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「協働・協創」の理論と実践――伊藤眞知子・小松隆二[編]『大学地域論:大学まちづくりの理論と実践』(論創社、2006年)評

2001年に庄内地域で開学した東北公益文科大学。開学理念として「大学まちづくり」を掲げた大学の、これまでの「大学と地域の協働・協創」の理論と実践とをまとめたもの、それが本書である。そこにあるのは、大学人による「地域」の発見だ。

大学(知)と言えば、従来は「象牙の塔」として、それが位置する地域からは隔絶された営みとしてとらえられてきた。結果、大学(知)と地域の間には相互協力の関係が築かれずにきてしまった。とりわけそれは(多くの進学者が県外へ流出する)地方において深刻である。

断絶は、少子化ゆえに「冬の時代」を迎えつつある大学側と、郊外化により解体を余儀なくされている地域共同体側の双方の事情にとってマイナスとなろう。本書が執拗に問い返そうとするものこそ、まさにそうした「大学‐地域」の硬直的で閉塞した関係性なのである。

では、「大学地域論」ではいかなる関係性が模索されているのだろうか。本書の事例編では、福祉NPOや子ども支援活動、中心商店街活性化活動、自治体やそれが実施するまちづくり施策、離島住民などとの協働実践の事例が丁寧に記述されている。それらに共通するのは、地域が大学(知)という資源をそれぞれの活動のために有効活用し、大学もまた地域という資源を研究や教育のために最大限に活用するという、相互依存の関係である。言うなればそれは、研究・教育版の「地産地消」なのである。

とはいえ、「大学地域論」はそれに固有の難問をも呼び寄せる。自治体や市民活動、地元企業、住民組織など、それぞれの利害との密接な関係が前提となる「大学‐地域」関係にあって、「大学の自治」や「学問の自由」をいかにして確保するか、という問題だ。大学の掲げる「公益」を「官益」「私益」に転用させないための防波堤づくりとしても、この方面での思索は必要であろう。残念ながら、この問題に対して「大学地域論」は寡黙だ。今後の展開が期待されるところである。(了)

※『山形新聞』2006年06月25日 掲載

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