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捨てる捨てる捨てる

雲が低い日は飛行機の離発着音がよく聞こえる土地へ、引っ越しをした。
割合と乱暴な段取りで。
勤務先の内定直後に、目星をつけていた賃貸物件の契約に不動産屋に赴き、契約を交わした。
つまり、物件探し中の私は、開店休業中の作家業の身で、定期収入のあてなどなかったのだ。

それが2月18日のことで、料金の都合で引っ越しは3月3日と決まった。

その途端三年前の引越しを思い出して、動けなくなった。

みなみ先生という仕事と人生のパートナーを亡くし、義母の避寒部屋も含めた3人暮らし+マンガの作画部屋を、ネコのヒューゴとの暮らしのためにシュリンクする。
処分業者はある雪の日に、義母が行き合ったなんでも屋さんに頼んだ。
念のため大手の引越し業者にも来てもらったが、予め処分するものは処分してもらわないと、見積もりが出せないというので、引越し代も込みでなんでも屋さんに任せた。

彼らは三月になると、大手の引越し業者にアルバイトに行ってしまう強者だが、二月は仕事が少ない。だから二月に仕事をさせてもらえれば、三月二日は私の引っ越しのために空けておきます、という取引きで、総額は80万円だった。

今回の引越し代金が10万を少し割った額なので、物を捨てるだけで70万円かかったことになる。

なぜそんなにかかるかといえば、理屈は簡単だ。まとめて捨てると、産業廃棄物扱いになってしまうのだ。自治体の粗大ゴミに持ち込み制限があるのは、要は業者避けだ。

しかも産業廃棄物とて、すぐに捨てられるわけでもなく、その前に順番待ちの倉庫があり、年度末はオフィスから出る様々ものが持ち込まれるため、その倉庫代が言い値になるのだという。

それを回避するためには、余計なものは溜め込まず、できる限り一般ゴミや値段の安い自治体の粗大ゴミで捨てておく。それしかないのだ。

そうしてかなりの物量を捨てたのだが、まだ捨て足りてなかった。
電子ジャーも電気ポットも、コタツも、テレビもレコーダーも、厳選したはずのDVDやCDも、新しい生活には必要なかった。
それに気づくまで概ね一年が必要だった。
そして黒い猫の会社でアルバイトを始めた私は、いつの間にか非正規雇用の社員になり、早朝5時から9時までの4時間みっちり働いて、何か1日が完了した気分になっていた。

会社から帰っても机には向かわず、ずっとベッドの上にいた。

抑うつ状態が酷くなると、部屋が荒れた。ペットボトルを捨てようにも、私が出かける時間にはまだ回収用のカゴが出ておらず、帰ってくる頃には回収は終わっているので、仕方なくポリ袋のまま出したりした。
24時間いつでもゴミ出ししてもよい、そういう契約だったため、ついつい先延ばしにしたりしていた。

テレビをジモティで処分してみたのだが、なんだかんだ値引きを求められたり、約束を反故にされたり、アレはできますかこれはできますが?など聞かれて、なんだかイヤになってアカウントごと削除した。

そんなこんなで捨てられなかったものを、全部持ってきてしまったから、片付けに三週間かかってしまい、ようやくレイアウトの見直しだ、カーペットを敷くだのが始められるのだ。

洗濯機は引っ越しの当日壊れているのが判明し、今はコインランドリーに行っている。
ベランダ置きなので、紫外線でプラスティックがダメになるから、あまり高くはなく、必要最低限の機能のものを探して、妥当そうなものを選んではみたが…

そして電子レンジも壊れた。
ダイヤルで分数をセットするだけの単機能のものが、欲しかった。あと二千円出せば、ダイヤルを回せば何分と表示されるものを買えたのだが、ついケチってしまい表示のない廉価版にしてしまった。三分あたりが下の方で、実に合わせづらいのだ。


どうせいつかは捨てるものだから、といって利便性まで捨ててしまってはいけない。使いやすいものを選ぶ方がまずストレスがなくていいのだから。


✳︎追記
2021年5月4日
この新しい電子レンジも、気に入らないからと捨てるわけにもいかない。元々は私がお金をケチったせいだからなと、少しでも快適に利用する工夫をしてみた。
視線の高さによるズレを、ゼムクリップと紙テープとマジックで補正した。アナログのダイヤルに相応しい、アナログな解決法なのではないか?

私もまだまだ捨てたものではない。

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