにはいられない。ここではない何処かへ行ってしまうというような感覚があります。後の作品だと「ワイルド•ハーツ」「君が気高い孤独なら」などあると思いますが、それは別の機会で。
 そして「SOMEDAY」曲の最後のシャウトですね。

Bob Dylan Just Like a Woman 1966

"Now We Are Standing Inside The Rain Tonight" 私たちは、今夜雨の中に立っている この一節はディランの「Just Like A Woman」の最初のフレーズ"Nobody feels any pain Tonight as I stand inside the rain」"誰もくるしみを感じない 今夜こうして雨の中に立っている"
これに対して元春のコメント。

不意に、どこかから僕の身体に降りかかってきた。予期しないまま、打たれたように、僕はそのフレーズを歌っていたんです。あとから録音したものを聴いて、なかなかおもしろかったので、そのまま残すことにした。もしかしたら、自分では意図しない、何か大切なことを表している言葉かもしれない、と思って••••••。

時代をノックする音 佐野元春が疾走した社会 山下柚実

ここの部分は『20th Anniversary Edition』に収録しているテイクはフェイドアウトが長めになっているので気になる方は聴いてみてくださいね。 
 サウンドに関して初期3作品の中では、直接な関係性はない様に感じています。あえてフォーキーな音楽性は出してないんじゃないかな。ディランを経由したフォーク•ロックはありましたが。「コンプリケーション•シェイクダウン」は「サブタレニアン•ホームシック•ブルース」をその当時の時代に反映して作ったなんて発言もありました。少し時代は流れますが、97年リリース『The Barn』収録の「誰も気にしちゃいない』2017年リリースの『Maniju』収録の「朽ちたスズラン」などもフォーク•スタイルと歌詞の面でディラン的とも言えるのかもしれません。

ブルース•スプリングスティーン

さて、お次はボスこと、スプリングスティーンです。

ブルース•スプリングスティーンの歌を聞くということは、僕にとってはグッド•テイストなアメリカのコラムを読んでいるような感じなんだ。彼の書いたストーリーを聞き、そして僕はいろいろな映像を思い浮かべる。

ハートランドからの手紙 佐野元春 1990年

ここで言及しているのは、詩の中の寓話性についてです。事実や感情といったものを克明にスケッチするのではなく、わかりやすい言葉を使って
寓話的に、ロマンティックなストーリーを書いている。そしてこの方法は、アメリカのフォーク•ソングの伝統であり、あるストーリーを寓話にまで引き上げて、ある種の普遍性を持たせるテクニックだと言う。そしてこの寓話の中に「僕」や「私」ではなくニックネームを使う手法。例えば"ジェニー"(「夜の精」)'サンディ"(「七月四日のアズベリー•パーク」)など、これを元春に当てはまると"クレイジー•プリティ•フラミンゴ"(「ガラスのジェネレーション」)"ハニーチェリー"(「ダウンタウンボーイ」)など。その登場人物に代弁させることによって、聴き手のイメージを膨らませる事ができる。

 彼から影響を受けたというよりも、僕は彼のソングライティングの手法を学習している、訓練している。ひとりのソングライターとして、グッドソングを書きたい。みんなに愛されるグッド•ソングを残していきたい。この思いは昔も今も変わらない。いろんな自分の詩の中で、いろんな表現にトライしていっているんだ。

ハートランドからの手紙 佐野元春 1990年

サウンドについては、まず「アンジェリーナ」と「明日なき暴走」。

君は天然色」のイントロのコード「EEAB」。
E→E→A→B。佐野元春の「アンジェリーナ」もそうで、その背景にあるブルース•スプリングスティーン「明日なき暴走」もそうで、その背景にはロネッツ「ビー•マイ•ベイビー」の歌い出しがあります。

スージー鈴木 2021年4月4日Twitterより

なるほど!

 そして「夜のスウィンガー」と「ロザリータ」における言葉とビートの絡み方はどうだ。

Rosalita (Come Out Tonight)1978
5:05〜6:30あたりの絡みは必見です

「ナイトライフ」と「凍てついた十番街」のサックスとピアノの雰囲気は60'sのリズム&ブルースを感じます。「ロックンロール•ナイト」と「ジャングル•ランド」の曲構成に関して言えば長尺のロック•シンフォニーとして多分に影響をうけているのがわかる。そしてよく言われる「サムデイ」と「ハングリー•ハート」ですよね。この曲に関しては、確かにイントロのピアノのフレーズとそのバックで聞こえるシャウトは元春の声?なんて感じる程ですが、全体的に見るとそんな言う程かなとは思っています。言っちゃえば「サムデイ」の方が展開が凝っていると思うし、コード進行も違うし、なんたって曲がいい。
 DMS Vol.4「SOMEDAY」を取り上げた時にラジオ•ディレクターのTさんから、イントロ部分のタム回しはこの曲を参考にしているのでは、というコメントをいただきました。(スプリングスティーンとスティーヴ•ヴァン•ザントの共作)サウスサイド•ジョニーは知ってはいましたが。この曲は知りませんでした。年齢はスプリングスティーンの一つ上、同じニュージャージー出身のアーティストですね。

Southside Johnny And The Asbury Jukes
Love On the Wrong Side of Town 1977

「So Young」のイントロはこちらを参考にしたかもですね。

Southside Johnny And The Asbury Jukes
Talk To Me  1978

Dave Clark Five Glad All Over 1964

もともと"デイヴ•クラーク•ファイヴ"のようなサックスがメインで、シティではなくあくまでもストリートに存在するアーバンなサウンドを目指していたという発言もあるように、バンドの編成が似通っているところがありますよね。
リード•シンガーとドラムスとベース、ギターとツイン•キーボード、そしてソロなどメインはサックスという布陣。
 そしてここで見てもらいたいのは、初期の元春ウィズ ザ•ハートランドとボスとE.ストリート•バンド。

PHOTO GORO IWAOKA
1981年 NHK506スタジオ
ブルース•スプリングスティーンTHE RIVER 1980年 
ライナーノーツより

これは意図していたのかわからないけど、もう微笑ましいとしかいい様がないスナップだと思います。

そしてライヴ•パフォーマンスに関しては、デトロイト•メドレーがあります。これは、60年代から活躍する"ミッチ•ライダー&ザ•デトロイト•ホイールズ"からブルース•スプリングスティーン & E.ストリート•バンドそして佐野元春 ウィズ ザ•ハートランドに継承していくロックンロールの系譜です。

Mitch Ryder And The Detroit Wheels
「Jenny Take A Ride」1966

Bruce Springsteen & The E.Street Band
Detroit Medley 1975

元春の映像に関しては、フルで演奏されるデトロイト•メドレーは残っていなく『フィルム•ノー•ダメージ』に収録されている「ハッピーマン•メドレー」そして今は入手困難かも知れませんが「The Out Takes』での「ハッピーマン•メドレー」で組み合わされているものが見る事ができます。

さて、みなさんはどう思われたでしょうか。ここら辺で今回は終わりにします。コメントと♡は随時受け付けております。最後まで読んでくれてありがとうございました。次回はその他のアーティストを取り上げますね。ではまた!
#佐野元春


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