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流されて円楽に 流れつくか圓生に著 六代目三遊亭円楽第三章「どうだい? 落語やってみねぇかい?」

平成十九年二月十三日 横浜にぎわい座 三遊亭圓楽独演会 六十九歳と六日……リセットの会 「藪入り」のまくらより

 

 先ほどちらっと入門のキッカケね、師匠のほうから誘われてこの世界に入ったと言いましたが、こういうところを聞き逃して欲しくないんですよ(爆笑)。大抵入門ってぇのは、「弟子にしてください」と日参をしてお願いして、師匠のほうが根負けをして、「じゃあ、しばらく居てごらん」と言って、弟子になるんです。

 あたしの場合、ちょっと細かく話をしますとね、鞄持ちしていましたでしょう? で、ウチの師匠が住んでいたのが、竹ノ塚という所でございます。足立区のね、西新井の一つ先の寺町でございましてね。そこへ帰るタクシーの後部座席で、勿論師匠が奥へ座っていて、で、あたしが手前へ座っていて、あれでもう夜の十時近かったですか……。で、西新井橋を渡って、七曲りってところを、こう七曲りってくらいですから、七回ぐらい曲がるんですよ。その車中でもって、ウチの師匠が顔を近づけて来るんです。……想像してください(笑)。夜の十時に(笑)、竹ノ塚に向かう街灯もないような七曲りと云う道で、タクシーの後部座席の狭い空間の中で、あの顔が近づいてくるのですよ(笑)。ホラーですよ、ええ(笑)。で、(何か言うな)って思っていたら、

「(五代目の口調)君は卒業したら、どうすんだい?」

 って、こう訊いてきたんです。その頃、師匠の鞄持ちの他に放送作家のアシスタントだとか、まぁ、食えませんからね、学費出すのも大変で、いろんなアルバイトをしていました。まぁ、その中でやりたい仕事は、やっぱり放送局や何かメディア関連の放送作家をやってみたいと思っいたので、

「放送関係に行きたいと思います」

「……(五代目の口調)どうだい? 落語やってみねぇかい?」

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