大学教育改革を振り返る(神戸大学2016~2019)


2016年から神戸大学で行われた教育改革について現時点(2020年1月)で私が観測できた範囲から振り返りたいと思います。なお、大学内でも様々な角度から振り返りとさらなる改善に向けて議論が行われており、一部は既に決定・広報の段階にあることを申し添えます。

このために綿密・広範な調査を行うほどのモチベーションは今のところありませんので、私の視点からの個人的な報告主体になります。しっかりと分析したい方は広く関係者に当たるなどしていただけたらと思います。

行われた改革内容は以下の通りです(細かいものは省いています)
(1) クォーター制の導入
(2) 教養教育の充実
(3) 新学部(国際人間科学部)の設置 2017~

(3) については以前(以下の記事)詳しく書きましたので今回は(1)と(2)について主に書きます。

クォーター制の導入

従来、前期・後期の2学期制で行われていた授業スケジュールを、1学期をさらに半分に分けた4クォーター制に移行しました。導入の経緯をごく簡単に説明すると、学生の短期留学を増やす方策として秋入学とクォーター制が検討され、クォーター制が選ばれました(他の大学もやってるし)。

海外に行くために大学を1学期休んでしまうと残りの3.5年で単位を揃えて卒業するのが大変すぎて4年で卒業するのが難しくなってしまうけど、休むのが1クォーターで済むなら4年で卒業しやすくなるので挑戦する人が増えるだろうという理屈です。

クォーター制に対する学生・教職員の反応、短期留学数のデータなどを詳しく知りたい方向けには、2018年3月時点でのデータをまとめた紀要論文を紹介します。

なぜクォーター制が短期留学の大幅な増加につながらなかったのか

クォーター制が短期留学の増加につながったかというと、現時点では「まったくつながらなかったというわけではないが、期待したほどの効果はなかった」というところではないかと思われます [要出典]。

工学部など一部の学部はクォーター制の導入に合わせて大幅にカリキュラムを変更し、必修の授業がないクォーター(ギャップターム)を作るなどしました。しかし、もともと海外挑戦意欲の強い学生がそれほど多くない学部ですので、海外派遣の増加には時間がかかります。

一方、もともと海外志向の強い学部を改組して生まれた国際人間科学部では、ほとんどゼロから新カリキュラムを組める状態であったにも関わらず、クォーター制に対応したカリキュラムを作ることができませんでした。1クォーター休むのも1学期休むのも残りの期間で単位を揃える大変さはあまり変わらないかもしれません。新学部では海外研修を必修としているので、海外派遣数はもちろん増えているのですが、クォーター制のメリットはほとんど実感できていない状況です。

クォーター制に合わせたカリキュラム?

クォーター制にカリキュラムを合わせる方法としては大まかに次の3つが考えられます。

(1) 従来の半分の回数を単位として講義を再構成する(15回→8回)
(2) 週2回講義を行うことで1クォーターで従来通りの回数を確保する
(3) 従来通り講義を行い2クォーター続けて受講させる

私などは「Twitterに載せる動画は1分でも長いと言われる時代に、90分の講義を15回が『単位』だなんて長い長い長すぎるんじゃ!オムニバスつまみぐい上等!」と思っているような人間なので「よっしゃ!」で (1) に取り掛かりました。

しかし、長く大学で教鞭をとられている先生方には「体系的に学問を教えるためには少なくとも15回は必要」論者が多いです。細切れな情報にあふれる時代だからこそ大学はそれに流されないべきだという考え方もできますし、それくらいの多様性は認められるべきかな、とは私も思うところです。

それでも (2) の週2回講義を選べればよいのですが、国際人間科学部のグローバル文化学科ではひとつも (2) はありません。ほとんどの授業が (3) 2クォーター続けての授業になっているので1クォーター海外に行くと、講義の前半か後半のどちらかは受けられないことになってしまいます。(ちなみに後半だけは取れませんので前の年に前半を取っておくなどが必要です。)

なぜそうなってしまったのか。

ひとつは、クォーター制の導入に反対の人が多いことでしょう。(1) や (2) などのクォーター制対応をしながら、一方ではクォーター制に反対の姿勢を保つという器用なことができる人はなかなかいません。断固反対なので対応もしない、ということです。

もうひとつは、いざ週2回講義をやろうと思っても時間割が組めないことです。グローバル文化学科の先生は語学の授業や教養の授業など学部以外の授業担当が多いせいで時間割がかなり埋まっており、そこから学部の授業を当てはめていくパズルが難しくなっています。

多くの先生がクォーター制に対応しないまま2クォーター使って授業をしている状況で、少数派の先生が「週2回講義をやってみよう!」と思っても、都合よく空いているコマなんてありません。週2回講義を取ると履修できない裏番組が単純に2倍になってしまうわけで、それはそれで困ることになってしまいます。

クォーター制によく対応している学部はそもそも各先生の担当授業数が少ない、というような傾向があったりするかもしれません [要出典]

クォーター制の現在

短期留学の増加という当初からの導入目的が明確には達成されない裏で、「教養科目として多様な科目を少しずつ学習できることがクォーター制のメリットである」と、大学側の説明する目的・趣旨が変遷してきています。

表では、学生・教職員がそのほかのメリット・デメリットを実感しています。学生にとっては、テスト回数が倍になることとテスト範囲が半分ずつになることはトントン、単位が小まめにとれるので必要単位数に達したら次のクォーターで取る授業数を減らすことができるメリットがとても大きいと思われているようです[出典]。

教員視点では、第1クォーター・第3クォーターの後、試験やレポートの採点をしながら次のクォーターの授業をするのが辛いという意見が多いです。その時期になるとみなさん夜も土日も採点しています。(個人的には第3クォーターの成績登録期間は卒論の〆切も重なってくるのが一番しんどいです。でも来年以降は卒論〆切が変わるのでそれはなんとかなりそう。)

年に2回繁忙期で残業するくらいそうぶーぶー言うことでもなかろう、と思う方もいるかもしれませんが、夜や土日は研究の時間…

それでいま議論されているクォーター制の変更が以下の通りです
変更1:第1、第3クォーターの成績発表時期を遅らせて成績評価業務の負荷分散を図る
変更2:教養科目は1クォーター、ほかの科目は2クォーターを基本とする

当初の導入目的から考えるともはや無意味となってしまうレベルの変更であることに加えて、学生が大きく感じていたメリットが失われてしまうため、当初からクォーター制に反対していた人たちとは別の方面から反対の声が上がる状態になっています。しかしながら、そもそもの目的が変遷していますので、制度設計と目的がひどくかい離しているというわけではありません。

授業を減らせばよかったのでは?

個人的には、もう少しうまくやれば当初の導入目的を達成できたのではないかという思いがあり、巻き戻しに近い制度変更は残念に感じています。

そもそも3.5年で単位を揃えるのがきついなら3.75年でもきついです。そんなに海外経験が大事なんだったらクォーター制の導入に合わせて大学の授業で取るべき単位数を(3.75/4)倍すればよかったと思います。おおよそ8単位、つまりクォーター制の授業で8コマ分相当を減らすことになります。海外派遣によってそれくらいの単位が取れるようにするのでもよいかもしれません。

減らす8コマは教養科目にしてしまいましょう。教養の開講授業数も減らしてしまいましょう。そうするとあら不思議!国際人間科学部の先生の担当授業数が減るので、国際人間科学部でクォーター制に合わせた新カリキュラムが作りやすくなります。「クォーター制になると教養の担当授業が減るよ!」と当時言っていれば多くの先生が喜んでカリキュラムの変更に協力したことでしょう。(こういうしたたかさがないんだなあ)

ところが実際にその当時同時に進行していたのはそう!(2) 教養教育の充実だったわけです。逆!「謎はすべて解けた!」という感じがしますね。

今からでも遅くはない?

「教養の担当授業数を減らすから協力して!」作戦はあまりにも強力なので今からでも使えます。まだ間に合う。

「そうはいっても教養は大事だから減らすのは心配」はい。それは私もそう思います。

でも、何百人も入る教室で行う座学の講義、その人気講義の抽選に外れたやる気がない学生の集まる講義で、その大事な教養が有効に身につくとはあまり思えません。そんな講義よりは、講義を録画してしまって好きな時間に見てもらったらいいです。海外にいるときも受講できて一石二鳥です。

成績評価のためのテストやレポートとその採点は残すとか、いろいろな分野の講義ビデオを見てきたうえで教室ではグループワークをするとか、省力化しつつも教育効果は高められるようなやりようがいろいろあるはず。

そもそも、何か新しいことを始めるなら何かやめたほうがいいんじゃないかな。人を新しく雇うなら話は別ですけど。

むすび:神戸大学は大丈夫だよ!

ここまで読んで「神戸大学、大丈夫かいな」って心配になっちゃった人もいるかもしれません。「大丈夫だよ!」と言って終わりたい。

成績発表時期を遅らせるのは「何かをするために何かをやめた」のだと考えると、実はこれまでになかったよい傾向なのかもしれないというのが一つ。

なんやかんやで教育熱心な先生がたくさんいるよってのが一つ。

あとはおもしろい学生・卒業生がたくさんいる。note で見つけた人だけ適当に紹介しておきますね(順不同)。さあさあどんどんみんな note 書こう。

ほかにもいろいろあるけど、今日はここまで!読んでくれてありがとうございました。

ここまで読んでくださってありがとうございます。サポートいただけましたら意欲ある学生を支援するのに使わせていただきます。