未知との遭遇【ビデ編】

 アルゼンチンに来たことで、初めて目にしたものがある。それは、ビデ。ヨーロッパでは、割と見かけるらしいから、知っている人は多いかもしれない。でも南米では、少なくともぼくが行ったことのあるペルー、チリ、ブラジルでは見かけたことは一度もなかった。何でこんなものが付いてるんだ?と考えていたけど、これはなかなかいいもんだった。

 はじめてビデを目にしたのは、アルゼンチンとチリの国境付近の街・サン・カルロス・デ・バリローチェの安宿に泊まったときだった。アウトドアやウインタースポーツが楽しめる、湖畔の美しい街だ。安宿にあった4畳ほどの空間には、トイレ、ビデ、シャワー、手洗い場が一切の隔たりなく存在していた。その中で唯一の未知だったビデは異質な存在感を放っていて、最初シャワーヘッドがあることに気付かなかったぼくは「なんだこの安宿は!シャワーなしで頭だけこれで洗えってか!アルゼンチン!」と闇夜を歩いてたどり着いた宿に落胆していた。

 そして今滞在しているネウケンという街にやってきて、初めて理解した。こいつが「ビデ」だったのか。無学なぼくは、アルゼンチン人の青年にその機能を尋ね「お、お尻を洗うんだよ」と恥ずかしそうに言わせてしまった。そして初めて聞いたそのculo(クロ)という単語を辞書で検索し、ビデへの理解を深めた。ははーん。彼に教えてもらうまではてっきり、足が臭い人専用の足洗い場だと、やっとこさ使い方が分かったと勘違いして「これは売れるぞ、日本のサラリーマンたちにウケそうだな」とほくそ笑みながら、自分の足を洗って帰国したら輸入業でもやるかと妄想していた。

 確かにウォシュレットが無いのであれば、ビデは役立つに違いない。ただ、トイレで用を足したあとビデに移動して、お尻を洗うという一連の行動がやっぱり理解できない。だいたい、どっち向いて使うものなんだ。栓の位置が体の前に来ないと、水の噴出力を調整できないだろうから、写真のような場合は壁側を向いてしゃがみながら使うのだろう。なるほど。用を足したあと、左足を軸に体を回転させればそのままズムーズにビデへと移行できるわけか。だとすれば美しい動線だ。どうなんだろう。

 しかもこのビデは、モップを洗ったり、それこそ臭い足を洗ったりしてもいいものらしい。超便利じゃんか。トイレとビデの美しい分業だ。明日からは、ドミトリーに戻ったときには足を洗い、用を足したら可憐なターンでビデることにしよう。

 ビデは日本よりもアルゼンチンにいた方が、存在価値が高いだろう。なぜかというと、トイレットペーパーがゴワゴワしているからだ。ビデを見つめながらぼくは、日本の柔らかいダブルのトイレットペーパーを懐古した。とくに日本が恋しいということはないけれど、生活の端々で日本製品の質の高さを感じる日々の中にいる。

 

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