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【エール第10号】フェアスタート代表・永岡鉄平さんインタビュー[第2回]

児童養護施設等の入所者・退所者を専門に就労支援を行うフェアスタートは今年で設立10周年を迎えました。代表の永岡鉄平さんにこれまでの道のりと次の10年の展望を聞きました。

【プロフィール】
ながおか・てっぺい
1981年、横浜市生まれ。大学卒業後、リクルート、大学院生向けの就職支援会社を経て2011年8月、株式会社フェアスタートを、2013年1月NPO法人フェアスタートを設立。以来、就職斡旋、キャリア教育、アフターフォローに取り組んでいる。

第1回からの続きです)

施設の子を応援したい

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──その後児童養護施設でボランティアをしてみてどうでしたか?

 児童養護施設でボランティアをしたいと思ったそもそもの動機は「施設の若者たちってどんな子たちなんだろう。それをまず鎌倉児童ホームでボランティアをしながらリアルに体感したい」というものでした。その思惑を職員さんも察してくださり、当時小学4年生の男の子とたまに遊ぶという特殊なボランティアを僕に用意してくれて。

その施設で彼と遊んでて、夜になったら高校生の女の子たちが「バイト疲れたー」みたいな感じで帰ってきて、彼女たちとも話ができました。
この実体験を通して、最初、施設にいる子たちは家庭環境や親に問題があって一緒に暮らせないわけだから、ずっと薄暗い部屋の隅っこで体育座りしてるような暗いイメージをもっていたのですが、全然そんなことはなく、接してみるといたって元気で前向きで普通の子でした。

もちろんその子なりに大変なことはあって表には出さないだけかもしれないけれど、素人目には普通に見えたし、たぶん採用する企業側の人も同じだろうと。なのに社会に出て就職する時、一般的な子よりも不利になるというのはおかしい、もったいないと思ったんです。

 あとは、子どもたちから家庭の事情などを聞いているうちに情が湧いてきたというか、この子たちは偉いなっていう尊敬の念がすごく沸々と湧き上がってきて、応援したくなったっていうのが正直なところですね。

 そして、当時施設出身者の就労支援サービスがほとんどなかった。僕がやりたいと思っていた、誰も着手していない新しい領域だったわけです。だからこの事業をやろうと決意したわけです。

──とはいえ、この世界もかなりニッチですよね。ビジネスとしてやっていけるのかという不安や葛藤はなかったんですか?

 おっしゃるとおり、ニッチな世界なので大儲けできるとは思っていませんでしたが、少子化で特に中小企業は人深刻な手不足に悩まされていたので、人材紹介業というビジネスとしては成立すると思っていました。だから走りながら考えようととりあえずやってみることにしたんです。

──それからどうやって施設出身の若者専門の人材紹介の会社を立ち上げたんですか?

 横浜の社会起業塾に入って、事業企画を練り、最後のビジネスコンテストで「児童養護施設出身者向けの人材紹介業をやりたい」とプレゼンしたら優勝して、支援金500万円を貰えたんです。それを資本金にして、11年8月、30歳の時に株式会社フェアスタートを設立したというわけです。

 起業して最初の頃は僕一人で、鎌倉の施設でボランティアをしつつ、いろんな児童養護施設や企業に足運んでネットワークを作って毎月数人の若者を企業に紹介していました。半年後に西村が第一号スタッフとして入社しました。企業してから1年間くらいはかなり厳しかったですね。ただ資本金を食い潰すみたいな感じでした。

起業当時

起業当時の永岡さん

──そこからどうやってビジネスを軌道に載せたのですか?

 初期の頃に地元の神奈川新聞や日経新聞、NHKなどのメディアが取材してくれたのが大きかったですね。掲載、放送されると、数多くの企業から問い合わせが来て助かりました。ある意味予想通りでしたけど(笑)。そこからは採用した企業が他の企業を紹介してくれて徐々に広がっていきました。

──それからは起動に乗ったんですか?

 いえ、一応細々と売り上げは立つようにはなったのですが、もちろん僕は無給で、西村にもすごい薄給しか払えなくて。そういう状態って組織としてイケてないじゃないですか。だからそこは組織的な経営課題として何とかしなきゃと思っていました。

 課題としてはもう一つあって、施設の若者の就職の斡旋をする過程で、当然若者のキャリアカウンセリングみたいなこともするわけですよ。で、本人たちに「どんな仕事をしたいの?」と聞いて、その希望通りの職を探して、会社の人と面接して、実際に就職までこぎつけてもすぐ辞めちゃうというケースがけっこうあったんです。その理由を本人に聞いて突き詰めていくと、その仕事はちょっとバイトしたことがあるだけで、イメージできる仕事の一つに過ぎなかった。つまり本当にやりたい仕事でも何でもなかったわけです。

この経験から単に若者に「どんな仕事をやりたい?」って聞くだけでは同じことの繰り返しで、いい就職斡旋はできないから、若者たちにもっと将来のことややりたい仕事を本気で考えてもらう必要がある。そのために必要なのはキャリア教育だと、そっちの方に興味の矛先が向いたんです。

キャリア教育の重要性に気付きNPOを設立

 こんな感じで就職の斡旋をする過程で、子どもへのキャリア教育の大切さに気づいてキャリア教育をやろうと知人に相談したら、ビジネスとしては難しいからボランティアでやるしかないと言われて。あと、当時いくつかの財団から「フェアスタートがNPO法人格を取ってくれれば助成金を出せるのに」という話も貰い始めていました。じゃあ就職斡旋業は株式会社でやって、キャリア教育の方は助成金で賄ってボランティアで活動するという二足のわらじにチャレンジしようと、13年1月にNPO法人「フェアスタートサポート」を立ち上げたんです。

NPOキックオフ会_350dpi (2)

NPOフェアスタートのキックオフ会

──キャリア教育とは具体的にどういうことをやってるんですか?

 目標は「施設で生活している若者たちが自分の来たるべき就職活動の時にやりたいことやチャレンジしたいことを明確に表明できるようになること」。そのために何をすべきかを逆算して考えていろんなことを実施しています。まず一つは職業適性検査。その結果出た本人の能力適正から向いている仕事を提案しています。もう一つは会社見学や仕事体験。これを通して働く機会と縁を毎年約100人の若者に提供しています。

施設出身の男性が同じ施設で暮らす中高生の仕事見学を案内している会社見学ツアーの様子

▲施設出身の男性が同じ施設で暮らす中高生の仕事見学を案内している会社見学ツアーの様子


──成果は?

 やはり予想した通りで、キャリア教育を通して本人がちゃんと自分の意志で納得して入社したら、すぐに辞めることはなくなり定着する若者が増えました。

──ほかにNPOとしてやっている活動は?

 もう1つの柱としてはアフターフォローがあります。毎年卒業する子や就職した子を呼んで卒業記念会やクリスマスパーティー、新年会、バーベキューなどを開催して近況を聞いています。これらの活動費用は助成金やご寄付で賄っているので、各児童養護施設や施設の子たちの費用負担はゼロです。

卒業パーティー

▲卒業パーティー

──昔から若者の就職後の定着率の低さが問題となっているので、就職させっぱなしではなくその後もフォローするのってすごく重要ですよね。

おっしゃる通りです。ただ、本人なり会社の方なりに定期的に確認の連絡はしているんですが、最近は昔に比べてフォローの負担が減ってきました。今年度はコロナの影響で退職する率は高かったんですが、就職後、そんなに僕の支援を必要としない、うまく定着している子の方が多いですね。少しさびしいですが、いいことなんですよね。

例えば去年の春にデイサービスに就職した女子に、夏頃に「元気でやってる?」と連絡したら「まぁ元気です」みたいな感じでさらっとした返事しか返ってこないです。彼女ともう一人、同世代の同じ施設の友達の子がいて、その彼女もうちが就職斡旋したんですが、昨年末にその子と会う機会があった時に、「あの子(デイサービスに就職した子)、全然連絡くれないんだよね。寂しいんだよね。“元気にやってます”の一言ぐらい教えてくれてもいいのに」とこぼしたら「いや、そんなもんですよ」ってその子に言われて。まあデイサービスを経営している社長から元気にやってる話は聞いているので別にいいんですけどね。何となくさびしいなあと(笑)。

第3回に続く)

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フェアスタートではマンスリーサポーターや法人賛助会員を募集中です。サポーターになると『エール』が送付されるなど、いろいろな特典があります。児童養護施設等出身の若者を支援したいというお気持ちのある方はぜひよろしくお願いします。
●NPO法人フェアスタートサポート→http://fair-start.co.jp/
●マンスリーサポーター→https://congrant.com/project/fairstart/1046

(今回も原稿・撮影料はフェアスタートサポートや取材させていただいた若者に謝礼として進呈しました)



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