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「ファミリーリハビリ」で社会を変える

医療デザイン Key Person Interview : つくば公園前ファミリークリニック 院長 中川 将吾

2022年5月、整形外科クリニックが新たにオープンする。院長の中川将吾には「普通のクリニック」にするつもりはない。

整形外科、リハビリ、そして小児専門の中川のキャリアは独特だ。そんな経歴だからこそ、子どもたちが通いたくなる、ママたちが通わせたくなるクリニックを目指している。

年間何百件の手術を行って患者さんに向き合ってきた中川が開業するきっかけとなったのは? ただし開業は、中川の壮大な構想の第一章に過ぎない。開業を間近に控えた中川の思いを聞いた。

100人に1人の小児整形専門医

中川将吾は医学生だったころから、小児整形を専門にしたいと決めていた。

一般的に「子どもは全部、小児科で」と思われがちだが、大人の診療科が細かく分かれているように、小児の診療科も実は細かく分かれている。

各分野に小児専門の医師がいるが、整形外科医が100人いたとしても小児整形外科医は1人いるかどうかだそうだ。

「当時、一緒に遊んでいた仲間の多くは小児科医を志していました。
僕は、陸上をやっていた経験から整形に進みたかったのですが、そのうち子ども向けの整形って何してるんだろう?って興味を持ち始めました。」

ーー整形外科志望の医学生は普通、小児整形には興味を持たない?

「持たないというか、存在すら知らないと思います。僕は学生のころから小児整形の学会に参加したりもしていましたけど……当時から『そんな学生聞いたことないぞ』と珍しがられていましたね。」

大学卒業後に希望通り整形外科医となった中川のキャリアは順調だった。

学会でのポスター発表の様子

手術経験を積む中で、訪れた転機

若手医師だったころの中川は、整形外科の手術に明け暮れていた。

横浜の病院、さらに全国トップクラスの小児整形外科と呼び声の高い、滋賀の小児保健医療センターで研鑽を積んでいく。

「医師になって3年目でしたが、勤務先は横浜の大きな病院でした。年間300件だったかな。外傷や骨折の手術、高齢の方の手術が多くて、寝る間を惜しんでやっていました。
普通の専門医で100~150件なのでハイペースでした。鍛えられましたね。」

ーーその後、勤めた滋賀県の病院もトップクラスに手術が多かった?

「滋賀は小児整形に関しては日本ナンバーワンの手術件数でした。
全国から飛行機に乗って、子どもたちが手術を受けに来るほどの環境で、いろいろと学ばせてもらいました。」

ところが順調に見えるキャリアの中で、まったく考えていなかった“開業”の選択肢がちらつき始めた。

「もともと医療、治療、リハビリのことだけ考えていました。開業なんて面倒で(笑)、想像したこともなかったです。

ただ患者さんを第一に考えたいのに『この手術は本当に必要かな?』というケースで、手術が選択されるのを見た経験もありました。

運動機能の回復が望めないのに、リハビリを続けているケース、逆にリハビリの頻度を上げたほうがいいのにそのままの患者さんもいます。

しかし公的で巨大な組織だとなかなか融通が効かず……。すばやく判断して適切な医療を提供するには自分で開業するしかないと決意したんです。」

twitterのヘッダ画像にも用いられているファミリハの構想図

作りたいのは「通いたくなる」クリニック

茨城県つくば市「科学万博記念公園」の広大な敷地からほど近くに中川は開院の場所を定めた。

外は遊び場と自然がいっぱい。クリニックも医療施設というより、おもちゃの家と言った方が近そうだ。

ーーつくば市は大学にも通ったなじみの場所であり、「子育ての街」なんですよね?

「日本全体では少子高齢化が進んでいるのに、つくば市はどんどん若い世代が入ってきている稀有な土地なんです。だから子どもが増えて、小中学校もできて、どう健康に育ってもらうかというフェーズ。小児整形のクリニックには良い場所なのかなと。」

ーー子どもを集めるためにも大きな公園の近くに?

「環境がよくて緑の多いところを探しました。公園の近くなら、クリニックに来たついでに公園で歩いたり走ったりするのも、リハビリになります。公園で遊んでからクリニックで遊んでくれてもいいんです。

リハビリはツラくて痛い思いをするところじゃないです。みんなが通いやすい、通いたくなる空間を作っていきたいです。」

中川が理想とするクリニックつくりはこの「模型」から始まった

ーーお年寄りにも整形外科は大切だと思いますが、あえて子ども向けに特化した?

「高齢者向けのリハビリはたくさんあるので、そこは他の病院、クリニックにお任せして、子どもやファミリー層に注力したいと思っています。それがファミリーリハビリという概念ですね。

リハビリと手術どっちが必要なのか。何がそのお子さんにとって一番いいのかを診るのは小児整形専門の僕の役割だと思っています。

また僕は幸運にもリハビリの研究、知識も重ねてきました。手術だけやっていたら気がつけなかったかもしれませんが、お子さんがリハビリをしっかりやると手術を回避できるケースもいっぱい見てきたんです。

それには遊び場が重要なんです。子どもは遊びがリハビリになりますから。」

ーー遊び場の発想で言うと医療デザインサミットでもお話しされていた空間づくりが印象深いです。

「実はお手本があるんですよ。小児歯科なんですが全国にいくつかテーマパーク的な発想の歯医者さんがあります。『歯医者さんは怖くないよ』ってメッセージをうまく打ち出しているんで。そこにヒントを得ました。

ただ、最初は設計の方たちと打合せても苦労しましたね。『え?本気ですか』みたいな反応もありました(笑)。」

中川が着想を得たという鹿児島の「よしどめキッズデンタルランドワハハ」ホームページより

社会の仕組みやまちづくりに関わりたい

中川の行動力は並外れている。

クラウドファンディングを立ち上げ出産後のママ向けの情報を発信もした。またコロナ禍で乳児健診を見合わせる動きが出ると、乳児の関節に異常がないか動画で無料アドバイスをしたこともある。

しかも開業の準備をしながらの時期だ。

そんな中川の精力的な動きが筑波大学陸上部の先輩であり、医師の野﨑礼史(日本医療デザインセンター理事)の耳に入る。

「やろうとしていること、やりたいことって合致するのでは?」と考えた野崎のアドバイスから、中川は医療デザインの存在を初めて知った。

「最初に「医療デザイン」って名前を聞いて、ホームページ検索したんですけど、これだなって思いました!

何か手伝ってくれるかもしれないって思うし、むしろ何だろう、自分がやってることを成功させて、手伝いたいっていう、彼らの正しさを証明してあげたいって思ったんです。」

ーー関係者が泣いて喜びそうです。そこまでポテンシャルを感じた理由は?

「桑畑さん(日本医療デザインセンター代表理事)をはじめ、みんな上手なんですよ。」

ーー上手とはどんな意味でしょうか

「組み立て型、伝え方ですかね。誰にでも理解できるように、伝わるようにって結構難しいじゃないですか。僕は言語化が苦手です。思いついたまま話すことも多く、『理解させられていないな』って思うこともよくあります。
“デザインの力”で、伝え方をもっと向上させたい思いはありますね。」

3月下旬、建物引き渡し直前のクリニックの外観。開院準備はここから加速する

ーーちゃんとメッセージが伝えられるのがよいクリニックということでしょうか?

「もちろんまずはクリニックもうまく経営したいですが、僕は5年後もずっとここにいるつもりはないんですね。

仕組みをつくって回して、誰かを育てて……あとは任せたよって状態にします。で、こんなファミリー向けのリハビリクリニックを全国に作るっていうのがプランです。

クリニックを新たにつくるよりも、やりたい人を育ててそれを手伝いに行く感じですかね。医師を続けるよりももっと大きなスケールで、まちづくりとか、社会の仕組みづくりをしたいです!」

壮大なビジョンを持つ中川のもとには、開業から関わりたいというスタッフも続々と集まってきている。

理念を同じにした力が集まれば「通いたくなる」クリニックはきっと実現できるだろう。
その先へと、挑戦は続く。

取材後記

5年前までは“サラリーマン”しか考えられなかったという中川先生。どこでどう自分でリミッターを外したのか、現在は独特の世界観を持っています。発想が自由で、大胆でしかも結果を伴わせる行動力もあります。

しかし傲慢さも、忖度や謙遜とも無縁な自然体の印象。「明鏡止水」という言葉を思い出しました。それでいて心の内に秘めた情熱が強いのも伝わってくる魅力のある方です。

「自分が強力なリーダーシップで引っ張るより、スタッフの力が自然に100%発揮される仕組みをつくる」などの志向性も、経営者向きなのではないでしょうか。開業が待ちきれません。
(聞き手:医療デザインライター・藤原友亮)

日本医療デザインセンター桑畑より

本記事のタイトルに「社会を変える」とありますが、その言葉が決して誇張されたものではなく、本当に社会を変えていく未来が見えちゃうのが中川将吾先生です。
若くてイケメンで優しいお人柄という、大きなアドバンテージをいくつも持っておりますが(嫉妬)、その最大の魅力は、ご自身が描いた可能性に対して、学び、動き続けるバイタリティだと思います。
僕がこれまでにお会いしてきた医師の中でも中川先生ほど「社会起業家」の素養がある方を知りません。
医療人のプロフェッショナリズムと、社会を変えていく『変革家』の両方を高いレベルで兼ね備えた中川先生のチャレンジには、可能性しか感じません。存在そのものが周囲に心地よい刺激を与えてくれる人です。

中川 将吾さん プロフィール

石川県出身。高校時代から陸上選手として活躍。大学時代は最も過酷と言われる十種競技に取り組んだ。
2009年、筑波大学卒業。小児整形外科を専門として、横浜労災病院、滋賀県立小児保健医療センター整形外科、茨城県立医療大学付属病院整形外科などで勤務。2020年に筑波大学大学院博士課程修了。
2022年5月、茨城県つくば市につくば公園前ファミリークリニックを開業予定。2児の父でもある。

  • 2009年 筑波大学医学専門学群医学類卒業

  • 2009年 京都第二赤十字病院初期研修

  • 2011年 筑波大学整形外科後期研修

  • 2016年 滋賀県立小児保健医療センター整形外科

  • 2020年 筑波大学大学院博士課程修了

  • 2020年 茨城県立医療大学付属病院整形外科

  • 2022年 つくば公園前ファミリークリニックを開業

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