2023年04月22日、私は東京国際フォーラムを訪れ、一般客として、日本医学会総会 2023 東京 博覧会（以下2023博覧会）に参加した（[1]）。

 「がんゲノム医療」は、遺伝子情報に基づくがんの個別化治療の1つである。

「がんゲノム医療」では、主にがんの組織を使って多数の遺伝子を同時に調べる「がん遺伝子パネル検査（がんゲノム プロファイリング検査）」によって、1人1人の遺伝子の変化や生まれ持った遺伝子の違い（遺伝子変異）を解析し、がんの性質を明らかにすること、および、体質や病状に合わせた治療などが行われている。全国にがんゲノム医療中核拠点病院、がんゲノム医療拠点病院、および、がんゲノム医療連携病院が指定されており、全国どこでもがんゲノム医療が受けられるようになることを目指して、体制づくりが進められている。

 一部のがんの治療では、すでに標準治療として、がんの組織などを用いて1つまたはいくつかの遺伝子を調べる「がん遺伝子検査」を行い、遺伝子の変化に対応した薬が使われている。この様に、1つまたはいくつかの遺伝子を調べるがん遺伝子検査はがんゲノム医療に含まれない。

がんゲノム医療は、標準治療がないまたは終了したなどの条件を満たす場合に、一部が保険診療として行われている。

多数の遺伝子を同時に調べる検査である「がん遺伝子パネル検査」は、標準治療がないまたは終了したなどの条件を満たす場合に、「がんゲノム医療」として、一部が保険診療で行われている。

但し、保険診療で行われるがん遺伝子パネル検査は、①標準治療がない固形がん、および、②局所進行もしくは転移があり、標準治療が終了した固形がんの患者さんが対象である。また、検査の前に担当医が全身状態を確認する。

また、がん遺伝子パネル検査を受けても、治療につながる情報が得られないことがある。例えば、がん組織の状態によって検査が正確にできない場合、遺伝子の変化が見つからない場合、検査結果の解釈が難しい場合、適した薬剤がない場合などである。現時点で、検査を受けて治療につながる割合は10～20％と報告されている。また、治療の候補となる薬剤が研究段階の場合には使用に一定の条件がある（[2]，[3]）。

本記事で2023博覧会のテーマ展示の1つである「知りたい！がんとゲノム医療」（[4]）での展示物を紹介する。

なお、本記事は「知りたい！がんとゲノム医療」に基づくものである。

国立がん研究センター がんゲノム情報管理センター（Center for Cancer Genomics and Advanced Therapeutics：C-CAT）はパネル「がんゲノム医療とは？」（図01）などを展示することで、がんゲノム医療、がん遺伝子パネル検査、および、C-CATの取り組みを紹介した（[5]）。

イルミナ株式会社はゲノム解析漫画 「ゲノムに夢中」（[6]）の小冊子を配布することで、ゲノム解析や次世代シーケンサーを解説した。

新医療リアル ワールド データ研究機構（Prime Research Institute for Medical RWD：PRiME-R）株式会社は、CyberOncology®提供事業を紹介した。なお、この事業は医療機関等にリアル ワールド データを提供することで、医療技術の向上や安心安全な医療等の提供を支援するものである（図02，[7]，[8]）。

富士通株式会社は、HOPE LifeMark-GiMSの1つである ファミリカルテを展示した。これは、遺伝カウンセリング業務に必要な遺伝カウンセリング記録、家系図作成、および、遺伝学的検査結果の管理を支援するものである（図03，[9]）。

コニカミノルタREALM株式会社は、GenMineTOP がんゲノム プロファイリング システムを発表した。このシステムは、固形がん患者の腫瘍組織検体から抽出したDNAとRNA、ならびに、同一患者由来の非腫瘍細胞（がん細胞でない細胞。検査では、血液が用いられる）から抽出したDNAを用いて遺伝子変異情報（データ）を解析するプログラムである（図04，[10]）。

ガーダント ヘルス ジャパン株式会社は、最新のがん遺伝子パネル検査であるGuardant360® CDx がん遺伝子パネルを紹介した（図05，[11]）。

中外製薬株式会社は、ウェブサイト「おしえて がんゲノム医療」を紹介した（[12]）。

株式会社 日立製作所は、系列会社である日立ハイテク製のDNAシーケンサーである小型キャピラリー電気泳動シーケンサー DS3000を展示した（図06，[13]）。

また、エキスパート パネル支援サービスも紹介した。（図07，[14]）。

「知りたい！がんとゲノム医療」から、がんゲノム医療の最前線を知ることができた。それは非常に有意義なことである。

もっとも、がんゲノム医療は、がんの種類によって事情が異なるようである。

がんゲノム医療は、血液がんに関しては主流になる可能性が高い（[15]，[16]）一方、消化管がんに関しては、内視鏡治療ができる早期段階で発見することが非常に重要されるため、2番手以降になりそうである（[17]）。

いずれにせよ、がんゲノム医療から目を離すことはできない。

参考文献

[1]　第31回日本医学会総会2023東京　展示事務局．“第31回日本医学会総会　博覧会　ホームページ”．https://minna-expo.tokyo/，（参照2023年04月30日）．

[2]　国立研究開発法人 国立がん研究センター．“がんゲノム医療　もっと詳しく”．がん情報サービス　ホームページ．診断と治療．がんゲノム医療とがん遺伝子検査．がんゲノム医療．2022年11月24日．https://ganjoho.jp/public/dia_tre/treatment/genomic_medicine/genmed02.html，（参照2023年05月01日）．

[3]　国立研究開発法人 国立がん研究センター がんゲノム情報管理センター．“がん遺伝子パネル検査とは”．がんゲノム医療とがん遺伝子パネル検査　トップページ．よく分かるがんゲノム医療とC-CAT．がんゲノム医療とは．https://for-patients.c-cat.ncc.go.jp/knowledge/cancer_genomic_medicine/panel_test.html，（参照2023年05月01日）．

[4]　第31回日本医学会総会2023東京　展示事務局．“知りたい！がんとゲノム医療”．第31回日本医学会総会　博覧会　ホームページ．オンライン博覧会．https://minna-expo.tokyo/pages/cancer-genome，（参照2023年05月01日）．

[5]　国立研究開発法人 国立がん研究センター がんゲノム情報管理センター．“がんゲノム医療とがん遺伝子パネル検査　トップページ”．https://for-patients.c-cat.ncc.go.jp/，（参照2023年05月01日）．

[6]　イルミナ株式会社．“楽しく学べるゲノム解析漫画 「ゲノムに夢中」”．イルミナ　ホームページ．https://jp.illumina.com/destination/comic/love-genome.html，（参照2023年05月02日）．

[7]　新医療リアル ワールド データ研究機構（PRiME-R）株式会社．“PRiME-R　トップページ”．https://prime-r.inc/，（参照2023年05月02日）．

[8]　新医療リアル ワールド データ研究機構（PRiME-R）株式会社．“（お知らせ）第31回日本医学会総会博覧会展示ブースへの来場御礼”．PRiME-R　トップページ．ニュースリリース．2023年04月28日．https://prime-r.inc/newsrelease/616/，（参照2023年05月02日）．

[9]　富士通株式会社．“Fujitsu ゲノム ソリューションHOPE LifeMark-GiMS”．富士通　ホームページ．サービス．業種／業務．ヘルスケア ソリューション．ソリューション メニュー．病院様向けソリューション．https://www.fujitsu.com/jp/solutions/industry/healthcare/products/lifemarkgims/，（参照2023年05月02日）．

[10]　コニカミノルタREALM株式会社．“がんゲノム プロファイリング システム”．コニカミノルタREALM　ホームページ．がんゲノム プロファイリング検査．https://www.konicaminolta.com/jp-ja/realm/genminetop/，（参照2023年05月02日）．

[11]　ガーダント ヘルス ジャパン株式会社．“製品概要”．ガーダント ヘルス ジャパン　ホームページ．医療関係者の皆さま．Guardant360® CDx がん遺伝子パネルについて．https://guardanthealthjapan.com/hcp/guardant360cdx/，（参照2023年05月02日）．

[12]　中外製薬株式会社．“おしえて がんゲノム医療　ホームページ”．https://gan-genome.jp/，（参照2023年05月02日）．

[13]　株式会社 日立ハイテク．“小型キャピラリー電気泳動シーケンサー DS3000”．日立ハイテク　ホームページ．製品サービス・ソリューション．医用機器・ライフサイエンス製品．ライフ サイエンス製品．キャピラリー電気泳動シーケンサー．https://www.hitachi-hightech.com/jp/ja/products/life-medical-systems/life-science/capillary-electrophoresis-sequencers/ds3000.html，（参照2023年05月02日）．

[14]　株式会社 日立製作所．“エキスパート パネル支援サービス”．日立製作所　ヘルスケア　トップページ．製品・ソリューション．がんゲノム個別化医療ソリューション．https://www.hitachi.co.jp/products/healthcare/products-support/genom/index.html，（参照2023年05月02日）．

[15]　国立研究開発法人　国立がん研究センター．“血液がんに対する包括的ゲノムプロファイリングのための遺伝子パネル検査の有用性を検証　－血液がんに対するゲノム医療の可能性を示す－”．国立がん研究センター　トップページ．広報活動．プレスリリース．2022年07月01日．https://www.ncc.go.jp/jp/information/pr_release/2022/0701/index.html，（参照2023年05月02日）．

[16]　一般社団法人　日本血液学会．“造血器腫瘍における遺伝子パネル検査体制のあり方とその使用指針”．日本血液学会　ホームページ．診療情報．診療ガイドライン．2022年10月05日．http://jshem.or.jp/modules/medical/index.php?content_id=13，（参照2023年05月02日）．

[17]　国立研究開発法人　国立国際医療研究センター　国府台病院．“消化管がん内視鏡治療”．国立国際医療研究センター　国府台病院　トップページ．診療科・部門．診療科．消化器・肝臓内科．診療内容紹介．https://www.ncgmkohnodai.go.jp/subject/070/341/syoukai_05.html，（参照2023年05月02日）．