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漢字の字体・字形について

現代日本語で活字に使用する漢字の字体は、常用漢字は「常用漢字表」に掲げられている字体に、それ以外は『康熙字典(こうきじてん)』の字体に従うのが通例となっています。また、これに加えて、日本人の人名には戸籍法施行規則別表第2「漢字の表」に掲げられている、いわゆる「人名用漢字」も参照されます。

『康熙字典』とは、清の康熙帝の命により編纂された漢字字典で、その収録字数の多さから、字書の集大成として位置づけられています。また、最古の字典『説文解字(せつもんかいじ)』にある篆書を踏まえた字体を採用しているため、字体の基準となる正字を示した書物としての側面も併せ持っています。

但し、『康熙字典』には当初不正確な記述のほか、清朝までの中国で君主の名をみだりに記してはいけないという慣習(避諱(ひき))があったため、「玄」など康熙帝に関する文字の字画の一部が省略される例がありました。そうした不都合を修正した「いわゆる康熙字典体」が、現在では正字の基準となっています。

冒頭で「活字に使用する」と断ってあるのは、手書きではこの慣習が当てはまらないからです。先に述べたように、『康熙字典』の字体は篆書を基にしたものなので、篆書の後の隷書を経て成立した行書や楷書とは形が異なって当然です。

手書きの文字が毛筆の動きを反映しているのに対して、明朝体は木版印刷で用いる刀の打ち込みを主に反映しています。これが、点と線との違いとなって現れるわけで、字形の差はあっても、字体としては同一とみなせます。

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また、例えば「輸」は、康熙字典体の字形(Unicode:U+2F9DF)と手書きの楷書字形(U+8F38)の違いが字体の差に及ぶ例ですが、康熙字典体の右下が「く」の形になっているのは、篆書の字形によるものです。手書きのときは、この通りに書く必要はありません。

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「常用漢字表」(平成22年11月30日内閣告示)の「(付)字体についての解説」では、活字と手書きの字形の差が解説されています。

とあるテレビ番組が、「餃子」の「餃」の偏を「⻟」と書くのを不正解としていましたが、「字体についての解説」にもあるとおり、手書きの場合は「⻞」「⻟」どちらで書いても間違いではありません。むしろ、手書きの場合は「⻟」と書いた方が自然でしょう。また、康熙字典体はあくまで正字を定めたものに過ぎませんので、活字で「⻟」を使ってももちろん何ら問題ありません。

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