日経ビジネスの特集記事 49
大胆予測 2023 「有事」に備えよ 2022.12.26 2023.01.02 1/3
<このページでは、『日経ビジネス』の特集記事の概要紹介と、管理人のコメントを掲載しています>
今号は、年末・年始の2週合併号となります。
2023年はどんな年になるでしょうか。
東アジアで厄介な問題と言えば、「台湾有事」です。
中国にとって台湾は邪魔な存在です。
どんな手を使ってでも掌中に収めようと躍起になっています。
「台湾有事」は対岸の火事ではありません。日本も大いに関わっています。
PART 1 日本を揺るがす米中対峙のシナリオ 台湾有事を直視せよ 人、物、カネ全部止まる
「2023年、台湾有事が日本の安全保障政策における最重要課題となる」
(大胆予測 2023 「有事」に備えよ 2022.12.26 2023.01.02 p.014)
元台湾総統の李登輝氏は、自著で次のように警告したそうです。
米議会下院のナンシー・ペロシ議長が秘密裏に台湾を訪問するという出来事があったことは記憶に新しいことですね。
この「事件」は中国を刺激しました。それだけでなく、日本にとっても他人事ではないと再認識させられました。
日本の専門家はこの一連の「事件」をどう捉えているのでしょうか。
日経ビジネスは「台湾有事」の2つのシナリオを紹介しています。
シナリオ① 台湾を兵糧攻め
米国の行動を利用して、中国の正当性を主張しようという戦略ですね。
習近平国家主席は、台湾統一を受け入れさせるためならどんな手段でも講じるという考えなのです。
しかし、この戦略を採れば中国も無傷ではいられません。
「海底ケーブルを中国が切断することも考えられる」(pp.015-6)ということですから、実際に行われたとしたら相当悪質な行為です。
海底ケーブルを切断されるとどんな影響があるかといえば、
問題は、中国が兵糧攻めをしたら、台湾はどれだけ持ちこたえられるかです。
日経ビジネスは、「その影響は人、物、カネのすべてに及ぶ」(p.016)と断じています。
人、物、カネの3つのうち、物の流れについて3つの点を考えています。
第1に、台湾との貿易が途絶する。
これは影響が甚大です。
具体的には、
日本政府は、TSMC (台湾積体電路製造)とソニーの合弁会社を熊本に誘致することに成功しました。TSMCは米国にも半導体工場を建設することを発表しました。この一連の動きは、TSMCが工場を台湾国内だけにとどめておくことは地政学的観点から危険であると判断したからです。
日本は半導体・電子部品を台湾と中国に依存しています。
そのため、台湾有事が勃発したら、それらの部品の輸入が最悪の場合止まってしまう恐れがあります。
次の円グラフをご覧ください。
輸入元シェアは、台湾と中国に圧倒的に集中しています。
台湾を兵糧攻めとなれば日本と中国との貿易も滞る。これが第2の点だ。
日本の自動車メーカーはEV(電気自動車)やHV(ハイブリッド車)を生産しています。これらにはレアメタルが欠かせません。中国への依存度が高いわけです。
日本と中国の貿易が滞ると、EVやHVの完成車を製造できなくなる恐れがあります。
次のグラフをご覧ください。中国から輸入の80%が2ヵ月途絶したらどのような影響が出るかという試算がされています。
日本の製造業の生産金額がどれだけ減少するか試算したところ、何と「約53兆円」にも及ぶということです。(p.017)
第3点として、中東、インド方面からマラッカ海峡などを抜けて南シナ海に入り、台湾の脇を通るシーレーンの安全が損なわれる。
輸送ルートの変更に伴い、航行日数の増加や輸送費が高騰することが考えられます。
台湾が兵糧攻めに遭った場合、「台湾周辺を通る航路に依存しない米国およびオーストラリアから調達できるエネルギー資源の重要性が増す。石炭依存を高めないといけない事態も想定される」(p.018)という事態になります。
シナリオ② 巨大戦力が対峙
日経ビジネスは、6つの想定を提示しました。どれもがおぞましいものです。
①サイバー攻撃などで台湾社会を混乱させ、時の政権の評価をおとしめ、親中政権への交代を謀る
②台湾の政治指導者を暗殺
③特殊部隊を投入し短期間で政権を転覆させる奇襲作戦
④内乱を起こし、現政権の転覆を謀る
⑤弾道ミサイルによる攻撃
⑥人民解放軍を大規模投入して空と海から侵攻する台湾着上陸戦
この6つの想定の中で最も激烈なのが、⑥人民解放軍を大規模投入して空と海から侵攻する台湾着上陸戦だと指摘しています。
なぜなら、「現実となれば沖縄県の与那国島が戦域に入る恐れがある」(p.018)からです。沖縄と台湾は地理的に近いからです。
海上自衛隊で自衛艦隊司令官を務めた香田洋二氏は、米中が動員する戦力を次のように推定しています。
このように想定した米軍の動きに対し、中国はどのような行動を取ることが想定されるかは、次のとおりです。
カネについて言えば、「日本企業が中国に築いた工場などの資産だ。対外直接投資の残高は約1470億ドル(約20兆円)。中国はこの資産の一部を管理下に置くと威嚇する懸念がある」(p.019)ということになります。
直近データで、中国に進出している企業数を調べてみました。
予想していた以上に多くの日本企業が中国に進出していました。
それにしても、「中国はこの資産の一部を管理下に置くと威嚇する」根拠はどこにあるのでしょうか。
この文章の中で着目すべき個所は「いかなる組織及び個人も、法による民生用資源の徴用を受忍する義務を有する」(第55条)です。
「民生用資源」とは、次のことを指します。
さらに、厄介なことに、このようなことも想定されます。
さらにさらにこんな事態も想定されます。
中国国防動員法の恐ろしさは、次の記述を読むと理解できます。
米中が戦争に突入することになった場合、どんなことが起こるでしょうか?
大問題となるのは、在中国の日本人が急遽帰国する際に生じる深刻な内容です。
この文章を読む限り、帰国することは簡単なことではないとすぐに分かりますね。
米中戦争が勃発した場合、解決すべき問題は中国国内だけでは済みません。
中国国防動員法が恐ろしい法律であることがおわかりいただけたでしょう。
カネと人に関する懸念はどうでしょうか?
悪いことばかりではなく、一部の企業にとっては良いこともありそうです。
しかし、喜ばしいことだと浮かれることはできません。戦争特需で潤うことがありがたいことなのかということです。
更に深刻な事態も想定されます。戦費の調達方法は国債発行と増税の2つ
これは国民誰もが関心を持つ内容です。
他人事ではないのです。
国債発行
増税
いままで、悪夢のような想定をお伝えしてきました。
米中戦争が勃発したという最悪のケースで、備えはどうしておくべきかについて、日経ビジネスは次のように述べています。
第1の備え
第2の備え
第3の備え
備えあれば憂いなしということになります。
それでも大きな課題が残ります。それは移転コストです。生産拠点を中国から他国へ移転する、あるいは日本に戻すにしても莫大なコストがかかります。
オウルズコンサルティンググループ(東京・港)が行った試算があります。
率直な感想ですが、こんなに移転コストがかかるのか、と驚きました。
すでに中国依存を下げる取り組みを始めている企業があります。
日立製作所です。
難しい問題は、日中関係です。一筋縄では解決しません。
「賢者は最善を望みながら、最悪を覚悟する」
(日本株ストラテジストの草分け的存在であるピーター・タスカ氏
Bloomberg の記事から https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2022-11-15/RL2KOET0AFB401)
という格言を思い出しました。
今回の話は、シミュレーションに過ぎないだろう、と考える人がいるかも知れません。
しかし、中国の再三にわたる台湾や日本に対する恫喝行為は、無視できる問題ではありません。米中の衝突が不可避になりつつあることを示唆していると考えています。
最後まで目を通していただき、ありがとうございました。
非常に重要なテーマであったので詳細に紹介したいと思い、書き出したら10,000文字を超えてしまいました。
次回は、
PART 2 円安、消費低迷、テックバブル崩壊…… 日本経済を取り巻くリスクを見過ごすな
をお伝えします。
🔷編集後記
初回は「台湾有事」を中心にお伝えしました。
台湾有事は決して対岸の火事ではありません。
日本にも大きなく影響を及ぼす可能性が大きな課題です。
政治と経済は不可分で、国際問題の運用を取り違えると国全体への影響は計り知れないものとなります。
「備えあれば憂いなし」という諺は使い古されたものではなく、現代においても重要で役に立つものとなっています。
日経ビジネスはビジネス週刊誌です。日経ビジネスを発行しているのは日経BP社です。日本経済新聞社の子会社です。
日経ビジネスは、日経BP社の記者が独自の取材を敢行し、記事にしています。親会社の日本経済新聞ではしがらみがあり、そこまで書けない事実でも取り上げることが、しばしばあります。
日経ビジネスは日本経済新聞をライバル視しているのではないかとさえ思っています。
もちろん、雑誌と新聞とでは、同一のテーマでも取り扱い方が異なるという点はあるかもしれません。
新聞と比べ、雑誌では一つのテーマを深掘りし、ページを割くことが出来るという点で優位性があると考えています。
【『日経ビジネス』の特集記事 】 No.49
⭐『日経ビジネス』の特集記事から、私が特に関心を持った個所や重要と考えた個所を抜粋しました。
⭐ Ameba(アメブロ)に投稿していた記事は再編集し、加筆修正し、新たな情報を加味し、再投稿した記事は他の「バックナンバー」というマガジンにまとめています。
⭐原則として特集記事を3回に分けて投稿します。
「私にとって、noteは大切なアーカイブ(記録保管場所)です。人生の一部と言い換えても良いもの」です。
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