東京芸人逃避行 バベコンブ川副 荒波タテオ
YouTubeを見ていた。
オススメに上がっている動画を片っ端から見ていると戸田公園という地にカセットテープ屋があり、
そこを紹介している動画であった。
なんとも雰囲気が良く「行きたい!」と思った時にはもうこうちゃん軍団グループラインにメッセージを送っていた。
2022年9月2日。
新宿駅。
外は曇り。小雨がパラついていた。
僕は荒波タテオとバベコンブ川副を待っていた。
しかし予定時刻のギリギリになって2人から遅刻するとの連絡。
そもそも時間きっちりに来るような奴らではないと思っているのでそれは範疇である。
しかし一つ怖いのはタテオさんはともかく川副さんは多分着いても連絡してこない。
きっと勝手にどっか行ったり、遠目から酒を飲みながらこっちを見て楽しんでいる。
そういう人間なのだ。
困った。どうしようとふとケータイから目を上げると
いた。
細ズボンにボーダーコンバースサブカル兄ちゃんは新宿にいない。一眼で川副さんと分かった。
「いや、なんで着いてんのに遅れるって嘘吐くんですか。声かけて下さいよ」
「あ、音楽聴こうとしないで。一回こっちの話聞いて」
「早く行きましょう!こっちが乗り場ですよまったく!」
「いやいつ着いたんだよまずすいませんだろ」
そうして僕らは戸田公園駅に向かった。
新宿からは乗り換えも無くスムーズに行けた。
意外と時間も掛からず安心した。
「楽しみだなぁ!俺さ、あの動画見てて絶対買うって決めてるテープがあるんだよ!」
「それは良いですね川副さん!モミも来て欲しかったですね!しかし今はもう時の人です、一旦忘れましょう!」
駅から意外とスムーズに着けたその店は一階にプリントTシャツ屋があり、その2階にあった。
「うへ〜!こりゃあ良いや!」
「素晴らしい品揃えです!これは権之助とはまた違った素晴らしさがありますよ!」
「カセットテープも沢山色の種類があって迷うなぁ!うーん…すいません、この色のを3つ下さい!」
『あ、すみません。仕入れの都合上10個からになるんですよ』
「ああ、そうなんですね。じゃあ一つずつは買えないってことですか?」
『そうなんですよ。一応海外から仕入れていて、どうしてもセットでの購入となります』
「ああなるほど。それは仕方な…」
「あ〜、確かに在庫を早く捌けさせたいですもんねー!」
『いや、捌けさせたいというわけではなく仕入れの都合上なので…すみません』
「川副さん捌けさせたいとかあんまり言わないで」
「しかし色んなテープがありますね。全然知らないミュージシャンばかりなので詳しかったらもっと楽しいでしょうね」
「ええ、ええ!そうですね!こっちのTシャツなんかもオリジナルでしょうか?めちゃくちゃ可愛いですね!なかなかおぼろげです!」
「川副さん、これでカセットの試し聞きが出来ますよ」
「本当だ!すげぇ!すいません!この機械で自分が持ってきたテープって聴くことできるんですか⁈」
『え…?自分のテープですか…?いや、えーと、出来ないわけではないんですが…その、うちの物を聴く用なので…』
「へ〜!聴けるのか!こいつぁすげぇや!」
「店のだけに決まってるじゃないですか。店員さんめちゃくちゃ面食らってますよそんな質問する奴いないから」
「タケイさん!このTシャツも最高です!」
「タテオさん、Tシャツいいから川副さんと先に外出といて」
僕らはその店で気になった安いテープとブランクテープ(まっさらな何も吹き込まれていないカセットテープ)、
そして僕は空色のスウェットを購入した。
店を出てすぐ置いてあるベンチで、まるでミニ四駆を買った小学生のように、袋を開けて互いに買ったものを見せ合った。
「それじゃあ川副さん、僕はこのブランクテープが欲しいので交換しましょう!」
「うん!こういう買った物互いに交換できるのいいよなぁ!」
「そうですね。なんだかミニ四駆のパーツ交換みたいでエモいですね」
「川副さん!せっかくなのでタケイさんの買ったもので記念撮影しましょう!」
「しようしよう!タテオ君似合ってるよ!まるで自分が買ったみたいだよ!」
「本当ですか⁈それはなんだかビッとしますね!」
「それなんなの?」
「じゃあこれはもう写真撮ったので地面に置きましょう!」
「地面でも映えるね!」
「おいふざけんなケースに傷付くだろうが!写真撮ってんじゃねぇよ!」
僕らは雨の降る戸田公園から中目黒に移動することになった。
川副さん行きつけのカセットテープ屋があるということでそこに向かうのだ。
道中素敵な古本屋があったが開いていなかった。
「この悟空いいなぁ」
「あ!川副さん見て下さいこの中華屋!」
「おい!餃子一個90円から!ここはバラ売りしてんのかよ!」
「もういいだろ」
中目黒に着いた僕らは川副さんの案内でズンズンと進んだ。
おそらく1人では来れないような場所にその店はあった。
僕らはそこでも気になったカセットを購入し後にした。
中目黒などそんなに来る機会もない。
僕らは商店街を散策した。
途中ずっと行きたかった古着屋に行き、川副さんはアディダスのジャージを買った。
川副さんが酒以外で金を使うのはあまり見たことがなくって嬉しくなった。
僕らはそのまま遅めの昼食を摂ろうとファミレスに入った。
そこでも買った物を互いに見せ合った。
「タテオ君はほとんど何も買ってなかったけど楽しめたのかい?」
「ええ、ええ。自分はウォークマンを持っていないのでこれを機に買おうかと思っております」
「いいね!俺メルカリで良いの売ってる人知ってるから教えてあげるよ!」
「良いですね。俺にも教えて下さい」
「タケイ君、買ったテープちょっと見せてよ!」
「ああ、これです」
「ちょっとこのテープ、このスープに付けるね。ピチョ」
「テメェ何やってんだ!ふざけんなよ!」
「いってぇ!何すんだよ〜、写真撮る余裕を見せてくれよ…!」
「んなもんねぇよ!しばき回すぞ!」
「川副さん、ウォークマンというのはおすすめの機種なんかはあるのでしょうか?」
「今じゃねぇだろテメェも殴ってやろうか」
店を出ると夜であった。
陽が沈むのも早くなった気がする。天気のせいだろうか。
僕らは東横線に乗り込み渋谷で降りた。
この後どうするか、伊藤さんと合流するかと話に上がったがいつ仕事を終えるか分からない伊藤さんを待つことは出来ない、すぐに帰ろうという答えになった。
この日はもしかしたらぜにいたちの収録が入るかもとのことで全員空けていたが、
振るわなかった僕らはスタジオに呼ばれることなく時間を持て余した。
その為こうして珍しく時間を合わせることが出来、結果良かったと思えた僕は芸人として失格だよなと思ったがなるようにしかならないよなとも思った。
次はまた全員で車でも借りて遊びに行きたい。
台風が過ぎ季節は秋になる。
肌に当たる風も冷たくなって長袖を奥から引っ張り出した。
誰に求められずとも冬も生きるつもりでいるのだと袖を通し無心で労働に出た。
夢の一つに自分の書く文章でお金を稼げたら、 自分の書く文章がお金になったらというのがあります。