見出し画像

【大人の流儀 伊集院 静 心に響く言葉】 第88回




大人の流儀

 伊集院 静氏の『大人の流儀』から心に響く言葉をご紹介します。私は現在『大人の流儀』1~10巻を持っています。このうちの第1巻から心に響く言葉を毎回3件ずつご紹介していこうと考えています。全巻を同様に扱います。

 時には、厳しい言葉で私たちを叱咤激励することがあります。反発する気持ちをぐっと堪え、なぜ伊集院氏はこのように言ったのだろうか、と考えてみてください。しばらく考えたあとで、腑に落ちることが多いと感じるはずです。

『大人の流儀3 別れる力』をご紹介します。

 ご存知のように、伊集院氏は小説家(直木賞作家)で、さらに作詞家でもありますが、『大人の流儀』のような辛口エッセーも書いています。


大人の流儀 伊集院 静 心に響く言葉 第88回

第4章 本物の大人はこう考える


「綺麗に遊んでグッドバイ」から

伊集院 静の言葉 1 (261)

 私は遊び好きだが、決して仕事好きではない。
「伊集院君、今日からずっと遊んでいいから……」 
 とタニマチがあらわれて言ってくれたら、ゴッツアンス、と死ぬまで遊んでみせる。
 他の事は自信がないが、遊ぶことに関してはまかせて欲しい(誰もまかせないか)。
 そういう奇特な人がいないのが世の中ということが、ようやくわかった。 とは言え、私の性分として、いわいものはいっさい受けとらないし、その手の酒も口にしない。   

大人の流儀 3 別れる力 伊集院 静 


「綺麗に遊んでグッドバイ」から

伊集院 静の言葉 2 (262)

 黙って馳走になる人は二人だが、一人は二年前に亡くなった。私の父である。父は私と酒を飲むといっさい息子に払わせなかった。見事なまでに、それを押し通した。 
 奇妙な父と子に思われるかもしれないが、私はそう思わない。それが父の家長としてのやり方だったのだ。
 その父が一番嫌った種類の男が、”遊び人” と呼ばれる輩だった。
「よく見ておけ。あのだらしなさを」
 そう教育を受けた息子が、時折、遊んで暮らせぬものか、と夢想するのだから世の中はおかしなものだ。

                        大人の流儀 3 別れる力 伊集院 静 
                             



「綺麗に遊んでグッドバイ」から

伊集院 静の言葉 3 (263)

 銀座で何十年も飲んでいると、遊ぶしかない男を見かける。大半が俄成金にわかなりきんだ。その連中の人相の品のなさったらありゃしない。
 たいがいは数年で消えていく。それは金を頼りに遊ぶからだ。金で得た遊びには金が目的の輩しか寄ってこない。つまりそれは金に遊ばれているのである。
 私が目指すのは、その手の遊びではない。
 具体的に説明できないが、酒で言うと、
「いや、たっぷり飲んだな。美味かった」
 と言って颯爽と消えて行く飲み手だ。
 闇に消えるまで足元もしっかりしていて、見事だな、と送る人が感心する。
「いや、たっぷりと遊んだな。愉快だった」
 とさらり言ってすべてとグッドバイする。
 まあできないだろうな。綺麗に遊び続けるのがいかに大変か、実は重々承知している。 

                          人の流儀 3 別れる力 伊集院 静 
                               

⭐出典元

『大人の流儀 3 別れる力』

2012年12月10日第1刷発行
講談社


表紙カバーに書かれている言葉です。

人は別れる。
そして本物の大人になる。


✒ 編集後記

『大人の流儀』は手元に1~10巻あります。今後も出版されることでしょう。出版されればまた入手します。

伊集院静氏は2020年1月にくも膜下出血で入院され大変心配されましたが、リハビリがうまくいき、その後退院し、執筆を再開しています。

伊集院氏は作家にして随筆家でもあるので、我々一般人とは異なり、物事を少し遠くから眺め、「物事の本質はここにあり」と見抜き、それに相応しい言葉を紡いでいます


🔷「金で得た遊びには金が目的の輩しか寄ってこない。つまりそれは金に遊ばれているのである」

この言葉は、酸いも甘いも知る人でなければ言えないと思います。さり気なく述べていますが、とても実感がこもっています。

私は金とはほとんど縁のない人間なので、「金で得た遊び」をしたことがありません。

ですから、私より人生経験が豊富な伊集院氏の言葉が、ごく自然に私の心に響いてしまうのです。ヴァーチャル体験ということになりますが。

やはり、作家は考えただけでは優れた作品は創り出せないと思います。数多の体験を通じて、身体と頭に染み付いた欠片を組み合わせ、最適な状態に創り上げることができる人が作家になれると考えています。

作品が売れるか売れないかは時の運に影響されます。
本人としては自信作であったにも拘わらず、思ったほどには売れなかったり、あまり自信がなかった作品が予想以上に売れることもあります。

自己評価と他者評価の違いと言えます。思い入れが強すぎると良くないのかもしれません。極力客観視してみることが大切かもしれません。


🔶『大人の流儀3 別れる力』について『由美子のいなくなった夏 亡き最愛の妻への想い』の中で言及しています。

伊集院静と城山三郎
『別れる力 大人の流儀3』
私が伊集院静さんに興味を持ったのは、彼の先妻が女優の夏目雅子さんであったこともありますが、『いねむり先生』という題名の小説を読み、不思議な感覚を味わい、また『大人の流儀』という辛口のエッセーを読んだからです。 

由美子のいなくなった夏 亡き最愛の妻への想い p. 212


夏目雅子さんのプロフィール



🔶伊集院静氏の言葉は、軽妙にして本質を見抜いたものです。随筆家としても小説家としても一流であることを示していると私は考えています。


<著者略歴 『大人の流儀』から>

1950年山口県防府市生まれ。72年立教大学文学部卒業。
91年『乳房』で第12回吉川英治文学新人賞、92年『受け月』で第107回直木賞、94年『機関車先生』で第7回柴田錬三郎賞、2002年『ごろごろ』で第36回吉川英治文学賞をそれぞれ受賞。
作詞家として『ギンギラギンにさりげなく』『愚か者』などを手がけている。


⭐ 原典のご紹介



クリエイターのページ


大人の流儀 伊集院 静


五木寛之 名言集


稲盛和夫 名言集


回想録


サポートしていただけると嬉しいです。 サポートしていただいたお金は、投稿のための資料購入代金に充てさせていただきます。