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論文紹介 機甲戦の将来を大胆に予想したフラーの理論の意義と限界

イギリスの陸軍軍人ジョン・フレデリック・チャールズ・フラーは第一次世界大戦(1914~1918)に参加する中で、まだ実戦に投入されたばかりだった戦車の可能性に注目し、将来的には戦車部隊が陸上戦の中核となると予想した人物です。その主張が当時としては奇抜なものであったため、1933年に現役を退くまでは評価を受けたとは言い難いものの、戦間期から第二次世界大戦(1939~1945)にかけて次第に評価が高まっていきました。機甲戦の研究において先駆的な役割を果たした人物であるといえます。

この記事では、フラーの軍事理論の意義と限界をバランスよく評価した論文「フラーの機甲戦理論(J. F. C. Fuller’s theory of mechanized warfare)」を紹介しようと思います。フラーの軍事理論を理解する上で参考になります。

Reid, B. H. (1978). J. F. C. Fuller’s theory of mechanized warfare. Journal of Strategic Studies, 1(3), 295–312. doi:10.1080/01402397808437004

著者はフラーの軍事理論の特徴について、敵の戦闘力を構成する要素である人員や装備を殺傷、破壊する方法ではなく、敵部隊から戦意を奪う方法を重視することであったとして、戦力の量ではなく、戦力の質を問題にしたと説明しています。事実、フラーは当時の陸軍はテクノロジーの進歩を反映できていないと考え、多数の歩兵を前線に展開するような運用には批判的でした。それは数の上で優位に立つことを重視したものでしたが、フラーの見解では時代遅れになっていました。

「歩兵の集団は、戦車やガス弾の攻撃に立ち向かうことはできない。歩兵の集団は、鉄道と巨大な補給処に依存している。これらは航空攻撃に対して極めて脆弱である。したがって、現在の我々が知っているような騎兵、歩兵、砲兵は時代遅れの状態になったと結論づけることが可能である」

(Reid 1978. p. 297. 出典: Fuller, J. F. C. (1926). The Progress of War, The Nineteenth Century and After, XIX-XX, October, p. 492)

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