安いけどうまいワインなんだ@バルセロナ

1990年代はじめ、2ヶ月ぐらいかけてヨーロッパを旅していたことがあった。
ロンドン、パリ、バルセロナ、マドリッド、リスボン。別れた彼女を追いかけたり、路上で喧嘩したり、ジャーナリストの真似事をしたりと20代半ばだからできる破天荒な旅だった。

バブルが終わって間もない頃だから、日本ではまだイタリアンやスパニッシュはおしゃれな料理で、ワインもどこか気取って飲むお酒だった時代。バルセロナで大衆居酒屋に入った。大通りに面した広々とした店にアジア人のカップル。「きっとふっかけられるだろうな」と思ったが、思い切ってワインを頼んでみた。

すると、中年のお腹の出た気の良さそうなウエイターがワインを1本持ってきてくれた。「このエリアで作られたワイン。安いんだけど、うまいんだ」と言ってくれた。確か1本1500円ぐらいと驚くほど安かった。

笑ったのがコルクの開け方。前掛けをしてたのだが、ちょっと腰を引いて、ワインのボトルを股に挟んでコルクをスポンと抜く。思わず笑ってしまった。

そして、グラスに注がれたワインはとてもすっきりとして、美味しかった。バルセロナの魚料理にもバッチリ合った。喧嘩をしていた彼女とも、楽しく食事をした。

今でも安い居酒屋が好きだ。値段が安くて、でも丁寧な仕事をしていたり、お客のことを思って酒を仕入れたりするお店と出会うと、とても嬉しく、「仕事ってこうあるべきだよな」と思う。

そして、ふと、バルセロナの太っちょウエイターさんの「安いんだけど、うまいワインなんだ」という言葉を思い出すのである。

#いい時間とお酒

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