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やっぱり信念は曲げられない(後編)

セカンドオピニオンに行った病院は、プロ野球の球団のチームドクターもやっている先生だった。
ここまでの経緯を説明し、全身のチェックから肘のあらゆる検査をして診察へと進んだ。

その先生の判断として、今までの歩みと現在の肘の症状を診ると、保存療法での回復は痛めてる範囲が広いため難しいという判断であった。
手術をして約半年後、普通に投球できる事を目標に進んでみてはどうかと先生からの提案があった。
「この肘はきちんと治るから大丈夫」「また野球は普通にやれるから心配しなくていい」「我慢して保存療法を続けてきた約10ヶ月も肘の骨の成長は見られるので無駄ではなかったね」...その先生の言葉一つ一つが、悔しさ 悲しみ 先の見えない不安...そんな気持ちを抱えながら踏ん張ってきた親子の気持ちに優しく温かく染み込んでいくように見えた。
嬉し涙を流す親子を見て、改めてセカンドオピニオンをやって良かったと思う。
手術日の予約から一連の流れを聞く親子の目は明るかった。

ひと通りの説明が終わった後、医師からの話があった。
「彼のように、肘の外側を痛めるケースは小・中・高 圧倒的に日本の子供たちが多い。それはやはり、幼少期からの試合の多さと、高校野球の甲子園という存在が日本には良くも悪くも存在するから。甲子園に出るために、強豪校に進学するために、投げて投げて投げ続けなくてはいけない。野手も同じだが、体のどこかに痛みがあったり、連日たくさん投げていたり、子供の体や成長を考えたら良くない事があってもなかなか選手や親から申し出る事は難しい。勝つために、チームの空気を乱さないために、ケガをするともう出れないと思うからそれを避けるために、そんな思いで子供たちは頑張ってしまう。症状が出るか出ないかは運に任せるところはある」という医師の話も、本当は子供の野球がそんな事であってはいけないと感じた。
たくさんの子供からプロ野球選手までの肩や肘を診てきた医師が、自覚症状がなくても、もういつ痛みが出てきてもおかしくない肩肘の状態の選手は山のようにいるという。
アメリカは、高校生でも甲子園のような一大イベントはなく、まだ成長世代なので、体を守るという考え方がベースになる事が多いとされているが、日本の野球は酷使をなかなか避けて通れない環境にある。



医師からの話でも改めて確信したが、やはり私はこの自分で立ち上げた組織の考えや信念は曲げられない。
高校や大学、その上の世界で活躍できるように、小・中学生の間は、体の酷使や勝ちに徹する事はしたくない。

クラブチームとして連盟に加入もしない。
最近多い野球塾やスクール・教室でもない。
良いところもあるが、マイナス面も多く持つ野球界の伝統や流れとは離れたところで、体や内面的な成長を見守りながら、大切に育てる独立したチーム組織としてこれからも歩んでいこうと思う。

組織を立ち上げて15年が過ぎた。
野球界で独立した組織として成り立っていく事や、その組織からの野球進学など、当時は前例にない事ばかりだったが、前例になければ自分で門を切り開いていく。今もその考えは変わらない。

一人の選手の肘の故障から、改めて色々な事を学んだ。
まだ彼と本格的に野球を始めたのは1年弱。
そして、酷使してきた肘を休める事からスタートしたが、私はそこを理解し守り、必ず成長させ、彼にとって、この経験が後にプラス材料として野球を含めた長い人生に生きてくるように、大事に考えてあげたいと思う。

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