惰性と怠惰と駄文と

コロナにかかった。

21日に発熱し、大事をとってPCRを受けると陰性であった。
しかしどうも体調が優れないではないか。

後日、もう一度PCRを受けると陽性であった。
調べるとPCRも20%は外れると言う。


そこからは重症化はしなかったが何を食っても苦い。自然と食欲は無くなる。
恐らくインフルエンザのような症状が10日間続いた。
湿気も相待ってベタベタするベッドは気持ち悪く、身体に鞭を打って風呂に入るがすぐにへたってしまう。浴槽に座り込みたかったが私の家は狭く、また、浴槽も狭い。
座り込むくらいであればすぐに出てベッドでゆっくりしたい。


そうして気付くと8月は終わり9月を迎えていた。
芸人らしい活動を何もしていない私はただのフリーターである。曜日の感覚など何も無い。
バイトがある日は平日。無い日も平日。ライブがある日は時々土日。そんなもんである。


溜まったゴミを出しに外に出た。
扉を開けて肌で感じた風で9月を知る。嗚呼、秋である。急に秋になったのか。否、私はしっかりと日々を過ごしていたのだ。


自宅療養を経て完全復活した。
物を食べていなかったせいで体力は衰えた。
少しでも何かをしたいと家のいらぬ衣服をかき集めた。売るのだ。

夏物でいらないものは袋に詰めた。その作業だけで額に汗をかいた。
20〜30着ほどだろうか。二つの袋はパンパンになった。
ソレを持って家を出た。下北に向かう。


途中、ついこの間まであった家は無くなっていた。跡形もなく。更地。
そのまま歩いていると道に三つ葉が落ちていた。
世田谷には三つ葉が落ちている。落ちている三つ葉に富裕を見る。

落とした人間は食卓に三つ葉を乗せるほどの余裕があるのだ。
三つ葉など料理の添え物。無くてもいい存在。
ソレをわざわざ買うくらいなのだから、買った人間は心にも財布にも余裕があるのだろう。私には、ない。


下北沢にはたくさんの人がいた。緊急事態宣言下。そんなものはここには無かった。皆幸せそうにクレープ屋に列をなしているではないか。

何度か通ったスープカレー屋は火事で閉まっていた。
何度か通ったであろう男女が肩を寄せ合い扉に貼られている張り紙を凝視していた。


古着屋に服を査定に出し、待っている間時間を潰そうと久しぶりに古本屋へ入った。
そこでポールオースターの「孤独の発明」を買った。110円で買える物語。
尾崎ではないがそんな歌詞を思い出した。
toeの曲で全く同じものがあった。あれはこれだったのか。

昔友人に「芸人を目指すなら」とポールオースターのあれは何だったか、幽霊の何とかみたいタイトルだったか。その本を借りた。とても面白かった思い出がある。


本を読もうと喫茶店を探し歩いた。
コーヒーショップは沢山にあるのに中で飲める場所は極端に少ない。
仕方なく私はコメダに入った。
驚いた。中に入ろうとする人たちが列を為しているのである。そんな店だったか。
私はそそくさと退散して他を探した。

嗚呼、そういえばあすこはどうだったかと近くの喫茶店を訪問すると空いている。こういう純喫茶は空いているのか。値段は変わらぬだろうに何が違うのか。

私はピアノの後ろの席に通された。大きな窓から入る陽光が美しい。
メニューを広げ気になったアイスカフェティーなるものを頼んだ。
店員は「私も初めて飲んだ時美味しくて驚きました」と実に可愛い奇譚の無い意見に心を動かされてしまったのだ。

その席で買った古本を出し読む。読書はいつぶりだろうか。
そのまま閉店まで読書に耽った。


店を出ても古着屋から査定終了の電話は無かった。
仕方なく私は街を徘徊した。
別に見たくもない古着屋を冷やかした。
趣味で死ぬほど服を見ているのでどれも高く感じる。
少しでも心を揺さぶられるものがあればいいのだが、そんなものは無かった。粗悪な物に土地柄で値段を付けたものばかりであった。


19時前に査定終了の電話が鳴った。
そのまま店に行って7000円分のチケットをもらった。
店の物と交換であれば7000円、現金なら3000円。
店内を見ても欲しいものは無かった私は後日に回した。


そのまま家に帰ることにした。
途中定食屋でカツ丼弁当を買った。
買うつもりは無かったが、値段の安さについ足が向いてしまった。

弁当を受け取り家路に急いだ。
手を洗い、口を濯いだ。
買った弁当を頬張り私は思った。
「何かをしなければ」
嗚呼、何もしていないのだ。

分かっている。コロナにかかり改めて思った。私は何もしていない。
しっかりと一緒にお笑いをやってくれる人間が隣に欲しい。

本多スイミングスクールに電話をして誰か目ぼしいのはいないかと聞いた。
本多は優しく色々と候補を言ってくれた。

「僕はタケイさんのピンネタをまた見たいです」

何を言っているのか。私にそんなものないじゃぁないか。

「前やってたじゃないですか。コンビでもやってましたけど」

嗚呼、そういえばやった。よく覚えていたな。
そういえばニコの榊原も
「ピンでもネタやりなよ。それがもしかしたらまたテレビでやれるネタになるかもよ」
と言ってた。
そうだ。私は以前ピンネタを作り、そのネタがコンビのネタとなり初めてテレビに出れたのだ。

なんだ、分かっていたが、改めて私にはやることが、できることがあるじゃあないか。
相方を探すのも勿論だが、その前にもう少し一人で足掻いてみようじゃないか。
求めている人間がいるということが知れただけで私はとても嬉しかった。

そうして私はここに書いて自分を奮起している。情けないことか。そうかも知れない。いちいち書くことではないのかも知れない。
まあ良いじゃないか。やる気になっているのだ。


一人でも出来ることをやってみよう。そんな駄文である。


季節は秋になった。頬を伝う風は湿気を帯び金木犀と共に私を撫でた。
着る服を悩んだ私は軍物の上着を着てみたが、歩くとすぐ額に汗が滲んだ。
未だに生きることに不慣れであると思い、笑いともため息とも取れぬ息を吐き宙に消えた。

季節は、秋になった。






夢の一つに自分の書く文章でお金を稼げたら、 自分の書く文章がお金になったらというのがあります。