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【映画感想】『ミラーズクロッシング』間違った先入観が良作を駄作にする※ネタバレあり

マフィア映画好きなので、そう謳われている映画は全部見ようと思い、Googleで「マフィア映画」と検索。そのリストの中にこの映画はあった。

「禁酒法時代のアメリカを舞台に、アイルランド系のマフィアとイタリア系のマフィアの抗争を描いた映画」

いかにも好みである。すぐに鑑賞を開始した。

第一印象って大事

物語の最初のシーンはレオの事務所で、キャスパーがレオにクレームを入れている場面から始まる。詳細は割愛するが、このシーンでトム=クールでかっこいい男という印象を持った。なぜなら、

挑発的でかつ楽天的であるレオ

顔を真っ赤にして怒鳴り散らす小男キャスパー

ボスにしては無鉄砲な印象のレオと、キレやすくどこか小物感のあるキャスパーらの対比から、トムはクールで頼りになる男というキャラクター像ができあがった。町の実質上のボスは、レオを陰で支えるトムであるようにさえ感じた。しかし、その印象にすぐに疑問符がつくようになる。

残念な男、トム

トム=クールでかっこいいインテリマフィア

という図式ができた訳だが、実は当初からそのキャラクター像には疑わしい面があった。例えば、

・借金をしていて、その返済に追われていた。(借金取りにボコられる)

・レオから借金の肩代わりの申し入れがあったが断りを入れる。しかし、特に返済のアテはない(かっこ悪いとこを見せたくない?)

・レオの女と関係を持っていた。しかもその事実をあっさりとレオに告白。レオに破門される。(ここでもボコられる)

トドメは、命を助けたバーニーに、逆に脅迫される始末。もうこの時点でトム=スマートなインテリマフィアでなく、トム=残念な男に変わっていた。

その後も続くトムの情けなさ

トムがレオと仲違いしたことを知り、トムに近づくキャスパー。最初は断りつつも、結局仲間入りする。

そんなトムを怪しむまともな男がいた。キャスパーの部下、デインだ。デインはトムを拉致し、トムがバーニーを殺したはずの場所にバーニーの死体が無ければ殺すと脅す。死体探しの道中、恐怖でゲボを吐くトム。そもそもそこをツッコまれないと思っていたトムの軽薄さにため息が出る。しかし、ここはバーニーが別の死体を準備。首の皮一枚つながった状態でなんとかなったのだ。

こんな調子でその場しのぎを続けるトム。トム以外の登場人物もかなり早とちりのおっちょこちょいで、トムを信用しきったキャスパーはデインを殺害。その後キャスパーはバーニーに殺害される。

キャスパーを殺し、これで一件落着と言うバーニーを最後はトムが殺害した。当初は恋人の弟だから生かしたのかと思ったが、最後はあっさり殺す一貫性の無さ……

結局、キャスパーの一味は全滅。レオはトムの行動はすべてキャスパー一味を破滅させるための巧妙な作戦だったと思ったのか、再びトムを呼び戻そうとする。しかし、トムはそれを断り、映画は終わる。

そもそもマフィア映画なのか?

鑑賞後は肩透かしを食った気持ちだった。マフィア同士の血なまぐさい抗争を描いたものと期待していたが、残念な男の危なっかしい立ち回りを見させられたからだ。

レオが思った通り、冷静沈着で頭脳明晰なトムの作戦で相手のマフィアを一掃する物語を描いたのかとも思った。が、それは違うとすぐに思い直した。

なぜなら、忘れていたが、この映画の監督はジョエルコーエンだからだ。

『ファーゴ』、『ノーカントリー』のように無計画な男を描くことが多い監督である。人なんてそんなもんだという皮肉なのか。この現実主義な監督の映画に出てくる人物は軽率な行動が多い。

間違った先入観

思えばコーエンは最初からトムをキレ者として演出してない。勝手にトムのキャラクター像を作り、勝手に映画自体に肩透かしを食ったのは、私の間違った先入観のせいだ。

その間違った先入観とは、マフィア映画というジャンルから、「銃撃戦」、「友情」、「裏切り」、「男の中の男」といった、マフィア映画の王道シーンを期待してしまったことである。

しかし、これがコーエンの映画であることを前提に見ていれば、違った評価をしただろう。

映画と先入観

個人的に映画を見る上で重要なのは、どんな映画なのか、ある程度の予備知識を持ってから見ることだと思う。その期待通りの映画だと得られる満足感は大きい。(もちろん、いい意味で期待を裏切る映画もあるが)

今回に関して言えば、間違った先入観を持ったことから、まったく違うものを期待してしまった私のミスだ。

しかし、一方で映画の紹介文や邦題がミスリードを起こすことケースも多い。映画を見る前に、その映画がどんな映画で、どんなシーンを期待するかは、それらをアテにすることが多いので、非常に重要なのだ。

勝手に違うことを期待されて、見終わった後に批判されたら、監督はたまったもんじゃないだろう。

最後に

コーエンが描いたマフィア映画ということを前提に見れば、この映画は期待に沿ったものになるだろう。かっこいい男が出てくる訳でもない。ただただ無計画な男が口の上手さと強運でマフィアのシビアな世界を渡り歩く。そんな映画だ。

マフィアの世界に限らず、現実は、テキトーで信念もなく、軽薄な言動ばかりが溢れている。そんな日常をリアルに描いた映画だと期待して見れば、この映画は満足できるはずだ。

改めて何を描いた映画なのかはキチンと調べてから見るべきだと再認識した。

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