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音声分析技術を活用した認知症・うつ病早期発見システム:日本医学会総会2023東京 博覧会 コミュニティ クリニック 08

2023年04月22日、私は東京国際フォーラムを訪れ、一般客として、日本医学会総会 2023 東京 博覧会(以下2023博覧会)に参加した([1])。


音声には神経により影響を受ける成分が含まれている。

音声病態分析学とはこれまで、あまり省みられなかった音声という生体情報を用いて病態を知ろうという学問である。

音声感情認識技術は、音声に含まれる「怒」・「喜」・「悲」・「平常」(4感情)の割合と「興奮」の程度を簡単に眼で確認できる技術である。

東京大学 大学院 工学系研究科 社会連携講座 音声病態分析工学講座は、音声感情認識技術をさらに発展させ、心や身体の状態を認識する技術の開発と応用に取り組んでいる([2])。


日頃無意識に発する声には、驚くほど多様な情報が含まれている。

PST株式会社(以下PST)の最先端技術である「声の秘密を解き明かす」音声バイオマーカーは、健康管理や心身のコンディションを整え、予防・未病対策ならびに診断・検査に活用することで人々の健康づくりに貢献する。

2023年02月13日、PSTは東京大学音声病態分析学講座などと共同で、音声バイオマーカーの研究開発を行っている([3])。

PSTおよび神奈川県立保健福祉大学(神奈川県横須賀市、学長:中村 丁次)ヘルスイノベーション研究科(以下「SHI」)の徳野慎一教授は、新型コロナウイルス感染症(以下COVID-19)の患者の音声と症状を分析する共同研究の成果として、3種類の母音の発声のみによるCOVID-19の重症度判別アルゴリズムに関する論文を発表したことを公表した。本論文において、PST研究チームの大宮康宏、水口大輔およびSHIの徳野教授は、3種類の母音(「あー」・「えー」・「うー」)を数秒発声させて取得した音声データのみを用いて、COVID-19の「無症状・軽症(症状)」と「中等症1(症状)」の判別が88%以上という高い精度で可能であったことを報告した。これにより、COVID-19などの感染症のパンデミックにおける音声を用いた効率的な重症度スクリーニングに加え、呼吸器疾患の症状の有無や重症度を音声で判定できる可能性を示した([4])。

2023年05月15日、音声未病分析技術「MIMOSYS(Mind Monitoring System)®」を用いて婦人科系がんの患者様の軽度抑うつ症状を高精度で予測する機械学習モデルに関する発表が、2023年5月12日~14日で開催された第75 回日本産科婦人科学会学術講演会において、京都大学大学院医学研究科 婦人科学産科学(以下、京大婦人科産科)の婦人科腫瘍研究チームにより、JSOG Congress Encouragement Award候補演題として口演されたことをPSTは発表した。本発表の演題名は、「Usefulness of Voice-based Mental-health Evaluation System in Patients with Gynecological Cancer」で、治療前から軽度抑うつ症状を有する婦人科がんの患者は、化学療法中まで抑うつ症状が持続しやすいことがわかった。そのモニタリングとしてMIMOSYS®をベースにした軽度抑うつ症状判別を行う機械学習モデルが有用であることを示唆する研究報告となる。東山 医師らの報告によると、MIMOSYS®をベースにした機械学習モデルは、質問紙票検査PHQ-9に基づく軽度抑うつ症状をAUC 0.88、Accuracy 0.8という高精度で判別した。また、本機械学習モデルは、抑うつに関連する代謝経路を含む様々な代謝物の動態との関連性を示した([5])。


そして、SMK株式会社(以下SMK)は音声による病気・感情の分析技術、即ち、30秒程度の自由な数フレーズの音声により、潜在している脳に関係する病気や感情の分析、診断サポートを可能にする技術を開発している。具体的には、早期発見が重要な認知症やうつ病などの病気の診断支援や、ストレスや不安、疲労度など定量的に状態を検知することが難しいデータ分析も可能となる技術である。マイクが搭載された機器とネットワークに接続できる環境があれば分析が可能なため、スマートフォン、PC、および/または、タブレットでの手軽な分析が可能である。

この開発中の技術・製品の計測原理は、人の話す言葉の内容ではなく、声の韻律やスペクトル(周波数)等から音声特徴を抽出し、分析を行うものである。この技術ではAIの深層学習により、2,548個のバイオマーカーによる分析を行うため、非常に高精度な医療機器レベルの分析が可能となる。

分析モデルは、実際のドクターズ ラベル(診断データ)を元に分析アルゴリズムが作成される。

計測可能な情報において、認知機能(MCI)、うつ病、および、疲労度に関する技術が開発中で、パーキンソン病、ストレス、不安、および、高揚感に関する技術が検討中である(図08.01,[6])。

図08.01.音声分析技術を活用した認知症・うつ病早期発見システム。

2022年03月08日、SMKと国立循環器病研究センターは、Canary Speech, Inc.(以下Canary Speech)の技術を活用し、日本語の音声による認知症診断支援アルゴリズムの開発に向けた共同研究・開発を開始したことを発表した。

本研究により開発するAIアルゴリズムは、30秒程度の日本語の自由な文章の音声データで認知機能低下の分析を可能とし、認知症の早期スクリーニングに貢献する。2022年夏までに開発完了、2023年度のサービス化を予定している。ターゲットとする用途は医療診断サポートツール、認知症保険加入時のスクリーニング、および、健診機関(人間ドックなど)での活用などである。また将来的には医療機器プログラムの承認を目指している。

なお、音声による認知症診断支援アルゴリズムの特徴は、以下の通りである([7])。

・AIによる深層学習を使用して、各疾患の音声特徴の分析が可能。

・認知症の他にも、副次的にうつ病、疲労度の分析が可能。

・マイクとクラウドに接続できる環境があれば分析可能なため、普段使用しているPC、スマートフォン、AIスピーカーなど様々な機器で使用可能。


音声病態分析学という学問自体が驚きだが、開発中とはいえ音声分析技術を活用した認知症・うつ病早期発見システムにはさらに驚いた。

AI技術の賜物とはいえ、定量的に認知症・うつ病を早期発見できるようになることは驚嘆に値する。そのおかげで、こうした疾患患者だけでなく、その家族もこうした疾患に対して更に対処しやすくなる。



参考文献

[1] 第31回日本医学会総会2023東京 展示事務局.“第31回日本医学会総会 博覧会 ホームページ”.https://tsunagu-iryo.jp/minna-expo/,(参照2024年02月22日).

[2] 国立大学法人 東京大学 大学院 工学系研究科 社会連携講座 音声病態分析工学講座.“研究概要”.音声病態分析工学講座 ホームページ.http://univ.tokyo/research/,(参照2024年02月21日).

[3] PST株式会社.“PSTについて”.PST ホームページ.https://www.medical-pst.com/about/,(参照2024年02月22日).

[4] PST株式会社.“弊社PSTおよび神奈川県立保健福祉大学 徳野教授の共同研究チームは、音声による新型コロナウイルス感染症の重症度判別に関する論文を発表しました”.PST ホームページ.ニュース.2023年02月13日.https://www.medical-pst.com/news/publications/2023/02/13/2452/,(参照2024年02月23日).

[5] PST株式会社.“MIMOSYS®を用いて婦人科がんの患者様の軽度抑うつ症状を予測する機械学習モデルの有用性が、京都大学大学院医学研究科 婦人科学産科学の研究チームにより日本産科婦人科学会学術講演会のInternational Session Workshopで発表されました”.PST ホームページ.ニュース.22023年05月15日.https://www.medical-pst.com/news/publications/2023/05/15/2456/,(参照2024年02月23日).

[6] SMK株式会社.“音声による病気、感情の分析技術”.SMK トップページ.SMKが取り組むオープン イノベーション.https://www.smk.co.jp/mktsp/openinovation/voicerecognition/,(参照2024年02月23日).

[7] SMK株式会社.“SMKと国立循環器病研究センター、Canary Speech(米国)の技術を活用し、音声による認知症診断支援アルゴリズムの共同研究・開発を開始”.SMK トップページ.プレスリリース一覧|2021年度.2022年03月08日.https://www.smk.co.jp/news/press_release/2022/0308/,(参照2024年02月23日).

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