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動物とぶつかる!!

僕の乗務していた路線、風光明媚な山間を走っていくローカル線でもありましたが、そんなところ特有の悩みがありました。
それは鹿をはじめとする、動物との接触事故。
僕が見習いで配属されたころと比べると、車掌として在籍した8年ほどでもかなり鹿などの動物とぶつかって止まるということは増えたような気がします。
多分、森林の状態が悪くなり、餌を求めて麓へ降りてくることが多くなったのでしょうか。

路線によってはほぼ毎日のようにシカとぶつかっているという路線もありましたね。一度訓練で、深夜のその路線の様子を見せてもらいましたが、列車が徐行していくと沿線に無数のシカの目が光っているという光景を見ることができました。
いくらスピードを落としていても、直前に飛び出してこられたら流石にすぐに止まれません。これではぶつかるのもしょうがないよね…と思いました。

さて、シカにぶつかると20分ぐらいは列車の遅れを覚悟しなければいけません。
まずは非常停止。車掌がお客さんへの案内を行っている間、運転士が降りて現場の確認。
とはいえ、高速走行時に当たった場合はかなり後ろへ行かなければいけないので、暗闇の中ということもあり大変だと思います。

そしてもしも後続列車等に支障がある場合は手袋を着用しての除去作業。
この時にもしも一人では厳しいサイズの個体であれば、車掌も手伝うことがある模様。
僕は幸いにしてその経験はありませんでした。

そして車両の点検。台車回り、ブレーキに異常がないかなどを確認し、安全の確認が取れたら運転再開となります。

ちょっと特殊な例として、台車下に巻き込んでしまったこともありました。
最初、運転士さんが探しに行って、見つからんぞ!と戻ってきたと思ったら、7両編成あった列車の最後尾(僕もそこにいました)の車両下に巻き込まれていたということもありました。
そうなると厄介で、もう一度運転士が先頭へ戻り、最徐行で移動して床下から出たところ(僕が後ろを監視して合図した)で再び停止。そして再度、現場確認と安全点検という手順になったので、運転再開まで40分ぐらいかかってしまいました。

勿論会社側も無策というわけではなく、鹿を防ぐ柵を設置したり、特に発生しやすい区間・時間に限って、鹿対策の徐行をしたり。台車に巻き込まないように、横に跳ね飛ばすようなダンパーを付けたり。
なかなか抜本的な対策とは言えませんが、様々な手段を講じていました。

運転士さんの中でも、無線でシカの群れがいたから気を付けて!と反対列車に注意喚起したりもしていましたね。
人によっては、毎回ローカル区間に行くたびに、シカを倒してくることで「ハンター」と呼ばれている先輩もいました。本人もちょっとやっつけてくるわ…と、半分冗談で言いながら出発して、本当に倒してくるのだから笑えない・・・

僕も、見習い時代にシカにぶつかった経験があります。しかもよりによって、騎乗教育を終えて初めての見習いの時。
夜の帰り道、だいぶ麓の方まで降りてきたので、先生がもうここまで来たら、鹿もぶつからないやろ。と言った次の瞬間でした。
警笛と急ブレーキ。
はい。見事にぶつかりました。
その当時、その区間でシカとぶつかるということはあまり前例がなかったらしく…
しかも、僕の先生(ベテラン)自身、それまでシカにぶつかった経験はないらしく…
先生から「お前、鹿を呼び寄せてるやろ!」と冗談半分で言われました。

まあ独り立ちしてからは僕の列車がシカに当たることは少なかったので、真偽のほどは定かではありません。

因みに基本としては、シカとぶつかったら即座に停止し、安全確認を行うことになってはいますが、まあ全てのケースでそうしているか…というと、まあそうではないようです。
(後ろに乗っている車掌にはわからないケースが多いですが)
まともに当たったわけではなく、ちょっとかすったぐらいなら、そのまま通過していく(俗にいう轢き逃げ)運転士も多かったよう。所定の手順で報告された衝撃のあとのシカのご遺体は、そのあと保線系の方により丁重に?処分されるわけですが、轢き逃げに遭ったシカはカラスの餌となって少しづつ朽ちていくわけです。
(生真面目な方は、シカの死体があることを報告。それを受けて保線系の方が処置をしに行くことも)
まあ、安全上大丈夫そうであれば、そのまま行ってしまいたい!という運転手さんの気持ちには車掌の身からしても大いに賛同します。とはいえ、まともにぶつかったら諦めて止まるというように、運転士さんの中でも基準を持っていることは付け加えておきます。
こんなことがありました。特急の乗務を担当するようになり、暫くの間、運がいいことに全く鹿とぶつかることはないと思っていました。特に最終の上り特急。これで遅れると最終接続などがあったりして非常に厄介。鹿との衝撃を避けるための徐行もギリギリ掛けられない列車なので、残念ながら、非常にリスクの高い列車ということは乗務員の中でも知られていました。

しかし、全く当たらない。これは運がいいぞ!ラッキー!と思っていたある日のことでした。とある職場の飲み会の席のこと。丁度僕の席の後ろに座っていた先輩運転士、その上り最終特急でいつもペアを組むローテーションとなっている方でした。
その人と他の運転士さんで話していた内容にびっくり。
「やっぱり〇〇列車ってよくシカとぶつかるよね~」「オレもよく轢くわ~」
なんてことを話しています。
うんうん、そうだよね。
え??
確か一回も止まっていないはず…(ぶつかっていないのとは言い切れない)
思わず振り返り、
「え??僕と一緒に乗っている列車ですよね?…てことは…」
「え(笑)もちろん轢き逃げだよ!」
と満面の笑顔で返された。いや~、定時運転はこの人の勇気?によって守られていたのか…と妙に納得するのだった。
因みに、組み換えでその運転士さんとは乗らなくなったら、コンスタントに時々シカにぶつかるようになったことを付け加えておきます。

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