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復職初日所感

先週無事、復職初日を終えることができた。
ひとつ大きな肩の荷物を下ろせた感じ。


出勤前日、カオナシのように声にならない呻き声を上げる私に友人夫婦がかけてくれた「20点でいい」「遊びに行くようなもん」をおまじないのように繰り返しながら、起きて、朝ごはんを食べて、化粧をして、着替えて、駅まで歩いて、電車に乗った。


4ヶ月ぶりの通勤電車。
「気まずい」とか「ついに始まってしまった」とか、不安という巨大なモンスター感情に支配されながら都心まで運ばれる。

会社の最寄り駅で降りて、人の波に流されながら、少しぎこちなく、いつもよりゆっくり歩く。

正面エントランスは荷が重くて、社員用の裏口から入る。これが私の記念すべき復職第一歩。


まぁ、こんなもん。

全然晴れやかじゃないし、普通に気まずいし。
胸を張ってなんて歩けない。

息を潜めながら、新しい私の席に着く。
新しい上司が席にきて「おはよう、早いね」と、4ヶ月前よりも3本も後の電車に乗って、定時のたった5分前に到着した私に上司はそう言った。

とりあえずパソコンを起動して、別に仕事なんて一つもないけどとりあえず社内システムにアクセスして、空っぽのメールボックスを眺めたりして。


前の部署に顔を出すのが心の底から億劫だったので、同い年の同僚に人が少ないタイミングを教えてもらおうとしたら、廊下でばったり。
あれよあれよと前の上司たちに「おぉ来たね」「生きてんじゃん」「おかえり」などと言ってもらう。

気まずさMAXでおろおろしながら、大した挨拶もできず、その日一番のタスクを早々に終えた。


新しい部署の上司からは
「まずは業務命令、ゆっくりやること」
「なんかあったら帰すから」
と口酸っぱく忠告された。


すごい!!私、何も求められてない!!


何かやることありますか、仕事させてください、と言いそうになるのをぐっっとこらえて、とにかくボーッとデスクに座って時間が過ぎるのを待った。

たま〜に書類の準備を手伝ったり、エクセルでリストを作ったり、前の私だったら10分で終わっていただろう仕事を、じっくりゆっくりなるべく時間をかけてやった。

そしてまたデスクに座って時間が過ぎるのを待った。

近くに座っている人たちが、分かりやすく何でもないことを話しかけてくれるのが分かった。

すごい!!めっちゃ気遣われてる!!


それはそう、なのである。
私は、分かりやすく気を遣われる存在なんだ。


定時の1時間前に「今日は来てもらうだけの日だからもう帰っていいよ」と言われる。
今日朝から息しかしてないのに、なんかすごい大事にされてる。


すごい!!ただそこにいることを肯定されるだけの、赤ん坊か金持ちのペットと同等の尊さだ!!!


以前の私のマインドだったら「丁重に扱わなきゃいけない面倒なやつになってしまったな」「存在意義、なし?」「とんでもない給料泥棒、やめちまえ」などと自分を罵倒していただろうと思う。

でも、まぁ、こんなもんなのだ。
私なんて、こんなもんなのだ。


復職初日はもっとドラマチックかもとか思い上がっていたりしたけど、私の人生はこんなもん。
アドレナリンが出ていたのもあるかもしれないけど、息しかしなかったから、大して疲れもしなかった。

きっと振り返ったら「4ヶ月休んで復職した日も大したことなかったな」となる、そんな1日だった。


大好きな、私の人生のお守り、朝井リョウのエッセイにこんなフレーズがある。

勝手に何かに期待して、その期待を下回る現実を咀嚼しながら、一丁前に「こんなものか〜」のほうにしっくりきてるのかもしれない。

『そして誰もゆとらなくなった』│ 朝井リョウ著 │ 文藝春秋


多分、大体のことは、大したことがない。

転職半年でうつ病になり、4ヶ月休職をして復職。
なんかたいそうな事のように語っている私だけど、復職してみてまさに「こんなものか〜」と思えるようになった。

辛かったし苦しかった。
本当にしんどかったけど、前に進んでみると、色んな時間をこうやって消化できるようになっていくのかもしれない。

自分にも、自分を取り囲む環境にも、期待をしない。
そうやって、ひとつずつ、乗り越えた過去を「こんなものか〜」と咀嚼して、自分の人生を柔らかく肯定してあげたい。


今年は桜の開花が遅かった。

復職初日は天気が悪かったけど、一気に開き始めたソメイヨシノが曇天の下から私を見守ってくれていた。

おかげで、俯きながら歩いた通勤路に、上を向けた。

そんな些細なことが、私の毎日の癒しや糧になっているんだと思う。
そういうことに気付きながら、ゆっくり、丁寧に、私のペースで明日からも歩いて行ければいいなと思う。

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