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【大人の流儀 伊集院 静 心に響く言葉】 第77回

大人の流儀

 伊集院 静氏の『大人の流儀』から心に響く言葉をご紹介します。私は現在『大人の流儀』1~10巻を持っています。このうちの第1巻から心に響く言葉を毎回3件ずつご紹介していこうと考えています。全巻を同様に扱います。

 時には、厳しい言葉で私たちを叱咤激励することがあります。反発する気持ちをぐっと堪え、なぜ伊集院氏はこのように言ったのだろうか、と考えてみてください。しばらく考えたあとで、腑に落ちることが多いと感じるはずです。

 『大人の流儀3 別れる力』をご紹介します。

 ご存知のように、伊集院氏は小説家ですが、『大人の流儀』のような辛口エッセーも書いています。


大人の流儀 伊集院 静 心に響く言葉 第77回

第2章 楽して得られるものなんてない


「サヨナラだけが人生だ」から

伊集院 静の言葉 1 (228)

 人間というものは哀しいかな、辛酸を味わう時に真の姿が見えることが多い。
 それはたとえば長く連れ添っていた夫婦のどちらかが病魔に襲われ、それまで忙しく立ち働いていた二人にめぐってきた静かでゆったりとして時間の中で見つめるものであったりする。
 私にも若い時に、これに似た経験があり、
___こんなふうになってからでないと、それに気付かないとはつくづく自分はダメな男だな・・・・・・。
とその時は思ったが、同時に、それをまるで知らずに人生を終えるより、少なくとも気付かされてよかったと思った。
 ところがそれに気付かされた時には二人に残された時間が短か過ぎたりする。
 人間の生きる時間というものはそういうものなのだろう。   

   大人の流儀 3 別れる力 伊集院 静                               



「サヨナラだけが人生だ」から

伊集院 静の言葉 2 (229)

 人と人との別離は必ずくる。
 作家の井伏鱒二が漢詩から取った言葉ではないが、”サヨナラだけが人生だ”というのは真理である。
 友人のH君の亡くなったS子夫人のちいさな展覧会に、私の原稿を読んで鑑賞に出かけて下さった方が大勢いたとH君から聞いた。お礼を言いたい。
 創作というものは、その作品の出来映えの良し悪しを見勝ちだが、どんな作品にもそれをこしらえた人の精神というか(魂でもいいが)、情熱がそこに宿っているものだ。
 それは絵画の鑑賞をすればわかる。百年以上経っても画家の情熱、歓喜のようなものが伝わってくる。そこに見えるものは人間が本来生まれた時に持ち合わせてきた、他人へのいつくしみや、こころのゆたかさだ。 

   大人の流儀 3 別れる力 伊集院 静                               

                       


「サヨナラだけが人生だ」から

伊集院 静の言葉 3 (230)

 ラクな道を選ばず、自分の信念をまげずに、周囲が何を言おうが、己が何のためにこの世に生まれてきたかを問うことだ。これまで自分を支えてきてくれた人たちに、何ができ、何をすることが支えてきた人々の甲斐になるかをじっくり考えて、身を処せばいいのである。
 ややこしいことでも、難しいことでもない。苦境、苦節こそが人間を成長させ、真価を得る。大人の男が苦境の時にすべきことはひとつしかない。信じたことを普段の何倍もやることである。そうすれば必ず道はひらけるし、光は差してくる。   

   大人の流儀 3 別れる力 伊集院 静                               


⭐ 出典元

『大人の流儀 3 別れる力 』
2012年12月10日第1刷発行
講談社

表紙カバーに書かれている言葉です。

人は別れる。
そして本物の大人になる。



✒ 編集後記

『大人の流儀』は手元に1~10巻あります。今後も出版されることでしょう。出版されればまた入手します。

伊集院静氏は2020年1月にくも膜下出血で入院され大変心配されましたが、リハビリがうまくいき、その後退院し、執筆を再開しています。

伊集院氏は作家にして随筆家でもあるので、我々一般人とは異なり、物事を少し遠くから眺め、「物事の本質はここにあり」と見抜き、それに相応しい言葉を紡いでいます


🔷「たとえば長く連れ添っていた夫婦のどちらかが病魔に襲われ、それまで忙しく立ち働いていた二人にめぐってきた静かでゆったりとして時間の中で見つめるものであったりする」

私はこの言葉どおりの体験をしました。
1991年4月29日に私たちは結婚しました。24年後の8月8日に妻は旅立ちました。私が還暦を迎えた6月30日から数えて39日後のことでした。

妻は7月21日に入院し、わずか19日間で息を引き取りました。
その19日間で妻との会話が成り立ったのは15~6日間でした。
最後の瞬間を迎えるまでの数日間は、私が声をかけても応答はありませんでした。

それでも、入院前から、入院後の短い時間ではありましたが、濃密な時間を過ごすことができました。と同時に、自分の無力さを嫌というほど思い知らされた時間でもありました。


🔶『大人の流儀3 別れる力』について『由美子のいなくなった夏 亡き最愛の妻への想い』に言及しています。


伊集院静と城山三郎
『別れる力 大人の流儀3』
私が伊集院静さんに興味を持ったのは、彼の先妻が女優の夏目雅子さんであったこともありますが、『いねむり先生』という題名の小説を読み、不思議な感覚を味わい、また『大人の流儀』という辛口のエッセーを読んだからです。 

由美子のいなくなった夏 亡き最愛の妻への想い p.212



夏目雅子さんのプロフィール




🔶 伊集院静氏の言葉は、軽妙にして本質を見抜いたものです。随筆家としても小説家としても一流であることを示していると私は考えています。


<著者略歴 『大人の流儀』から>

1950年山口県防府市生まれ。72年立教大学文学部卒業。

91年『乳房』で第12回吉川英治文学新人賞、92年『受け月』で第107回直木賞、94年『機関車先生』で第7回柴田錬三郎賞、2002年『ごろごろ』で第36回吉川英治文学賞をそれぞれ受賞。

作詞家として『ギンギラギンにさりげなく』『愚か者』などを手がけている。


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