人生で一番不思議だったこと

犬を飼っていた。

小学生高学年ごろ、あれは五年生か六年生かそこいらだったと思う。
僕は愛犬の「ドラ」を散歩に連れて歩いていた。

そのドラももう随分前に死んでしまった。もっと優しくしてやれば良かった。


いつも通る道は元々線路だったと聞いた。
そういえば道の端には電車用の信号が朽ちてあった。
僕が生まれた年か、生まれる一年前に駅は無くなったという。


僕は散歩が嫌いだ。適当に歩いて散歩を終わらそうと思った。
しかしその日は何となくいつもと違う道を通ってみたいという気持ちになった。

その道は畑と畑の間の道で、その畑の持ち主でしか通らないであろう、道とも呼べぬ道であった。

僕はドラを引き連れてその道を歩いて行った。

少し歩くと竹が生い茂り、竹藪で出来上がった奇妙な門のような入り口に辿り着いた僕とドラはそのままズンズンと中に入っていった。
土地柄竹藪は珍しくなかった。それほど田舎に住んでいるのだ。


時間帯的に夕方であっただろうが暗くはなかった。気がする。夏だったのだろうか。

ここはどこに繋がっているのかと少し不安になりながら歩いていると開けた場所に出た。そこは急にあったのだ。

こんなとこがあるのかと周りを見渡すと一軒の立派な家があった。
その家はしっかりと門があり、田舎にしては綺麗な、見た目で金持ちが住んでいるであろう家だった。

打算的な僕は可愛い女の子が住んでいるのではなかろうかとドラをその場で愛でた。そうしていれば他人の家の前にいてもきっと怪しくは無いだろうと思ったからだ。


しかしどれだけ待てど誰も出てこなかった。というより誰かがいる気配がそもそもなかった。

30分程度だろうか、僕はドラを連れてそのまま竹藪の中を進んだ。

するといつも歩いている国道に出た。
僕は方向音痴でずっと育った場所ですら土地勘が無い。
ここに出るのか、とその日はそのまま家に帰った。



翌日、僕はあの家に住んでいる可愛い女の子に期待をしてドラの散歩を買って出た。

昨日と同じく畑と畑の間の道を歩くと昨日と同じく竹が生い茂った入り口へとやってきた。
昨日よりも早めに家を出た。時間はあるのだ。どれだけでも待ってやるという気持ちである。僕はズンズンと進んだ。

そうして歩くといつもの国道に出た。

あれ、と思い引き返すと最初の竹の入り口に戻った。

道を間違えたかと今度は慎重にゆっくりと周りを見渡しながら進んだが、昨日見た開けた場所も、立派な家もそこにはなかった。
一日のうちにソレは無くなっていたのだ。

怖いという気持ちはなかった。もしかしたら僕は夢を見たんだろうか。


後日、もう一度見に行ったがやはりそんな家は無かった。

もしも僕が好奇心に負けてその家に忍び込んでいたらどうなっていただろう。
今ではもう、何も分からないことである。




夢の一つに自分の書く文章でお金を稼げたら、 自分の書く文章がお金になったらというのがあります。