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日本光電工業のペースメーカ、植込み型除細動器、および、両心室ペーシング機能付き植込み型除細動器、ならびに、人工内耳:日本医学会総会2023東京 博覧会 コミュニティ クリニック 05

2023年04月22日、私は東京国際フォーラムを訪れ、一般客として、日本医学会総会 2023 東京 博覧会(以下2023博覧会)に参加した([1])。

 

01.ペースメーカ、植込み型除細動器、および、両心室ペーシング機能付き植込み型除細動器

ペースメーカは鎖骨の下の皮下に留置した本体と心臓内に留置したリードからなり、本体で発生させた電気刺激を、リードを通して心臓に伝えて心臓を動かす器械である。脈拍が遅くなる疾患が適応になる。

ペースメーカには多彩な機能があり、個人個人に合わせた設定が可能である。設定変更や電池残量のチェックは専用の装置を本体に当てるだけで行うことができ、植え込み後は3〜6カ月に1回外来で確認する。

また最近は自宅にいながらペースメーカ チェックを受けられる遠隔モニタリングも行われている。

電池寿命は10年前後で、電池がなくなると本体交換が必要になる。

以前は、ペースメーカ植込み後はMRI撮影ができなかったが、2012年10月よりMRI対応ペースメーカが登場した。ただしMRI撮影時にはペースメーカの設定変更が必要なため担当医に相談する必要がある。

一方、植込み型除細動器(Implantable Cardioverter Defibrillator:ICD)は心室頻拍や心室細動という危険な頻脈に対する治療を行う医療機器である。心筋梗塞後、心不全、ブルガダ症候群などの患者では突然この様な危険な不整脈を起こすことがある。ICDは突然起こった心室頻拍や心室細動を自動的に感知し、電気ショックを与えることで心臓の動きを正常に戻す。

本体を鎖骨下に留置し、心室内にリードを挿入するICD、および、本体を左側胸部に留置し、皮下を通して、リードを心臓の前に持ってくる完全皮下植込み型除細動器(sub-cutaneous ICD:s-ICD)の2種類がある。

電池寿命は5〜10年で、電池がなくなれば本体交換が必要である。

ちなみに、ペースメーカの重量は約25gで、ICDの重量は約77gである。ペースメーカは徐脈に対する治療を行うが、ICDは心室頻拍、心室細動という危険性の高い不整脈に対する治療を行う。ICDには徐脈に対するペーシング機能もある(s-ICDにはない)。

そして、心臓再同期療法(Cardiac Resynchronization Therapy:CRT)は重症心不全に対する新しいペースメーカ療法で、ペースメーカを使って心臓のポンプ機能の改善をはかる治療方法である。重症心不全では心室収縮のタイミングがずれて血液を送り出す効率が悪くなることがある。CRTは左心室側にもリードを挿入して収縮のタイミングを修正(再同期)することでポンプ機能を改善させる。

拡張型心筋症や陳旧性心筋梗塞などによる心不全で、さらに薬物治療で心不全改善しない場合に、CRTの適応になる。具体的にはニューヨーク心臓協会(New York Heart Association)クラスIIIまたはIV(家庭内の極軽い労作でも息切れがあるか入退院の繰り返し)、心電図のQRS幅130ms以上、左室駆出率35%以下の場合に、CRTの適応になる。

CRTにはペースメーカ機能のみの両心室ペースメーカ(Cardiac Resynchronization Therapy Pacemaker:CRTP)と除細動機能がついた両心室ペーシング機能付き植込み型除細動器(Cardiac Resynchronization Therapy Defibrillator:CRTD)があり、心室頻拍や心室細動など致死性不整脈を合併した患者はCRTDの適応になる([2])。

「日本医学会総会2023東京 博覧会 コミュニティ クリニック PHR」で、日本光電工業株式会社(以下同社)は、MRI対応ペースメーカであるゼネックス MRIとゼナス MRIを展示した([3])。

また、条件付MRI対応植込み型除細動器(ICD)であるニュートリノ NxT ICD ES340([4])と条件付MRI対応両室ペーシング機能付き植込み型除細動器(CRTD)であるニュートリノ NxT HFを展示した([5])。

これらのペースメーカ、ICD、および、CRTDは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が終息するまで、 ペースメーカ フォローアップ等の動画を配信するものである(図05.01)。

図05.01.上:ゼナス MRI、中:ニュートリノ NxT HF、下:向かって左からゼネックス MRIとニュートリノ NxT ICD ES340。

これらのペースメーカ、ICD、および、CRTDの進歩は、私を驚嘆させた。一方、これらの機器を使っている/必要がある心疾患患者は、そうでない人と比較して、COVID-19の症状が出やすい場合があり、重症になる可能性もあるので、同社はこれらの心疾患患者をCOVID-19から守っていることも痛感した([6])。


02.人工内耳

人工内耳は、現在世界で最も普及している人工臓器の1つで、聴覚障害があり補聴器での装用効果が不十分である人に対する唯一の聴覚獲得法である。人工内耳は、その有効性に個人差があり、また手術直後から完全に聞こえるわけではあない。人工内耳を通して初めて聞く音は、個人により様々な表現がなされていますが、本来は機械的に合成された音である。しっかりリハビリテーションを行うことで、多くの場合徐々に言葉が聞き取れるようになってくる。このため、術後のリハビリテーションが大切です。また、リハビリテーションには、本人の継続的な積極性と、家族の支援が必要である。

人工内耳は、手術で耳の奥などに埋め込む部分と、音をマイクで拾って耳内に埋め込んだ部分へ送る体外部からなる。体外部は耳掛け式補聴器に似た格好をしているものが主体であるが、近年、耳に掛けず側頭部に取り付けるコイル一体型の体外装置も製品化されている。

マイクで集めた音は、音声処理部(スピーチ プロセッサ)で電気信号に変換され、その信号がケーブルを通り、送信コイルを介して耳介の後ろ(側頭部)に埋め込んだ受信装置へ送られる。送信コイルは磁石で頭皮を介して受信装置と接している。受信装置に伝わった信号は蝸牛の中に埋め込んだ電極から聴神経を介して脳へ送られ、音として認識される。

2014年には低周波数の聞こえが残っている人に対して、低周波数の聞こえを温存し、「低周波数の音は補聴器(または裸耳)で、高周波数の音は人工内耳で聞き取る」というコンセプトの残存聴力活用型人工内耳(EAS -Electric Acoustic Stimulation-またはハイブリッド型人工内耳)も登場した。

保険適応基準を簡単に説明すると、成人に対する人工内耳が適応となるのは、ご自身の耳ではほとんど音を認識できない重度難聴の人や、高度難聴以上の難聴があり補聴器を装用しても言葉の聞き取りが不十分な人である。小児に対する人工内耳は、原則体重8kg以上または年齢1歳以上の人で、重度難聴もしくは、補聴器を装用しても音や言葉の聞き取りが不十分な場合に適応となる。残存聴力活用型人工内耳は250Hz以下の周波数においてある程度の聴力が保たれている人が対象となる。

雑音環境での言葉の聞き取りや、音の方向感などは、片耳で聴いた時に比べ両耳で聴くことにより向上することが知られており、両耳に人工内耳を装用して聴くことが有用な場合においては、成人、小児共に人工内耳の両耳装用も認められている([7])。

同社は人工内耳ナイーダ CIを展示した(図05.02,[8])。

この人工内耳は、人工内耳メーカーであるアドバンスト・バイオニクス社と補聴器ブランドであるフォナックとの共同開発で生まれた耳かけ型のサウンド プロセッサである。

この人工内耳には以下の機能がある。

l   環境や音を分析し、自動で様々な機能が働く。

l   ナイーダ CIは、周囲の音環境や設定の情報を左右で通信し共有する。  

l   音の取り込み範囲を調整したり、取り込んだ音をストリーミングしたりするなど、騒がしい場所での聞き取りをサポートする。またプロセッサは左右の区別なく使用できる。

l   ナイーダ CIには4つのマイクロホンが搭載されている。機能やオプションで使い分け、様々な聞こえに対応できるようサポートする。 

l   T-マイク2という外耳道の入口で集音するマイクが使用できる。耳本来の集音効果を活かすことを目的に設計されており、電話、ヘッドホンも自然な位置で使用できるよう考慮している。

図05.02.ナイーダ CI。

同社の物を含む人工内耳の進歩は驚嘆に値する。その一方で、日本では、人工内耳の装用率や認知度が低い。だからこそ、人工内耳の啓発・普及を積極的に推し進める必要がある([9])。



参考文献

[1] 第31回日本医学会総会2023東京 展示事務局.“第31回日本医学会総会 博覧会 ホームページ”.https://tsunagu-iryo.jp/minna-expo/,(参照2024年01月21日).

[2] 社会医療法人社団 十全会 心臓病センター榊原病院.“心臓ペースメーカ・ICD”.心臓病センター榊原病院 ホームページ.診療案内.当院で行う治療・検査.https://www.sakakibara-hp.com/treatment/approach/arhythmia/pacemaker/,(参照2024年01月21日).

[3] 日本光電工業株式会社.“ゼネックス MRI ゼナス MRI”.日本光電工業 ホームページ.医療関係の皆様へ.製品情報.カーディアック・リズム・マネジメント:MRI対応ペースメーカ.https://medical.nihonkohden.co.jp/iryo/products/pacemaker/mri/zenex_zenus_mri.html,(参照2024年01月29日).

[4] 日本光電工業株式会社.“ニュートリノ NxT ICD”.日本光電工業 ホームページ.医療関係の皆様へ.製品情報.カーディアック・リズム・マネジメント:MRI対応植込み型除細動器(ICD).https://medical.nihonkohden.co.jp/iryo/products/pacemaker/mri_icd/mri_neutrino_nxt_icd.html,(参照2024年01月29日).

[5] 日本光電工業株式会社.“ニュートリノ NxT HF”.日本光電工業 ホームページ.医療関係の皆様へ.製品情報.カーディアック・リズム・マネジメント:MRI対応両室ペーシング機能付き植込み型除細動器(CRT-D).https://medical.nihonkohden.co.jp/iryo/products/pacemaker/mri_crt_d/neutrino_nxt_hf.html,(参照2024年01月29日).

[6] 一般社団法人 日本循環器学会.“新型コロナウイルスに関するQ&A(心臓病患者さん向け)”.日本循環器学会 ホームページ.トピックス.新型コロナウイルス.2020年04月18日.https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2020/04/JCS_COVID19_QA.pdf,(参照2024年01月29日).

[7] 一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会.“人工内耳について”.日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会 ホームページ.一般の皆さん.難聴.2023年12月08日.https://www.jibika.or.jp/modules/hearingloss/index.php?content_id=3,(参照2024年01月29日).

[8] 日本光電工業株式会社.“ナイーダ CI”.日本光電工業 ホームページ.医療関係の皆様へ.製品情報.人工内耳:人工内耳.https://medical.nihonkohden.co.jp/iryo/products/inner/01_com/naida_ci.html,(参照2024年01月29日).

[9] 公益財団法人 日本財団.“人工内耳って?補聴器と何が違う?その仕組みと「聞こえ」の大切さを専門家に聞いた”.日本財団 ホームページ.日本財団ジャーナル.2023年07月13日.https://www.nippon-foundation.or.jp/journal/2023/91473/disability,(参照2024年01月29日).

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