見出し画像

アイドルなんか曲作ってねぇじゃねぇかって話。


ステレオパンダというお笑いコンビがいた。
まつもとまなぶとさかいによるコンビである。

もう4〜5年くらい前になるだろうか(いつの間にかそんなに経った)。
そのコンビは原宿で寄席をメインに活動しており、僕も以前のコンビでよくその寄席に出させてもらった。

彼らはアイドル並みの人気があり、新規の客が多い寄席も彼らが出れば満席ということも少なくなかった。

何より彼らが売れていない他の芸人と一線を画したのは結成1年程度で行った赤坂ブリッツでの単独ライブである。

全くテレビに出ていない、否、テレビに出ている芸人でも赤坂ブリッツを埋めるほどの集客力を持つコンビやトリオは多くない。
彼らは自分たちの力で1000人キャパを埋めたのだ。

そんな彼らの話題を呼ぶ活動や若い客層を面白くないと思う芸人も多かった。
しかし僕は見ていた。

1日に寄席を3ステージこなし、終わった後は新宿や渋谷に繰り出して通行人に
「1分でいいのでネタ見てください!」
と言いその場で漫才をする。
その後見終わった客に
「赤坂ブリッツで単独やります!是非チケット買ってください!」
とチケットを手売りし地道にブリッツを埋めたのだ。
凄い行動力とバイタリティーだと思う。


その後も活動していたがそれでも売れないという状況を中々打破できず彼らは解散した。

まなぶは新たな生活に進み、サカイ君は芸人としてステージに立つことはほぼ無くなりアイドルのプロデュースを本業とし始めた。
そうして抱えているアイドルがSOMOSOMOというアイドルグループである。


ライブの2週間ほど前、僕は深夜の新宿駅で顔面から血を流している女を介抱していた。

電話が鳴り、見るとサカイの文字。解散してから連絡を取ったことがあっただろうか。
そういえばサカイ君はアイドルプロデュースを生業としていると聞いた。
プロデューサーという仕事は大変だと聞く。
きっと色んな資金繰りで首が回らなくなって僕に金の無心をしに来たのだろう。僕に貸せる金などないのだ。明日の生活さえ見えないのだ。
隣では「お兄さんが私の顔を殴ったの?」と詰問する女。
これは一度電話口で説教と八つ当たりをせねばいかん。

そう思い電話をとると
「美少女偶像が数多出る祭りをやる。貴様も出るってぇのはどうだい旦那。やや失礼した、久しぶりでおまんなぁ」
といった具合で二つ返事でOK。

そうしてサカイ君の主催するイベント『HASYAGE fes 2024 Spring SP』
にMCとして出演した。




場所は代官山スペースODD。
総勢20組ほどのアイドルが1組約30分ほどの持ち時間でパフォーマンスを行う。

僕らはサカイ君と共に出演するアイドルを絡めてのトークが仕事である。

アイドルファンは怖いというイメージがあったが出て来た瞬間全く知らない我々を拍手で向かい入れてくれて勝手なイメージはすぐに崩れた。

オープニングも早々ライブはすぐに始まった。
僕はアイドルイベントに出るのは勿論、見るのも初めである。
それもそのはず、僕ははっきり言って全くアイドルに興味がない。
昔のモー娘。の曲がかっこいいから聴くとかそのくらいはあったけど別にライブを観たいとも思ったことないし僕はバンド至上主義である。
自身で作品を作って初めてアーティストと名乗れるのだ。

表現者というのは自分で作品を作ってなんぼだろ、作らない奴がアーティストって甚だおかしい。
それなのにSNSで流れてくるそれらは作りもしないのに承認欲求ばかりの乱文。
中指を立てた自撮りを見てお前が何をアンチすることがあるんだと思っていた。

しかしそれでもライブは好きだしデカい音も好きである。
何より見たことないのに否定ばかりするなんて一番ダサいじゃないか。
こんな機会中々無いしMCの時に話せるタネも見付けられる。とにかく見てみよう。
そうして僕は全組欠かさず見た。

全組、欠かさずである。
本当に素晴らしかった。そう、素晴らしかったのである。

有象無象にいるアイドル、全てにコンセプトがしっかりあり曲調もダンスも違う。勿論衣装も。
当たり前のことかもしれないが初めて見る僕にはその一つ一つが新鮮だった。

このフェスに出ているアイドルたちは世間で言う地下アイドルというジャンルなのだろうか。
フロアで聴く熱狂的なファンの人たちを見ると何が地下で何が地上なのか僕にはわからない。

各々に推しのグループがいて、各々のグループに各々の推しがいる。
一緒になって良いライブにしようと盛り上げているのが見て取れる。
売れている人たちと何を比べる必要があろうか。

出演するアイドルを幾つか調べてみるとその幾つもメンバーチェンジや脱退があった。きっとそういうのが多い業界なのだろう。
今上がっているアイドルも何かを抱えて歌い踊っているのだろうか。
しかしステージで見る彼女らに僕はそんなものを感じなかった。皆輝いている。
MC時に知るのだが結成して1年未満というグループもいた。


一人一人が表現者であった。
曲を作る人がいて、それを表現するパフォーマーとして歌い踊る彼女たちは紛れもなくアーティストだった。

「バンドの中に沢山ボーカルがいるのがアイドルグループなんだ!」
と言ったら相方に
「ただただ当たり前のことを言ってる」
と呆れられた。

僕は感動した。
37になり、それでもこうして心から衝撃を受け感動出来ることがまだこうして近くにありそれを体験できる場にいるのだ。なんとありがたいことだろうか。


この時に一緒になって直接誘われた『神薙ラビッツ』『OMG』『il pleut』のワンマンには行くことを決めている。

バンドセットのライブもあると聞く。
今からとても楽しみだ。


良い機会を設けてくれたサカイ君に感謝である。

この記事が参加している募集

フェス記録

はじめての仕事

夢の一つに自分の書く文章でお金を稼げたら、 自分の書く文章がお金になったらというのがあります。