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栄養ケア・ステーション:日本医学会総会2023東京 博覧会 コミュニティ クリニック 10

2023年04月22日、私は東京国際フォーラムを訪れ、一般客として、日本医学会総会 2023 東京 博覧会(以下2023博覧会)に参加した([1])。


フレイルは、海外の老年医学の分野で使用されている英語の「Frailty(フレイルティ)」が語源となっている。「Frailty」を日本語に訳すと「虚弱」や「老衰」、「脆弱」などを意味する。日本老年医学会は高齢者において起こりやすい「Frailty」に対し、正しく介入すれば戻るという意味があることを強調したかったため、多くの議論の末、「フレイル」と共通した日本語訳にすることを2014年05月に提唱した。

フレイルは、厚生労働省研究班の報告書では「加齢とともに心身の活力(運動機能や認知機能等)が低下し、複数の慢性疾患の併存などの影響もあり、生活機能が障害され、心身の脆弱性が出現した状態であるが、一方で適切な介入・支援により、生活機能の維持向上が可能な状態像」とされており、健康な状態と日常生活で支援が必要な介護状態の中間を意味する。多くの人は、フレイルを経て要介護状態へ進むと考えられているが、高齢者においては特にフレイルが発症しやすいことがわかっている。

高齢者が増えている現代社会において、フレイルに早く気付き、正しく介入(治療や予防)することが大切である([2])。

一方、サルコペニアは、加齢による筋肉量の減少および筋力の低下のことを指す。2016年10月、国際疾病分類に「サルコペニア」が登録されたため、現在では疾患に位置付けられている。サルコペニアになると、歩く、立ち上がるなどの日常生活の基本的な動作に影響が生じ、介護が必要になったり、転倒しやすくなったりする。また、各種疾患の重症化や生存期間にもサルコペニアが影響するとされ、現在は様々な診療科にまたがってサルコペニアが注目されている。

65歳以上の高齢者の15%程度がサルコペニアに該当すると考えられている。2019年時点で高齢者人口が3,589万人とされていることから、500万人程度の方がサルコペニアに罹っていることになる。なお、このサルコペニアの割合は、加齢に伴って増加すること(65歳よりも75歳、85歳で増える)、女性よりも男性で高くなることなどの特徴がある。

 筋肉(筋力)は40歳頃から少しずつ減少し、70歳を超えた頃から自覚症状を認めるようになる。もちろん、若い頃と同じような状態にまで戻ることは難しいが、筋肉は運動と栄養により改善を期待することができる。「最近、手足が細くなった」、「重たい荷物が持ちにくくなった」、「椅子から立ち上がりにくい」などの症状がある場合には、かかりつけの医師に相談して下さい([3])。


低栄養とは食欲の低下や、噛む力が弱くなるなどの口腔機能の低下により食事が食べにくくなるといった理由から徐々に食事量が減り、身体を動かすために必要なエネルギー、ならびに、筋肉、皮膚、および、内臓など体をつくるタンパク質などの栄養が不足している状態のことをいう。

厚生労働省が発表した「令和元年度 国民健康・栄養調査結果の概要」によると、65歳以上の低栄養傾向の者(BMI≦20kg/m2)は、男性12.4%、女性20.7%となっている。また、85歳以上では、男性17.2%、女性27.9%となった。すなわち、年齢が上がっていくにつれ、知らず知らずのうちに低栄養状態に陥ってしまうリスクが高いことがわかる。

また、要介護高齢者においては20~40%、入院中の高齢者においては30~50%の割合で低栄養が見られるといわれている。

低栄養に陥る、即ち、日々の食事が気づかないうちに体に必要な栄養素が不足していたり、偏っていたりすることによって身体に以下の様々な変化が起こる。

l   体重減少。

l   骨格筋の筋肉量や筋力の低下。

l   元気がない。

l   風邪など感染症にかかりやすく、治りにくい。

l   傷や褥瘡(じょくそう:床ずれ)が治りにくい。

l   下半身や腹部がむくみやすい。

また、食事量が減ると同時に水分の摂取量も減るため脱水症状がみられることもある。

高齢者にとって低栄養は健康障害に直結する。感染症、褥瘡、創傷治癒の遅延、骨格筋萎縮などが現われる。また、筋肉量・筋力や骨量が減少することにより、転倒や骨折のリスクが増加する。高齢者になると折れた骨や傷の治りも悪くなるため、痛みなどにより動くことが減ってしまうと、筋肉量・筋力はさらに低下しサルコペニアの状態になる。サルコペニアは、筋肉量・筋力が低下した状態であるため、疲れやすくなったり、活力が低下したりすることで身体活動量が低下する。身体活動量が低下することで、1日のエネルギー消費量が減って、食欲が低下し、食事の摂取量が減少してさらに低栄養となる。

また、筋量や筋力の低下に加えて認知機能の低下など精神的な面の機能低下も加わると、さらに活動量が低下し、社会的な側面も障害され、日常生活に支障をきたすようになる。日常生活に介護が必要な状態となるとますますエネルギー消費量は低下し、食事量が低下するといった低栄養となる悪循環を繰り返しながら、心身が衰えた状態である「フレイル」は進行していく。

低栄養の治療は、義歯の作製と食事の摂取量の増加である。

低栄養のケア・予防は、1日3食食べること、栄養バランスの良い食事をよく食べること、楽しい食事にし、美味しく食べること、および、栄養補助食品の利用である(図10.01,[4])。

図10.01.栄養補助食品。
森永乳業クリニコ株式会社のエンジョイ クリミール、エンジョイすっきりクリミール、エンジョイすっきり クリミール ジュレ、および、リハたいむゼリーが展示されている。
また、日清オイリオグループ株式会社の日清MCTオイル、エネプリン、および、ミニタスが展示されている。


栄養ケア・マネジメント(Nutrition Care and Management:NCM)は、個々人に最適な栄養ケアを行い、その実務遂行上の機能や方法、手順を効率的に行うためのシステムであり、厚生省老人保健事業推進等補助金研究「高齢者の栄養管理サ-ビスに関する研究」(松田・小山・杉山他,1996-1999)において確立された。

その後、2005年10月の介護保険制度改正で介護保険施設における基本食事サービス費の廃止に伴いNCMが導入され、報酬上の評価(栄養マネジメント加算)を得たことにより、それまで調理・献立に携わる職種としてみなされていた管理栄養士がNCM業務遂行とマネジメントを担う栄養専門職として位置付けられた。これは、当時、介護保険施設入所高齢者の約4割にみられた低栄養の問題や個別栄養ケアに対する社会的重要性の認識を醸成した。

一方、介護保険施設には現在もなお低栄養の高齢者が多くみられている。高田健人 神奈川県立保健福祉大学保健福祉学部栄養学科助教と杉山みち子 神奈川県立保健福祉大学保健福祉学部栄養学科教授ら(2015)の調査では、介護保険施設(特養および老健)入所者1,646名(平均年齢85.7±8.7歳)のうち、NCMの栄養スクリーニングによる低栄養状態の中・高リスク者は54.8%であった。

また、廣瀬・葛谷ら(2014)においても、介護保険施設入所者587名(平均年齢85.1±7.8歳)のうちMini Nutritional Assessment Short-Form (MNA®-SF)による評価で低栄養(Malnourished)は 25.7%、低栄養のおそれあり(At risk of malnutrition)は 57.4%と報告されている。

近年、介護保険施設では、摂食・嚥下機能や認知機能の低下などにより食事の経口摂取が困難となった中重度の要介護高齢者が一層増加しており、2015年04月の介護報酬改定では、このような高齢者が食事の経口摂取が困難となっても可能な限り最期まで自分の口から食べる楽しみを得られるよう、NCM推進のもと、食事の観察(ミールラウンド)によって多職種協働による課題の把握と解決が重視されることとなった。さらに、高齢者の「口から食べる楽しみの支援の充実」は、地域包括ケアシステム推進の一環として取り組みを進めていくことが今日的な課題となっている([5])。


栄養ケア・ステーション(Care Station:CS)は、栄養・食の専門職である管理栄養士・栄養士が所属する、地域密着型の拠点である。地域住民はもちろん、医療機関、自治体、健康保険組合、民間企業、および、保険薬局などを対象に管理栄養士・栄養士を紹介し、用途に応じた様々なサービスを提供する。

そのサービス内容は、毎日の栄養・食について、管理栄養士・栄養士が各所へ訪問し、直接的にサポートする。日々の栄養や食に関する相談から特定保健指導、セミナー講師、および、調理教室の開催まで、栄養学に基づいた様々なサービスを展開している([6])。

 

栄養ケア・ステーション®には、日本栄養士会および都道府県栄養士会に置かれている栄養ケア・ステーション®(栄養CS)と日本栄養士会が認定している認定栄養ケア・ステーション(認定栄養CS)があるが、東京都栄養士会は東京都栄養CSを紹介した。

2018年に日本栄養士会の認定制度が開始された。都道府県栄養士会が栄養ケア業務を行う適格性を確認し、日本栄養士会が認定している。

東京都栄養士会は日本栄養士会や東京都内の認定栄養CSと連携して、きめ細かく伸びやかな栄養ケアのネットワークを築き、地域住民の健やかな生活を生涯にわたってしっかりと支えることができるようにと活動している(図10.02,[7])。

図10.02.栄養ケア・ステーションは、地域での栄養ケア活動に貢献します。


私はフレイルやサルコペニアの恐ろしさだけでなく、NCMに重要性も痛感した。

また、東京都栄養士会や京都府栄養士会([8])などによる栄養ケア・ステーションの詳細も知ることができた。

私はこれからも自己NCMを続けてゆく。



参考文献

[1] 第31回日本医学会総会2023東京 展示事務局.“第31回日本医学会総会 博覧会 ホームページ”.https://tsunagu-iryo.jp/minna-expo/,(参照2024年03月14日).

[2] 公益財団法人 長寿科学振興財団.“フレイルとは”.健康長寿ネット トップページ.高齢者の病気.サルコペニア・フレイル.2023年07月14日.https://www.tyojyu.or.jp/net/byouki/frailty/about.html,(参照2024年03月14日).

[3] 公益財団法人 長寿科学振興財団.“サルコペニアとは”.健康長寿ネット トップページ.高齢者の病気.サルコペニア・フレイル.2023年07月14日.https://www.tyojyu.or.jp/net/byouki/frailty/sarcopenia-about.html,(参照2024年03月14日).

[4] 公益財団法人 長寿科学振興財団.“高齢者の低栄養”.健康長寿ネット トップページ.高齢者の病気.老年症候群.2023年08月02日.https://www.tyojyu.or.jp/net/byouki/rounensei/tei-eiyou.html,(参照2024年03月14日).

[5] 公益財団法人 長寿科学振興財団.“介護保険施設における低栄養と栄養ケア・マネジメントの課題”.健康長寿ネット トップページ.対談・特集・研究情報.特集.高齢者の食事と栄養.2019年08月06日.https://www.tyojyu.or.jp/net/topics/tokushu/koreisha-shokuji-eiyo/teieiyo-eiyocaremanagement.html,(参照2024年03月16日).

[6] 公益社団法人 日本栄養士会.“栄養ケア・ステーションとは”.日本栄養士会 ホームページ.栄養ケア・ステーション.https://www.dietitian.or.jp/carestation/about/,(参照2024年03月16日).

[7] 公益社団法人 東京都栄養士会.“栄養ケア・ステーション®について”.東京都栄養士会 トップページ.https://www.tokyo-eiyo.or.jp/care/,(参照2024年03月16日).

[8] 公益社団法人 京都府栄養士会.“栄養ケア・ステーション”.京都府栄養士会 ホームページ.https://kyoto-eiyoshikai.or.jp/station/,(参照2024年03月16日).

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