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「次世代スマート ホスピタル202X 治療」 便移植療法編:日本医学会総会2023東京 博覧会 次世代スマート ホスピタル202X 02-07-01

スマート ホスピタルの解説は既に、「展示物から「次世代スマート ホスピタル202X 診察」を振り返る:日本医学会総会2023東京 博覧会 次世代スマート ホスピタル202X 01」で実施済みである。

便移植療法は健康な人の便に含まれている腸内細菌を病気の患者に投与する治療法である。糞便移植や腸内細菌叢移植(Fecal Microbiota Transplantation:FMT)とも呼ばれ、再発性クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)感染症、ならびに、クローン病や潰瘍性大腸炎などの難治性炎症性腸疾患等に対して欧米を中心に最近行われている治療法である。ただ、投与経路、投与量、導入回数、ドナーの選定方法など、いまだ未確立な治療法であり、日本においてFMTは数施設で臨床研究が開始されたばかりの状況で保険適用もされていない([1])。

本記事では、日本医学会総会 2023 東京 博覧会([2])の「次世代スマート ホスピタル202X 治療」における便移植療法を紹介する。

順天堂大学 医学部附属 順天堂医院 消化器内科は、「抗菌薬併用腸内細菌叢移植療法」を提唱し、2014年06月から臨床研究を開始した。

20歳以上の活動性のある潰瘍性大腸炎の患者を対象に行った本研究により、以下のことが明らかになってきた(図02-07.01,[3])。

1.潰瘍性大腸炎に対する抗菌薬併用腸内細菌叢移植療法の短期、長期間有効性。

2.腸内細菌のバクテロイデスが治療効果と潰瘍性大腸炎の病勢に関連すること。

3.患者と便ドナーの関係が兄弟姉妹であること、および、年齢差が10歳以内(同世代)であることが腸内細菌叢移植の長期治療効果を高めること。

4.抗菌薬併用腸内細菌叢移植療法による効果的な腸内細菌叢の再構築が、潰瘍性大腸炎の新たな治療法の確立につながる可能性。

図02-07.01.便移植療法。
図は基本的に参考文献3と同じ、かつ、参考文献5と同一。

順天堂大学と、メタジェンセラピューティクス株式会社は、共同研究講座を設置し、腸内細菌叢移植療法の基礎臨床的解明とその臨床応用研究を主要なテーマとし、研究を進めている。

2023年01月04日、当該共同研究講座で計画している臨床研究である「活動期潰瘍性大腸炎患者を対象とする抗菌薬併用腸内細菌叢移植療法」について、順天堂大学医学部附属順天堂医院は先進医療Bとして厚生労働省へ届出を行い、承認されたことを発表した。本先進医療を2023年01月より順天堂大学医学部附属順天堂医院にて開始した。メタジェンセラピューティクス株式会社は共同研究機関として、便ドナーのリクルーティング、便検体の管理、腸内細菌叢溶液の調製、品質管理などに係る支援業務を提供している([4])。


2023年04月19日、順天堂大学とメタジェンセラピューティクス株式会社は、「活動期潰瘍性大腸炎患者を対象とする抗菌薬併用腸内細菌叢移植療法」の臨床研究について、順天堂大学医学部附属順天堂医院にて、先進医療として第1例目となる腸内細菌叢移植を実施したことを発表した。

本臨床研究は、軽症から中等症の左側・全大腸炎型の潰瘍性大腸炎患者を対象として、抗菌薬併用腸内細菌叢移植療法(Antibiotic Fecal Microbiota Transplantation療法、A-FMT療法)の有効性および安全性を検討することを目的に、2023年01月に先進医療Bとして承認された。01月より、先進医療B「アモキシシリン、ホスホマイシン及びメトロニダゾール経口投与並びに同種糞便微生物叢移植の併用療法」として、順天堂大学医学部附属順天堂医院にて開始し、2023年03月には順天堂大学医学部附属静岡病院、金沢大学附属病院が研究参加施設として加わった。メタジェンセラピューティクス株式会社は共同研究機関として、腸内細菌ドナーのリクルーティング、便検体の管理、腸内細菌叢溶液の調製、品質管理などに係る支援業務を提供している([5])。


なお、順天堂大学 医学部附属 順天堂医院や藤田医科大学病院(1)以外の便移植療法関連研究を以下に示す。

2021年02月10日、大阪市立大学大学院医学研究科 ゲノム免疫学の植松智教授(東京大学医科学研究所附属ヒトゲノム解析センター メタゲノム医学分野 特任教授、附属国際粘膜ワクチン開発研究センター 自然免疫制御分野 特任教授を兼務)、藤本康介助教(東京大学医科学研究所附属ヒトゲノム解析センター メタゲノム医学分野 特任助教、附属国際粘膜ワクチン開発研究センター 自然免疫制御分野 特任助教を兼務)、東京大学医科学研究所附属ヒトゲノム解析センター 健康医療インテリジェンス分野の井元清哉教授らの研究グループは、ブリガム・アンド・ウィメンズ病院のJessica Allegretti博士を中心とする研究チームと国際共同研究を行い、再発性Clostridioides difficile関連腸炎患者の糞便移植治療の前後およびドナー糞便の腸内細菌叢と腸内ウイルス叢を詳細に解析したことを発表した。

米国では強毒株のC. difficileが出現しており、再発性C. difficile関連腸炎は国際的な社会問題となっている。今後、日本においてもそのリスクは増大すると考えられる。治療が非常に難しい再発性C. difficile関連腸炎に対して、糞便移植治療は非常に効果的であり期待される治療法の1つである。

しかしながら、移植に用いるドナーの糞便に関して、未だ「正常である」という定義ができていないため安全性が非常に危惧されている。そのため、近親者をドナーとすることが多く、治療法としてはとても限定的なものとなっている。

さらに、多剤耐性大腸菌を移植され死亡した例が2019年に複数報告され、現在糞便移植治療法の改善が強く望まれている。今回の一連の解析により、再発性C. difficile関連腸炎において治療標的とする菌の同定ならびに腸内細菌叢の回復機構が明らかになった。本研究は、今後の糞便移植治療の改善や代替治療の開発への大きな一歩に繋がるものである([6])。


2023年06月13日、東京農工大学大学院農学研究院動物生命科学部門の大森啓太郎准教授らの研究グループは、アニコム先進医療研究所株式会社との共同研究により、アトピー性皮膚炎の犬に健常犬の便を移植する糞便移植療法が、アトピー性皮膚炎の犬の腸内細菌叢を改善し、皮膚炎や痒みなどの臨床症状を軽減させることを発見したことを発表した。本研究成果から、アトピー性皮膚炎の犬の腸内細菌叢が健常犬と大きく異なっていることが明らかとなり、腸内細菌叢を標的とした糞便移植療法が、アトピー性皮膚炎の犬に対する新しい治療法の1つになることが期待される([7])。


私は便移植療法という発想自体に驚いた一方、腸内細菌叢に関心を抱くようになった。

とりあえず、皮膚細菌叢だけでなく、皮膚細菌叢に関しても、勉強することにする。



参考文献

[1] 学校法人 藤田学園 藤田医科大学病院.“糞便移植とは”.藤田医科大学病院 トップページ.当院について.特色と取り組み.https://hospital.fujita-hu.ac.jp/about/feature/fmt.html,(参照2024年01月01日).

[2] 第31回日本医学会総会2023東京 展示事務局.“第31回日本医学会総会 博覧会 ホームページ”.https://tsunagu-iryo.jp/minna-expo/,(参照2024年01月01日).

[3] 学校法人 順天堂 順天堂大学 医学部附属 順天堂医院.“潰瘍性大腸炎に対する腸内細菌叢(ソウ)移植”.順天堂大学 医学部附属 順天堂医院 トップページ.診療科・部門.診療科・外来部門.消化器内科.診療科紹介.消化管グループ.https://hosp.juntendo.ac.jp/clinic/department/shokaki/about/gastrointestinal/intestinal_microbiota1.html,(参照2024年01月01日).

[4] 学校法人 順天堂 順天堂大学.“潰瘍性大腸炎を対象とした「抗菌薬併用腸内細菌叢移植療法」が先進医療Bとして承認、2023年1月より実施”.順天堂大学 トップページ.ニュース&イベント.2023年01月04日.https://www.juntendo.ac.jp/news/00311.html,(参照2024年01月02日).

[5] 学校法人 順天堂 順天堂大学.“潰瘍性大腸炎を対象とした「抗菌薬併用腸内細菌叢移植療法」先進医療第1例目となる腸内細菌叢移植を実施”.順天堂大学 トップページ.ニュース&イベント.2023年04月19日.https://www.juntendo.ac.jp/news/13495.html,(参照2024年01月02日).

[6] 国立大学法人 東京大学医科学研究所.“糞便移植治療によって腸内細菌叢が機能回復するメカニズムを解明~抗菌薬投与によって起こる再発性C. difficile関連腸炎の治療に光~”.東京大学医科学研究所 ホームページ.医科研について.広報・出版物.2020年度のプレスリリース.2021年02月10日.https://www.ims.u-tokyo.ac.jp/imsut/jp/about/press/page_00068.html,(参照2024年01月02日).

[7] 国立大学法人 東京農工大学.“アトピー性皮膚炎の犬に対する糞便移植療法の有効性を発見〜腸内細菌叢が治療のカギ〜”.東京農工大学 ホームページ.大学案内.広報・社会連携.プレスリリース.2023年度 プレスリリース一覧.2023年06月13日.https://www.tuat.ac.jp/outline/disclosure/pressrelease/2023/20230613_01.html,(参照2024年01月02日).

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