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自然体験・アウトドアを仕事にしてみた②青少年教育施設の「指定管理者制度」について

前回は、青少年教育施設とは何かについてご説明しました。

青少年教育施設で14年間働いた私の経験から、もう少し深掘りしてお話しさせていただきます。今回は施設の経営的背景で外せない「指定管理者制度」についてのお話しです。
私が勤めていたのは、南房総市大房岬自然の家(10年間)と千葉県立君津亀山青少年自然の家(4年間)です。両施設とも公共施設でありながらNPO法人千葉自然学校が指定管理者として管理運営を請け負っていました。
指定管理者制度の実際やそのメリット、デメリットについてお話ししたいと思います。

指定管理者制度とは

青少年教育施設の経営を語る上で抑えておかなければならない「指定管理者制度」。どのような制度なのでしょうか。今回は私の経験上ですので、指定管理者制度の前に「青少年教育施設における」という枕詞がつくことをご了承ください。簡単にいうと、これまで行政機関でになってきた公共施設の運営を民間に担ってもらおうという制度です。詳細は以下となりますので、みなさん一緒にこの制度について考えていきましょう!

指定管理者制度導入の目的

指定管理者制度は、2003年地方自治法 244 条改正により以下の目的で導入されました。
(1)民間事業者の活力を活用した住民サービスの向上
(2)施設管理における費用対効果の向上
(3)管理主体の選定手続きの透明化

従来は第三セクターのような公共的な団体でしか委託運営できなかった公共施設を広く民間事業者やNPO団体にも開放していこうという動きです。この頃には、市民ニーズの多様化、行財政の圧迫や地方分権化の流れも相まって整備されたことが背景としてあります。
制度導入により競争も生まれ、サービスの質の向上やコストカットが期待されていました。

指定管理者制度導入でできるようになったこと

地方自治体は、設置者として指定管理者を監督する役割になります。従来の管理委託制度とは異なり、以下のようなことが可能となりました。
「→」は運営に携わった私の所感です。

・利用者からの料金を自らの収入として収受すること。
 →ここは民間事業者としては重要なポイントですが、公共施設の特性上、低単価での料金になるのであまり大きな収益は見込めないのが現状です。

・条例により定められた枠組みの中で、地方公共団体の承認を得て自ら料金を設定すること。
 →上記同様ですが、条例により料金の上限が定められているのが通常です。料金の上限の引き上げは条例の変更になるので、議会の承認事項となりハードル高めです。

・個々の使用許可を行うこと。
 →どのような目的・用途で使用してもらうのかも条例によって定められています。それらから外れてしまう使用については監督者である自治体に確認や伺いを立てる必要があります。

一見民間参入で自由度が高まったようにも感じますが、意外に地方自治体からの条件が課せられています。民間事業者の悪質な運営・乱用を防ぐ意味で地方自治体の条例というブレーキもつけられているのが指定管理者制度だと思います。

指定管理者はどのように選定されるのか

指定管理者は公募で募集され、民間事業者は提出書類を作成し提案内容をプレゼンします。選定は外部有識者からなる指定管理者選定委員会により審査され、候補者が選定され、議会の議決を持って指定管理者が選定されます。
以下は千葉県の青少年教育施設の指定管理者募集のページとなっています。

指定管理者は指定管理料といって運営にかかる経費予算を自治体が負担してくれます。千葉県の青少年教育施設は大体1施設あたり年間1億円前後の予算が指定管理者に充てられています。これも全て上記ページに載っていますので、応募の際には民間事業者はその予算内で運営できる事業計画を提案するわけです。人件費、水光熱費、消耗品費など大きな修繕以外の維持管理費全てが含まれています。

また、契約年数については大体1期5年間が多いようですが、対象の施設によって公募条件が変わってきます。5年間が満了した後は、自治体の方針で再度新規募集がかけられたり、その施設自体の運営を継続するかが見直されたりされます。

指定管理者制度導入の状況

令和3年度の文部科学省の調査では、青少年教育施設840施設に対して指定管理者制度導入をしているのは376施設であり42.1%が導入しているという状況です。他の社会教育施設(公民館、図書館、博物館、女性教育施設、社会体育施設、劇場・音楽堂、生涯学習 センター等)に比べれば高い割合となっています。詳しくはこちらから。

民間事業者から見た指定管理者制度のメリット

それでは、自然体験・アウトドアを仕事にしている民間事業者から見た、指定管理者制度のメリットについて考察したいと思います。基本的には、青少年教育施設と、自然体験・アウトドアは相性が良いと思っています。もっと、私たちのような事業者が指定管理者として、青少年教育施設の運営に深く関わっていくべきです!

①まとまった予算を得ることにより人材をプールできる
先述したとおり、施設を指定管理者として運営することができると、かなり大きな予算を獲得することができます。当然スタッフも安定的(契約期間内)に雇用することができます。

②活動拠点を確保できる
購入費用や賃貸借費用をかけずフィールドや備品を利用でき、活動が展開できるのは大きなメリットです。独立した私の場合はまだ拠点を得られず、ツアーやイベント実施のたびにキャンプ場を手配したり、活動できる場所を開拓しているのが現状です。

③公的機関という後ろ盾を得られる
一民間事業者やNPO団体の名前だけでは、信頼が得られないケースもありますが、施設の名前をうまく利用すれば、信頼してもらえることがたくさんあります。例えば、私の経営する法人名は「合同会社くじらのもり」ですが、この法人名で打つイベントと、「大房岬自然の家(前職)」で打つイベントでは、参加する方の信頼性や受け取るイメージが大きく変わります。青少年教育施設の所管部署は教育委員会であることが多いので、行政機関とのパイプができることも大きなメリットです。

④広く多くの人に自然体験を届けられる
①②③を踏まえた上で、青少年教育施設を運営できることで、人材・フィールド・プログラムを充実させることができます。そして、公共施設という側面をうまく利用し、安価で多くの人に自然体験を提供できるようになります。運営団体の認知度も上がりますし、社会に対するインパクトもより大きく与えることができます。これは最大のメリットです。

民間事業者から見た指定管理者制度のデメリット

メリットだけではなく、当然リスクや活動の幅を狭める要因もあります。

①契約期間が決まっている
先述したとおり、1期あたり5年間という契約期間が決まっています。逆にいうと、5年後募集で選定されなければ施設を運営できている保証はないわけです。大きな投資や5年以上の事業計画が立てにくいという側面があります。監督者としても5年以上の期間を1事業者に任せるのは大きな決断になると思いますので、契約期間にについて官民双方で考える必要がありますね。

②施設運営以外の業務にあたれない
指定管理者が青少年教育施設の運営以外の事業をしているケースも少なくないです。指定管理料は税金から捻出されているので、青少年教育施設の運営とは関係のない業務にあたることはできないのが原則です。この部分をもう少し緩和し、施設運営に支障がでなければ積極的に他の業務にあたれるようになれば良いですね。それが民間事業者の力を発揮することにもなりますし、運営団体内での人材の流動性も高まり、事業者としてもメリットを感じやすくなるのではないかと思います。

③使用料とコストがバランスしていない
これも先述したとおり、条例の範囲内で設定できるのですが、他の施設との足並みを揃える必要もあり、千葉県内は青少年教育施設の宿泊料は全施設同じ料金となっています。その料金はなんと驚きの大人830円、小人300円です。この物価高で、明らかに利用者を増やせば増やすほどコストが上がっていくことがわかります。これで本当に競争力が働くのか、民間で行う事業ではあり得ない話です。しかし、学校や非営利団体などが利用する施設なので、値上げすれば良いとい単純な話ではありません。どうやって運営費を賄うか全体の設計を見直す必要があると思います。

④民間事業者の価格との乖離
私のように指定管理者制度を利用していない民間の自然体験事業者もいる中で、その安価な料金設定が民間圧迫になってしまいます。宿泊事業者に対しても同様です。実際に地域の宿泊事業者との軋轢を生んでしまうケースも少なくないです。メリットで説明した部分と相反することになりますが、指定管理者は地域の民間事業者とどう連携するのか、どう棲み分けをしていくのかをよく考えなければなりません。

さて、今回は指定管理者制度について解説させてもらいました。皆さんのお近くにも指定管理者制度を利用している施設が必ずあるはずです。上記の目線でぜひ見てみてください。皆さんの税金を使用して運営されている施設ですよ!
青少年教育施設については思い入れも強いのでもう少し記事として書いてみたいと思います。青少年教育施設の意義、課題、解決しなければいけないことも少しずつ発信していきます。

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