トレイ

こんにちは!


昔とあるお城で女性が働いておりました。

その女性は地方から来ており、
いつの日か王様に気にかけてもらえることを夢見て、懸命に働いておりました。

そのような女性は数多く、それも王様がとても若くイケてるツラ構えだったからです。


とは言ってもこの女性は下心は無く、
貧しい家庭を救う為の一つの方法として懸命に働いておりました。


彼女は掃除がとても得意であり、
特に磨いた後にはそれはもうピカピカになり顔が映るほどです。


トイレであろうが、トレイであろうが。



そんなある日、ピカピカのトレイに映った自分の顔を見ました。

普段からメイクアップする時に鏡を見ていたのですが、その時は何も気にしておりませんでした。

今日も頑張るぞー!と思うくらいです。


ですが、ピカピカのトレイに映った彼女の姿は、
それはそれはもう人も羨むくらいの美しさだったのです。


では何故人も羨む美しさであるにも関わらず、
誰からもお声がかからないのか。

それは彼女が懸命に地道に仕事をして汗水流して輝いた姿であり、
他の人が中々見ることができない姿だったのです。


汗で輝く働き者の姿に勝るものはないのです。


しかしその時の彼女は、
まだその事に気づきませんでした。

私はこれ程美しいのに、
どうしてこのような仕事をしているのかしら、
とさえ思ってしまったわけです。


彼女はとある大臣にその不満を漏らしてしまいました。


すると大臣はこう言ったのです。


そなたは本来美しい。
しかし今のそなたは美しいとは到底言えない。
そのような醜い姿になる恐れがあるから、
今まで掃除しかさせなかったのだ。


彼女は憤慨し、城の仕事を辞めてしまいました。


城から出て、城下町を歩きます。

これからは私の美しさの為の仕事をしよう、
と思っておりました。


しかし、城下町の様子は城の様子とは違いました。

彼女は普段城下町に買い物をすることはあれど、
城下町の人々を真剣に見ることはなかったのです。


貧しい国では無い為、
彼らは決して酷い暮らしをしてるわけではありません。

けれども彼女の目に映る彼らの姿は、とても輝いておりました。

彼らは一生懸命真剣に働いてました。
そして他の人々と楽しく暮らしておりました。
お城程優雅でなくても。


彼女はその時に気づいたのです。

あのお城のトレイで見た自分の美しさはこれだったのか、と。


そんな時、とあるお店でトレイを売っておりました。

彼女はトレイを買い、今の自分の顔を見たくなりました。

しかし醜い姿が映るに違いないと確信しており、
覗くことが怖かったのです。


勇気を出し購入し覗いたその姿は、
お城で見た以上の輝きでした。


店主のおじいさんが語ります。

この店の前を、城を去った多くの若い女性が通っていく。
ワシはその度に悲しい思いをするのじゃよ。

しかしほんの一握り、トレイを買う女性がいる。
その女性達はみな、あなたのように美しい顔をしておる。

気づいたかい?
これが人間の美しさのじゃ。

あなたはこれを忘れない限りは、
どこに行ってもうまくやってけるじゃろう。


彼女はそのトレイを抱えて、
新たな旅路を進み出したのです。



それでは!

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