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「投稿 瞬殺怪談」振り返り総まとめ2

絶賛発売中の竹書房怪談文庫『投稿 瞬殺怪談』。
これは、超短編実話怪談シリーズ「瞬殺怪談」を一般募集した初の試みの集大成である。

前回は、まず第1回目の募集、40字×14行の1ページ怪談について振り返った。つづいて、第2回目の募集、40字×30行の2ページ怪談の結果について振り返ってみたい。

単純に文字数は前回の2倍となり、より複雑な話の展開、詳細な描写を盛り込むことも可能になるが、それによって恐怖の鋭さ、切れ味が落ちてしまう危険性は高まる。文字制限がのびたことが吉とでるか、凶とでるか、審査員、編集部ともに期待と緊張が高まった。

蓋を開けてみると、応募数は第1回よりも減少。応募のハードルがあがった感触があった。1ページなら書けそうだけれど、2ページも書くことがないという感想もちらほら聞こえていたし、前回はじめて怪談(文章)を書いたという方も多いようだった。

結果は、
平山賞 該当なし
黒木賞「鳥葬」多故くらら

編集部としては、平山賞の該当なしは残念ではあるが、想定内でもあった。第1回の1ページ怪談の総評で平山先生が示していたレベルを考えれば納得というほかはない。
だが、もちろん公募作品として良い怪談はたくさんあった。将来性を鑑みたうえでの評価であれば拾うべき作品は多く、黒木先生はその中からひとつを選ばれたことと思う。
以下、その受賞作全文である。

黒木賞「鳥葬」多故くらら


 三十代のMさんは臨海地区のタワーマンションを買った。海に臨む眺めは素晴らしく日々の疲れが癒された。しかし、思わぬ敵が現れた。ベランダに早朝から何羽も鳩が侵入し白黒の湿った糞を撒き散らして行くのだ。仕事に追われ放置していると、ひと月もせずにベランダは糞の貝塚のようになった。鳩の習性について調べると、執着心が強い鳥で自分の糞や羽の一枚でも落ちていれば安心して住み着き、更に卵を産んだ場合は、鳥獣保護法により勝手に処分も出来ず、業者に駆除を頼めば数万円も掛かるらしい。Mさんは泣く泣くベランダの掃除を日課にした。ある休日、鳩の気配に飛び起きたMさんは糞の上に白い卵を二つ見つけた。恐れていた事態が始まったのだ。丁度その日、大学時代の恩師の退官パーティがあり、お義理で出席したMさんに、数年ぶりに再会した同期のTが声をかけてきた。鳩害に悩んでいる事を話すと、「お前には借りがあるから」とある方法を教えてくれた。それはTが大学を休学し南米のP国でバックパッカーをしていた頃、現地の呪術師から教わった鳥獣除けの口笛だった。どこか懐かしい鳥の囀りの様なメロディだ。 「最後に自分が一口吸った後の煙草の葉を散らせよ」そう言われたMさんは周りからの二次会の誘いも断り、帰宅すると早速やってみた。口笛を吹き、吸った煙草を揉んでベランダに撒く。——翌朝、ベランダに大きな鳥の羽ばたきと凄まじい動物の鳴き声が響いた。
 どこから来たのか、ベランダで灰色のドブ鼠がカラスに突き喰われていた。血の匂いに呼ばれたのか、他のカラスも飛んできて、争う様に鳩の卵を咥えて飛び去った。最初のカラスも鼠を嘴に挟んで飛び立つと、後には何も残らず、自然の摂理で厄介な卵が消えた。
Mさんは口笛と煙草を続け、以来、鳩は全く寄り付かず喜んでいたが、異変が起きた。
 早朝のベランダの床で一羽のカラスが絶命していた。カラスの亡骸の処分に困り、管理人を呼ぶと嫌々持ち去ってくれたが、翌日、今度はトンビが死んでいた。管理人は『野鳥に毒餌でも撒いているのか?』と疑いの目でMさんを睨みつけ「階下の住人から騒音の苦情も来ている」と告げると骸をゴミ袋に入れて去った。口笛の事だろうと階下に謝罪に行くと、「口笛?ただ、ベランダが揺れるほど暴れないでくれ」と沈んだ顔の中年男に言われ、奥のベランダに案内された。階上の我が家のベランダに何か重い生き物がドスッ、ドスッと着地する様な音がする。驚いて帰ると、崩れた肉饅に似た大きな鳥の糞が、ベランダに落ちていた。〈こんな糞をする鳥が近所にいるのか?〉Tに相談しようと先日の会で配られた名簿を探すと、挟まっていた別紙にMさんは驚愕した。『昨年から消息を絶ったT君の情報提供を皆様お願いします』——今も一切、ベランダに鳩は来ない。たまに蝉が迷い込むと、羽だけがいつの間にか窓ガラスに綺麗に貼り付けられているそうだ。

40字×30行を存分にいかしきった密度の高い作品であることが一目でわかる。
両先生の選評はこちら。

●平山夢明先生総評
アクセルはベタ踏みらしいけどギアが入っていないものが多かった。怪談を読む楽しさとはこれだ!というものを短くまとめてくだされ。

黒木あるじ先生総評
いずれの投稿作も楽しく、ときに背筋を寒くさせながら拝読しました。今回は全体的に、さりげない一文で読み手を幻惑させてやろうという〈たくらみ〉のある作品が多かったように思います。とりわけ、土俗と禁忌とせつなさが入り混じった「葬送の面」、こちらの予想を軽やかに裏切る展開の「冷蔵庫の歌」、異能があざやかに語られていく「ぱん」、まさに瞬殺、短いながらも斬れ味するどい「もう少し詳しく」、ラスト一文で恐怖の底を抜く「ホラ話」などが印象に残りました。
そのなかで、もっとも鮮烈だったのは「鳥葬」でしょうか。ぎしぎしに詰めこまれた文章の密度に禍々しさを感じ、綴られる内容の濃度に目眩をおぼえました。個人的には数行で完結する、さながら読み手の首を刎ねるような怪談を好ましく思っているのですが、そんな嗜好をやすやすと捩じふせる迫力に気圧されてしまった次第です。

「投稿 瞬殺怪談2」があるかどうかは現在未定であるが、市井の中にまだまだ短くも忘れ難い印象を残す怪談が存在すること、そうした怪談の紡ぎ手、次世代を担う才能のきらめきを見いだせたことは嬉しい発見であった。平山、黒木、両先生の選評は今回のコンテストに限らず、実話怪談を書くうえで有益なアドバイスがたくさん詰まっているので、他者(他作品)への選評であってもぜひ目を通していただければと思う。
怪談マンスリーコンテストは毎月お題を決め、1,000字以内の怪談を募集しているので、いつでもだれでも挑戦ができる。
今後も新たな書き手の誕生を楽しみにしております!

●怪談マンスリーコンテスト詳細&応募受付はこちら!

https://kyofu.takeshobo.co.jp/post/

現在は8月25日締め切り「井戸」のテーマを募集しているが、31日には次回9月のお題が発表&すぐに応募受付開始となるので、ぜひチェックしてみてください。

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