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▼哲頭 ⇔ 綴美▲(6枚目とカント)

(哲学を美で表現するとしたら?美を哲学で解釈するとしたら?そんな思いをコラムにしたくなった。自分の作品も含めた、哲学と美の関係を探究する試み。)

今日の1枚は、大学2年生の初めころに描いた絵である。
絵の背景は、秋めいた木々と日が落ちていく空をイメージしていたと思う。秋は、厳しい冬に耐える準備を進めるため、花や葉を落として「無」に向かっていく季節である。日が落ちていく空は、それまでの光の明るさや澄んだ青さが失われていくため、夕闇という「無」に向かっていく状態である。

そんな背景の「無」に影響されない存在が絵の中央に位置している。中学生のときに「二点透視図法」という図形の描き方を学んでから、私は好んでこの図法を用いて色々な図形を描いた。

二点透視図法で描かれた図形から伝わってくる「秩序の美しさ」がとても好きである。そんな図形を宙に浮かべて描くと、さらに魅力的になる。

絵の中央の図形は、背景が関わる「無」にも、「重力」にも影響を受けないような形で存在している。

「汝の意志の格率が常に同時に普遍的な立法の原理として妥当するように行為せよ」

これはドイツ観念論の祖とされるカントの言葉である。カントは、いつでもどこでも誰でも通用するような原理としての「道徳法則」の重要性を説き、個人の行動原理である「格率」においても、そのような普遍性を備えるべきであると述べている。カントが説いた、いかなるものに対しても普遍的に妥当する命令は「定言命法」と呼ばれている。この定言命法は、何らかの条件付きであることを認めないものである。

いかなる条件にも縛られない状態は、私の絵の中央に浮かぶ存在に重なっていると私は考えている。まあ存在はしているので、空間であるとか二点透視図法といった存在自体を規律するものの影響は受けているが、それ以外の打算とか妥協とかといったものとは切り離されている。

いかなる打算にも妥協にも引きずられない定言命法は、「普遍性という美しさ」を持っている。定言命法が善意志のみに導かれるがゆえに美しいのと同じように、無条件で清廉潔白であるものはどんなものも美しいのである。

これから進められようとしているロシアとウクライナの交渉も、ロシア側の強硬な条件が前提にならなければ、善意志に導かれるような美しさを備えることになるだろう。

当時の私は、今日の絵のタイトルを「夕闇の虚構」と名づけていた。本来ならば、夕闇の空にこのような図形が浮かぶことなどない。それは理想的な要素のみに規律されるため、美しさを持っているわけだが、現実に存在しないがゆえに虚構なのである。そして、それを虚構と表現してしまっているのはネガティブに捉えているからだろう。

しかし、カントはそのような理想状態をネガティブには捉えていなかった。むしろ現実の打算や妥協に引きずられるような状態の方を、仮言命法としてネガティブに捉えていた。

2月24日から本格的に開始されたロシアによるウクライナ侵攻に対して、ここまでの国際社会の対応は残念ながら虚構に映ってしまう。「ブタペスト覚書」は、ロシア・アメリカ・イギリスが非核化を求める代わりにウクライナの主権や領土保全などを保証するものだったが、見る影はない。また、「国連による集団安全保障システム」は、冷戦が終わったにも関わらず、ロシアの拒否権発動によって安全保障理事会は再び機能不全に陥っている。そのため、この2つは少なくとも現時点では虚構と言われても仕方がないだろう。

しかし後者については虚構から脱却できるかどうか、ここからが正念場である。国連は発足まもない1950年に、当時すでに顕在化していた安全保障理事会の機能不全に対する苦肉の策として、「平和のための結集」決議を採択した(377 (V). Uniting for peace A)。この決議は以下のような内容であった。

377 (V). Uniting for peace
A
The General Assembly, Recognizing that the first two stated Purposes of the United Nations are:・・・
1.Resolves that if the Security Council, because of lack of unanimity of the permanent members, fails to exercise its primary responsibility for the maintenance of international peace and security in any case where there appears to be a threat to the peace, breach of the peace, or act of aggression, the General Assembly shall consider the matter immediately with a view to making appropriate recommendations to Members for collective measures, including in the case of a breach of the peace or act of aggression the use of armed force when necessary, to maintain or restore international peace and security.

この決議が示すように、安保理が国際の平和と安全に対する主要な責任を果たせない場合、代わりに総会が集団的措置をとるための勧告を行うものとされている。この決議に基づく「国際連合緊急特別総会(緊急特別会合)」は過去に10回開催されてきた。

そして今回のウクライナ情勢に対して、「国際連合緊急特別総会(緊急特別会合)」の開催が決まった。開催の要請は安保理の決議によるものである。安保理の議題は、具体的な内容に関わる「実質事項」とその他の「手続事項」に分けられ、実質事項の決議の成立には五大国の拒否権が関係するが、手続事項は単に9理事国の賛成で決議が成立するため、これまでロシアが行使してきた拒否権に影響されなかった。

今回の「国際連合緊急特別総会(緊急特別会合)」は、国連という機関の存在意義が問われる正念場である。カントが説く善意志に導かれる定言命法のように、打算や妥協に安易に引きずられない国際秩序が守られることを期待したい。今回の総会が打算や妥協に屈するようであれば、それは虚構としての美しさでしかない。
This "Emergency Special Session of the United Nations General Assembly" is a crucial moment for the significance of the existence of the United Nations. I hope that the international order, which is not easily dragged by calculations and compromises, will be preserved, as is the Categorical Imperative that is guided by Kant's good will. If General Assembly succumbs to calculations and compromises, it's just a fictional beauty.

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