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【業務委託契約書に詳しくなる】/最も注意すべき点

業務委託契約書さえしっかり読めれば、ビジネス契約書の大半を読むことができるようになります。それくらい業務委託契約書は、ビジネスの現場で「活用頻度」が高い契約です。締結の機会が多いからこそ、業務委託契約書はひな形を用意しておいて、契約実務をパターン化するメリットがあります。業務委託に関してはぜひ、自社の標準テンプレートを定めておきたいものですね。ただし「ひな形」活用のリスクとして、ひな形にとらわれて「実態とのズレ」を生じることがあります。こうした齟齬を防ぐためには、何に気を付けるべきでしょうか?

たくさんの取引に使える「便利」な契約

「業務委託」という用語は法律には直接の定義がありませんが、むしろ明確な定義がないことによって実態として多くの取引に適用されている面があります。たくさんの取引に使える汎用性があり、時代の変化にも合わせやすい便利な契約といえるかもしれません。たとえばリモートワークの推進や雇用の多様化と相まって、フリーランスワーカーが増え、企業とフリーランスとの間の取引機会も増えているといわれていますが、この取引も業務委託契約の一種と考えることができます。
ようするに何らかの仕事を委託したり請負ったりしている場合で、その当事者の関係が「雇用契約でも派遣契約でもない」のなら、この取引はなんらかの業務委託契約と呼べる可能性が高いです。ちなみにこうした契約を法的類型(典型契約)にあてはめるならば、一般的には請負、準委任が多く、あるいは売買やこれらの混合契約の可能性があります。このように多種多様な業務委託という契約は、便利とはいえ複数の顔を持ち、なかなか「ひとくくりにできない」という意味で「とらえにくい」契約でもあります。

最も気を付けるべき点は「〇〇を明確化」すること

さて業務委託契約には数多くの論点(注意点や理解のポイント)がありますが、なかでも真っ先に挙げたい注意点が「契約の目的」を明確にするということです。
業務委託は様々な取引で使われる汎用性のある(とらえにくい)契約だからこそ、結局なにが目的なのかをはっきりさせる、いいかえれば「何をすれば履行したことになるのか」を明確するべき契約なのです。

どうしてこれが重要なのでしょうか? 実はここが一番のすれ違いの原因、トラブルのもとだからです。「何をすれば履行したことになるのか」は、「何をすれば業務の対価をもらえる(支払う)ことになるのか」といいかえることができるのです。これで重要性が腑に落ちるのではないでしょうか。とはいえそんなシンプルなことなら、どんな契約書にも普通に書いてあるのでは? と思われるでしょうか。たしかにこれは契約の最も本質的な部分です。しかし、目的がいまいち不明確で、履行完了が特定しづらい契約は意外とよくあるものなのです。

たとえばなにかしら商品を販売しているA社があるとします。A社はもっと売上を上げたいために、販促手段として、ある商品について個別にランディングページ(LP)をつくって成約率を高めようと思い立ちました。とはいえ社内のリソースに乏しいA社は、LPの制作を社外のコンサルタントに発注することにします。こうして、A社と外部のコンサルタントとの間に「LPを作ってもらう」目的での業務委託契約が生じるのです。この場合の業務委託契約の目的は、簡単にいえば「LPをつくる」ことですから、契約書には「〝LPの制作を目的として”本契約を締結する」などと書かれるでしょう。

これで契約の「目的」は明確になったでしょうか? もちろんこれでも契約書として立派に対応はできるのですが、もう少しだけ頑張って、この場合はLPの詳細な「仕様」を書き加えていただきたいのです。

別紙で対応するといい理由

そこでおすすめしたい方法が、契約書に「別紙」をつけることです。つまり今回制作してもらうLPの「仕様書」をつけるのです。ひとことにLPの制作といっても、具体的にはどのような内容のLPが完成されるべきなのかについて、たとえばSEO的な観点での施策があるのか、アクセス数等の成果基準はあるのか、コピーライティングや画像などの素材の準備はどちらがするのか、問い合わせフォームの設置までするのかどうか、デザイン修正の回数制限はあるか・・・など、決めた方が良い項目があるはずです。これらは、長くなってしまうので契約書の本文には書かず、「別紙」にしたほうがよいでしょう。別紙にすることで、本文はいつものひな形で済ませられますから効率的ですし、それでいて別紙で使用を具体化できるので合理的なのです。

契約不適合責任との関係

契約の目的を具体的にすることは、契約不適合責任の規定の効力にも影響します。2020年に改正民法が施行され、従来は瑕疵担保責任といわれていた売主の目的物に関する責任は、「契約不適合責任」に置き換えられました。「契約不適合責任」とはつまり、売主(または請負人)が契約の目的物について一定の責任を負うというルールのことで、たとえば約束したものの数が足りないとか、品質が約束通りでないといった意味になります。上記の例でいえば、LPが約束通り完成しなかった場合のクレームのありかたを決めるということですね。契約不適合責任の規定は、不適合があった場合にどうするのかをあらかじめ決めておくためにあります。たとえば不足しているなら足してもらう、クオリティに問題があるなら作り直してもらう、ということを決めておくわけです。このとき、もしも契約の目的が具体的でないと、そもそも契約不適合なのかどうかが判断しにくくなり、せっかく契約不適合責任条項があっても、出番がつくれません。逆に、LPの例のように、別紙で詳細に定義してあれば、「契約不適合とは、仕様書に記載した事項との不一致のことをいう」などと明記して、契約の内容に適合するかどうかの判断ができるのです。

まとめ

業務委託契約書のひな形の利用は便利ですが、重要な項目がすべて含まれているか確認することが重要です。今回は業務委託契約のたくさんある論点のうち「目的の明確化」を挙げつつ、目的物の仕様については「別紙」で追加するテクニックをおすすめしました。他の論点についても次回以降の記事に続けたいと思います。少しでもあなたの契約実務の参考になりますと幸いです。


追伸

契約書のひな形をまとめています。あなたのビジネスにお役立てください。


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