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ツバメのいた夏・4

四羽のヒナが無事に巣立ち、勝手口周辺は静かになった。
ペアの初来訪が五月の上旬。抱卵開始はおそらく六月に入ってすぐのころ。ヒナの顔を確認したのが六月半ばで、巣立ち完了が六月末である。おおむね二ヶ月のつきあいだった。
勝手口外の掃除をして、営巣中に散ったと思われる落とし物などを片付ける。不要物を一時保管しておくコンテナと壁の隙間から、孵卵一号のカラと思われる白い破片が出てきたりした。この期に及んで欠片の写真を撮ってもな。と思ったので、片付けるだけにした。

巣立った雛がときどき巣に戻ってくることもあるので、新聞紙はそのままにしてあった。もう落下物はないけれど、ときどき様子を見たりしていた一週間後。新聞紙と板を片付けようとして、鳥影に気付いた。

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↑実家に戻ってきたヒナさんなのかい?
にしては体格が……

気にはなったが、ペアが営巣していたときほど多くの撮影はしなかった。なんでかというと、わたしはこのころ健康に懸念があり、豆腐オンリー暮らしでヘタレていたため、自室で終日のらくらしていたからである。(健康なときでも日常三割はのらくらしている。この七月はのらくらが七割に達していた)

ツバメは一夏に二度営巣することがある、ということは知っていた。ベテラン親は、初夏に定宿の巣に戻ってきてすぐに営巣開始し、一番子、二番子、と育てていく。でも、我が家では先のペアが、他のペアの二番子のシーズンに近い時期に育雛を開始した。そのヒナたちが巣立ったあとで、七月になってから営巣するペアがいるとは……。

前ペアと違うペアだということはわかっていた。新規ペアはわたしがドアを開けるとフェンスから逃げていく。どうかすると、巣の中にいる一羽もあたふたと飛んで逃げる。前ペアならば逃げないはず。目視で見分けはつかないけれども、行動の違いもあったので、お初のペアですねという程度の判断はできた。

七月中旬、窓からこっそりと覗き見してみた。すでに抱卵開始の体制に入ったもよう。
カレンダーを見ながら、この先のスケジュールを推測する。
今から二週間抱卵する。その後、孵卵する。
さらにその二週間後に巣立ち。八月の半ばあたりか。
この地域からツバメたちが渡りを開始するのは九月早々。
ひゃー! ちょっとちょっと奥さん!
今から孵して育てて、渡りに間に合うんですか?
しかも、真夏の八月に猛暑にあぶられての育雛ですわよ。
前ペアでも暑い日には口を開けてハアハアしてたのに……!

今回の親ペアは、前ペアより警戒心が強い様子だった。なので、頻回の観察は避けて、勝手口ドアからの出入りも遠慮がちにしてみた。捨てられない不燃ゴミばかりがむやみと増えて、さきのことを考えると気が重いわー。特に瓶が。瓶って溜まると重いのよねぇ……。
まあ、それは置いといて。

新ペアは前ペアに比べると、どこかワイルドだった。
営巣前に巣を補修した様子があるのだが、巣材をやたらと落としていく。勝手口外に藁状の草と、まだ緑の野草が散乱していた。巣の形状もどこかいびつで、崩れてる箇所も直さない。巣からは藁が垂れ下がり、風に吹かれていた。ツバメの個性って、多様なのだなあ……

さて、七月末のことです。

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ヒナ誕生のお知らせをいただきました。おめでとう! おめでとう!

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↑巣の端が崩れ気味。
崩れていても気にしない。このあと、もろくなって少しずつ崩れが進むけれど、そのままでした。細かいことはきにしなーい! 
孵化直後のヒナって、親鳥と比べるとこんなに小さいのね。人間の小指の先くらいでしょうかね。

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そして三日で倍くらいのサイズになるんですのよ、奥様……! びっくりざましょ。
今回はヒナたちもどこかワイルドで(遺伝?)、三羽とも声が大きい大きい。親が巣の近くにいないときでも『ごはん〜ごはん〜』と、ひっきりなしに騒ぐ。鳥の個性の多様性とはかくも(以下略)。

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八月上旬。ヒナたちの頭の上、両脇にぱやっ毛。
ヒナながらこの眼力。三羽なので餌の供給もいいのだろうか、すごい勢いで成長していく。
そして親がまた……(汗
パパったらこんな大きなごはんを持ってきて、ヒナの小さな口に入るわけないでしょう。みたいな大型のトンボやバッタを、巣の下に次々と落としていくのである。
なんかこう、今度の親はやることなすこと大ざっぱな感じ。それとも、この季節になると虫も育っていて大きいし、量は多いし、給餌には適しているのだろうか? 
プン受け台の上に、2センチ弱の、どう見ても哺乳類だよなあ……とおぼしき、半乾きの食べこぼしを発見。確信は持てないけれど、形状から察するに、カヤネズミではないかと。さすがに写真撮るのは気が引けた。しかしなあ。落として捨てるくらいなら親が食えよ。わたしもちょっと悪い口調になったりして。
落とし物を回収しては合掌して供養する毎日。
まあ、「自然とか野生ってこういうことだよね」です。
でも、ペアに向かって『落とすくらいなら持ってこないでください』と、要求してもな。こればかりはしょうがない。子育てはきれい事じゃないです。ま、人間も同じ。子育ては命がけ。
それに、遅い営巣だから親にペアには頑張ってもらうしかない。今度のペアは前のペアに比べると、体力があるらしく、暑さのせいでハアハアするような場面は見られなかった。
そしてちょっと不思議ちゃんな一面もあるようだった。餌を持ってきたようなそぶりで巣に戻ってきたけれど、何も咥えていない、というような、粗忽げなシーンも散見されたのである。

八月。暑さ増し増しの日々に入る。
ツバメのヒナは熱中症にならないのですか。元気過ぎて暴れて巣から落ちやしませんか。
またぞろ心配しいしい、こっそり覗き見の日々である。だが不思議や不思議、今年の八月は曇りがち、雨がちとなった。夜温も低い。餌は相変わらずふんだんにあるらしく、残り物の落とし物もバラエティ豊か。
こうした夏になるとわかっていて、遅い営巣を決断したのかな? ツバメに聞いて見たい気がする。そんなある日。

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フェンスまわりが妙ににぎやかだなと、ドアを開けてみると、複数のツバメが集まってきていた。逃げない子たちなので、前ペアの子たちかと(確信は持てないけれど)。
集団で飛行訓練に入る前に、ばぁばに逢いに来てくれたのかい(嬉)。

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この日、この三羽だけでなく、他のツバメもわりと頻回に巣の近くに来ていた。各巣の状況を確認し合っていたのだろうか。
近隣のツバメも親子だけではなく、大きな群れでの飛翔を始めている。今ペアのヒナの巣立ちの進捗がやはり案じられるのであり。

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八月八日、親ツバメが給餌を停止。巣の下の落とし物がゼロになった。
給餌しないと決めたら、まったく与えないという思い切りの良さに、これまた驚く。前のペアは巣立ち当日まで給餌していたから、こんなところにも個性の差があるものらしい。巣の真下に親一羽が止まり、巣立ちを促し、少し離れたひさしにもう一羽(上の写真)。これは前ペアと同じフォーメーション。

八月十日、三羽一斉に巣立ち。
巣が空になったなあと見上げていたら、聞き慣れた「キケン! キケン!」が聞こえてきた。危険警報である。慌てて外へ出ると、マダムミケが姿勢を低くして植え込み影にいるのが見え……やばいやばい。

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巣から出た直後に庭に落ちてしまい、ショックで動けなくなったらしいヒナ。すこしでも高いところにと思ったのだろう、小屋脇のガーデニング用フェンスに上っていたけれど、地上30センチ。すぐそばの木の上に親ペアがいる。マダムミケはわたしの後方三メートル。キケンキケン。

緊急事態に気付いた燐家のかたがマダムミケをフードで誘って遠ざけてくださった。その隙にわたしは小箱を取りに家に戻る。

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大丈夫、大丈夫。
蓋をして箱ごと巣の下の台へ移動。大きめの布箱に箱ごと入れて様子を見ます。親はわたしが何をしているのかをずっと見ていたので、たぶん大丈夫。大丈夫であって欲しい。

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おかあさーん……

すぐそばに親鳥が一羽いて、様子を見ていた。もう一羽の親は巣立ち後のヒナ二羽と一緒にいるのだろう。
かごのフチにのったヒナは親鳥を見つめて、心細げ。でも人間にできることはここまで。余計な手出しをしてはいけない。この子が巣立ち損ねてしまったときは、どうするべきか。野鳥だからむやみなことはできない。ガイドラインは環境省かな。法律がどうなっているのか、再確認しないとね。と思いつつ、そのまましばらく静観。親鳥が餌咥えて戻ってきました。その後もフェンスに止まって、ヒナを見守り、ときどき飛んでみたり(促し?)。また餌持ってきたり。
そして三時間後。

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三羽並んで電線に! 祝・巣立ちです!

巣立ちを見届けて、やれ一安心。
まだ幼い感じの三羽ですが、生き抜いて欲しい。
そして幸せにおなり。と、これは老婆心。

ほどなくしてわたしのほうも体調回復し、普通食に復帰。もうすこしのらくらすることにして八月を終えました。

巣はそのままにしてあります。来年、どうかな? 楽しみに待つことにいたしましょう。
四回にわけて綴ってまいりましたエッセー『ツバメのいた夏』ここでおしまいといたします。お読みくださり、ありがとうございました。


ツバメのいた夏・2017 


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