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2020年 民法改正とあたらしい契約書のポイント【遅延損害金条項編】

民法改正をふまえた契約書のポイントについて網羅的な情報を知りたいですか? 本記事では民法改正の概要説明と、契約書のポイントを解説します。
これから契約書を作る方や、ミスが無いようにチェックしたい方は必見です。

2020年 民法改正と新たな契約書のポイント【遅延損害金条項編】
  

突然ですが、質問です。

あなたはある商品を買おうとしているとします。
代金は後払いにしてもらいました。

それで、もしも契約書に、


「買主が代金の支払を怠った時は、買主は支払期日の翌日から完済に至るまで年14.6%の割合による遅延損害金を売主に対し支払うものとする。」

  

と書いてあったら、あなたならサインしますか?

 

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答えは、サインしてもいいけど「意味を十分に理解してからにしたほがいい条文」です。なぜそう言えるのでしょうか? 

遅延損害金の利率が、「高め」だからですね。買主のあなたにとっては、不利とまではいえないですが、あまり嬉しい条文ではありません。

  

遅延損害金条項のチェック方法
 

遅延損害金とは、買主による代金等の支払が遅れたために、売主が損害を被ったとみなして請求されるお金のことです。支払いが遅れるということは、一時的にお金を貸しておいたのと同じ状態ですから、ある種の利息とも考えられます。それで「遅延利息」とも呼ばれています。

 

買主は、支払期限を過ぎてしまうと、遅延利息をプラスして支払う義務を負うこととなります。冒頭の一文をみても、要するにそういう意味だと分かったと思います。ただ疑問に思うとすれば、このときの遅延利息の「利率」は何パーセントであるべきか、ということではないでしょうか。

 

遅延損害金は何パーセント?
 

この利率は、当事者間で決めることができます。つまり契約書に書いてあれば原則としてそれが遅延損害金の利率となるのです。約定利率といいます。

 

では、契約書がないとかあっても遅延利息は書かなかったなど、利率を当事者間で決めていなかったらどうなるでしょうか? せっかく当事者間で決めることができるのだから、契約書できちんと遅延損害金について定めておきたいところですが、定め忘れることもあります。その場合は民法等の法律上の利率(法定利率といいます)で計算することになります。 

 
法定利率は何パーセントになる?
 

では、当事者間で利率を決めていない場合に適用される法定利率は、何パーセントなのでしょうか?

 

従来の民法のルールでは、法定利率は原則として年5%でした。そして、この例外として商行為によって生じた債務は年6%(商事法定利率)とされていました。つまり法律上の遅延損害金の利率は、5%または6%だったわけです。

 

ですが民法改正により、このルールは変更になり、新民法では変動制によるとされました。

 

「変動制」ということは今後定期的に変動が予定されているわけですが、ひとまず当初は年3%ということになりました(そして民法の特則であった商法の514条は削除され、民法に一本化されました。つまり商事法定利率の方は廃止されました)。そして3年を1期として、1期ごとに法定利率の見直し(=つまり変動制)が行われることになります。

 

つまり簡単にいえば、法定利率は改正によって「3%」になったのです。

(変動制ですので、3年ごとに変更される可能性があります。)

 

改正前 
原則:年5%(改正前民法404条)
商事法定利率:年6%(改正前商法514条) 

 

改正後
変動利率(法改正時は年3%)(改正民法404条、附則15条2項)
3年ごとに1%単位で変動し得る(改正民法404条)
商事法定利率は廃止(整備法3条)

 

遅延損害金の利率は?
 

さて法定利率が年3%に引き下げられたということは、たとえば代金の支払が遅れた場合などにおいて、契約書で遅延損害金の料率を定めていない場合(つまり約定利率がない場合)には、改正法施行後は遅延損害金が年3%で計算されることとなります。(ただし、適用されるのはその利息が生じた最初の時点における法定利率です。)

 

以前は5%だった法定利率が年3%となったことは、支払が遅れた場合などに遅延損害金を請求できる債権者側からみれば、少なくなったとみることができます。つまり売主の立場では、忘れずに契約で任意の遅延損害金を設定しておきたいところです。(遅延損害金は14.6%とする規定例が多いです。)

 

ここであらためて、冒頭の一文をみてみましょう。

 

「買主が代金の支払を怠った時は、買主は支払期日の翌日から完済に至るまで年14.6%の割合による遅延損害金を売主に対し支払うものとする。」

 

遅延損害金は14.6%に設定済みです。つまり売主は、法定利率よりも高率の遅延損害金を契約で設定することにより、支払遅延があった際のペナルティの効果を狙っているものと読めますね。

 

遅延損害金を支払う(かもしれない)買主の立場からはどうかというと、契約で高い利率に定めるメリットはまったくありませんので、あまり歓迎できない条項ということになります。

 

もっとも、遅延損害金はあくまでも支払遅延に対するペナルティであって、自分が支払を遅延しなければよいだけです。極端に高率でなければ、提示された条項をはねのけるのは難しいでしょう。もちろん、法定利率よりも高率であることを理由にして、減率の交渉をすることは十分にありえます。

 

忘れずに規定を確認しよう
 

ともかく、遅延利息に関しては、法定利率はあくまでも契約による利率の定めがないときの話です。契約書で遅延損害金の計算について6%やそれ以上の料率を定めてあれば、それに従うことになります。事前に規定をチェックしましょう。



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