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ゲームで病気は防げるか?:Pokemon GOと運動習慣の関係

少し前ですが、ポケモンの石原社長が『「Pokémon GO(ポケモンGO)」の世界中のユーザーの歩数の合計は、約2兆円の医療費抑制効果があると計算できる』と発表したというのが話題になりました。本当に2兆円の医療費抑制効果があるかということも大事な問題なのですが、今回はAugmentationの研究を推進しようとしている立場として、Augmentationの代表例であるAR (Augmented Reality)の代表例である『Pokemon GO』はどんな効果をヒトや社会にもたらしているのかをまずは考えてみたいと思います。

Pokemon GO(ポケモンGo)とは?

『Pokémon GO』は、GPS機能を活用することにより、 現実世界そのものを舞台としてプレイするゲームです。たくさんの謎を秘めたふしぎな生き物「ポケットモンスター」略して「ポケモン」を捕まえたり、バトルさせたりすることができますHP引用)

ということでやったことある人も多いと思いますし、街中でやっているのも見たことがある人も沢山いるかと思います。

最新のユーザ数はわかりませんし、ピークは過ぎていますが、数100万人のヘビーユーザがいる大人気ゲームなことは間違いありません。家の周りにもスポットありますが、まさに老若男女が立ち止まってプレーしてます。近所迷惑なところが若干ありますが、今日は置いておきましょう。

医療費削減2兆円のロジック

ロジックは非常にシンプルで

ポケモンGOの世界中のユーザーが歩いた距離合計(約230億km)
× 0.7m/歩
× 1歩あたりの医療費抑制額(0.061円)
=約2兆円

というものです。私は公衆衛生の研究者でもなく、経済学者でもないので、正確なところはよくわかりませんが、ポイントは『1歩あたりの医療費抑制額(0.061円)』というところになるはずです。

この試算は筑波大学久野譜也教授らが新潟県見附市における健康教室参加者の医療費抑制効果から算出した数字になっており、国の資料(リンクのp.4)などでも引用されている研究のようです。1歩あたりの医療費抑制額の考え方には色々なものがあるのですが、0.0015~0.061円/歩/日というのが幅はあるものの歩行による医療費抑制効果の原単位の数字としては出ています。

ここで重要なのは、単位が『/日』となっていることではないでしょうか。数学的には、特定期間で実験をして、削減できたであろう医療費を総歩数と実験日数で割ると、1歩毎の医療費削減が出てきますが、感覚的には単純にある1日だけ100歩増やせば良いというのではなく、継続的に歩数を増加させた状態を維持する必要があります。

筑波大学の久野先生の研究でも、新潟県見附市における健幸都市プロジェクトの結果として、住民のヘルスリテラシーを上げ、歩数も伸び、医療費も下がりという結果になってるはずで、外出をする、もしくは歩くことを継続してもらうために、様々な仕掛けがされているはずです。
なので、ポケモンGOが医療費削減になるためには、継続して高い歩数を維持できるかというのが大事になります。

ポケモンGOの効果

このnoteを書くまで知らなかったのですが、ポケモンGOについてはかなり研究がされています。論文などを調べられるGoogle Scholarで「Pokémon Go」と検索すると、実に約7000本もの研究発表がヒットしました。

この中には、社会学的な研究、工学的な研究も沢山あるはずですが、一旦歩行とか運動とか医療とかに関連しそうな研究をピックアップしてみます。

【歩数は伸びる・運動が増える】
Hanzhang Xu, et al., "Does Pokemon Go Help Players be More Active? An Evaluation of Pokemon Go and Physical Activity." Circulation, 2017

米国デューク大学が、約2週間「ポケモンGO」をプレイした167人を対象に歩行量を調査。ゲーム前には平均5678歩/日がゲーム後には7654歩/日に増加1日の歩数が1万歩を超える人の割合は、プレー前の15%からプレー開始後には28%に増加。参加者の平均年齢は26歳

Tim Althoff, et al., "Influence of Pokemon Go on Physical Activity: Study and Implications." Journal of Medical Internet Research, 2016

スタンフォード大学やマイクロソフトは、活動量を計測。Pokemon GOに「特に熱中している」人は、1日の歩数が平均で1473歩、約18%増加。推定では、利用者1人につき寿命が推定41日伸びる。

JMIR-Step Counts of Middle-Aged and Elderly Adults for 10 Months Before and After the Release of Pokémon GO in Yokohama, Japan | Hino | Journal of Medical Internet Research https://www.jmir.org/2019/2/e10724/

リリース後の8カ月のうち3つの月(11月、12月、2月)で、リリース前と比べると平均歩数が増加。特に、「55-64歳」は、9月を除く7か月で有意な差が見られており、ゲーム利用者グループがより歩く。非利用者グループが歩数を減らす冬の時期であってもゲーム利用者は歩数を維持しており、12月には1日平均の歩数が583歩増加。

Fiona Y. Wong, "Influence of Pokemon Go on physical activity levels of university players: a cross-sectional study." International Journal of Health Geographics, 22, Feb, 2017

香港香港理工大学の研究。644人の男女大学生(18歳から25歳)を対象にアンケート調査を実施。それまで運動不足だった人が「ポケモンGO」をプレイすることで週に357キロカロリーを消費。特に普段運動をしていない人が外出して運動するきっかけになる。

Lukas Dominik Kaczmarek, Michal Misiak, Maciej Behnke, Martyna Dziekan, Przemyslaw Guzik, "The Pikachu effect: Social and health gaming motivations lead to greater benefits of Pokemon GO use." Computers in Human Behavior, Vol.75, 236-363, 2017

ポーランドの大学者はPokemon GOユーザ444人を対象にした調査を実施。中高年男性で健康、運動、交友範囲に効果あり。

というわけで、Pokemon GOによる歩行量、運動量へのポジティブな効果が報告されています。

【一定期間のみの効果】
Howe KB, et al. Gotta catch’em all! Pokemon GO and physical activity among young adults: difference in differences study. BMJ 2016
https://www.bmj.com/content/355/bmj.i6270

ハーバード大学は、Pokemon GOユーザの歩行量を計測。「トレーナーレベル5」まで到達している560人を対象にし、ポケモンGOをダウンロードしていない600人と、行動を比較。年齢は18~35歳。ユーザ群の、使用前4週間の1日当たりの歩数の平均は4256歩。インストール後1週間には1日当たり5123歩に増加していましたが、2週目は4994歩、3週目は4693歩、4週目は4499歩、5週目は4108歩、6週目は3985歩と徐々に減少。分析対象となった人の性別や、年齢、人種、体重、都会暮らしかどうか、居住地域が歩きやすい環境になっているかなどは結果に無関係。

西脇 雅人, 松本 直幸, ポケモンGOのプレイが日常歩数に及ぼす影響 −日本人男子大学生を対象とした後ろ向き観察研究−, 体力科学, 2018, 67 巻, 3 号, p. 237-243
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jspfsm/67/3/67_237/_article/-char/ja/

男子大学生を対象として歩数に及ぼす影響を検討。プレイの1週目において1,671歩/日(21.2%)の歩数の増加。2週目以降の歩数は増大がなく、効果は1週間のみ。

というわけで、研究によっては1週間や6週間で元の歩行数に戻ってしまうことがあるよう

【その他の効果】
Pokémon GO and psychological distress, physical complaints, and work performance among adult workers: a retrospective cohort study, Scientific Reports volume 7, Article number: 10758 (2017)
https://www.nature.com/articles/s41598-017-11176-2

東京大学は社会人2530名を対象に労働者のメンタルヘルス改善効果を検証。ポケモンGOを1ヶ月以上継続してプレイした労働者(246名、9.7%)は、そうでない労働者(2,284名、90.3%)に比べ、1年後の心理的ストレス反応が減少

このほか、イヌの散歩時間が増えたり引きこもりの外出効果などのポジティブ効果が言われているが、感染症の増加などのネガティブ面も指摘されています。

まとめ

というわけで、間違いなく「歩行量が増える」ということは言えそうですが、それが「継続できるかはまだまだ検証・分析が必要」な感じです。花王がユーザ分析をしていますが、ポケモン GOに“ハマり”、それまでの移動手段をバスや電車から徒歩に変えたり、プレイのために出かけるようになったというような生活や歩く意識に変化が現れる層を増やせるかが重要になりそうです。
いずれにせよ、「ポケモンGo」に続き、「ドラクエウォーク」をもっと流行るでしょうし、ゲーミフィケーションというものを上手く活用することは健康にとってもビジネス成功にとってとKeyになりますね。

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