七月歌舞伎観劇録

七月歌舞伎を観に行った。今年3回目の歌舞伎座。河竹黙阿弥の脚本が好きなので、基本的に黙阿弥作品を演るときは観に行くようにしているのだけれど、今月は小林麻央さんのこともあり、ためらっていた。ただ、午前の部の三幕目『連獅子』は思い入れのある懐かしい作品でもあるし、来月は黙阿弥作品がないようなので、観に行くことにした。

案の定幕見はものすごい混みようで、チケット販売30分前に行ったのだけれど午前の部の一幕目『矢の根』は完売、お目当ての『加賀鳶(盲長屋梅加賀鳶)』も立ち見という有様。皆さん朝から午後の部(チケット発売開始ももちろん午後)のために並んでおられて、どこからくるのそのエネルギー…と思った。たまたま珍しく肌寒い日だったからよかったものの、いつもどおりの夏日だったら心が折れていたかもしれない。

『加賀鳶』は河竹黙阿弥が五代目菊五郎のために作った演目で、舞台は江戸時代。最近江戸時代から現代までの江戸→東京の変化に関する本を読んだので、いつもよりも当時の江戸を具体的にイメージすることができた気がする。江戸時代は大火が多かったので、火消しがたくさんいたそうで、「加賀鳶」というのは加賀藩お抱えの火消しのことを指しているという。幕府と諸国大名の関係って参勤交代にフォーカスされがちだけど、実際にこういう活用のされ方もしていたんだなと新鮮だった。ちなみに彼らは現在の御茶ノ水、本郷あたりが担当地域だったそう。

以前七代目菊五郎の『魚屋宗五郎』を観たことがあって、いわゆる黙阿弥が得意な生粋の江戸っ子(七五調とか発声)がうまいなあと思って好きになってしまったのだけれど、海老蔵の梅吉(加賀鳶の頭)はちょっと台詞が上滑りする感じがしてあまり好きではなかった。いろいろ器用に演られるなあという印象なのだけれど、今年の頭にやっていた『男女道成寺』の方が好きだったかな。もう少しドスが利いた台詞回しを聞いてみたい。

この『加賀鳶』、おしゃれだなと思ったのが「松蔵・梅吉・竹垣(道玄)」と登場人物の名前に松竹梅を使っているところ。松蔵と梅吉は加賀鳶の仲間で、竹垣は按摩(殺人したり姪を売ったりやりたい放題な小悪人、ただし実は目が見える)なのだけれど、竹垣が起こした事件を松蔵がおさめる、というのがおおまかな筋書き。松蔵は中車が演じていて、肝が据わっていてこの作品のなかでは「締める」ポジションなのだけれど、なかなかはまり役だったように思う。
あとは竹垣道玄のキャラクターの描き方が特筆的で、お金に目がない小悪党なのだけれど、どこかうっかりしていたり詰めが甘かったりと、ただの悪いやつではなく観ていてつい「大丈夫か・・・」と心配してしまうような愛嬌がある。最後に追い立てられて捕まる寸前まで、「今囲まれて捕まりそうなのわかってるのかな?」と思うくらいの飄々っぷり。黙阿弥作品ならではの江戸時代のゆるさがやっぱり好きだなー。

休憩を挟んで『連獅子』。親獅子が海老蔵、子獅子が巳之助という布陣。巳之助は子獅子にしては大柄かなと思ったけれど、ダイナミックな振りですっかり可愛らしい子供という印象を受けた。『連獅子』が思い出深いのは、日本舞踊をやっていたころに母と師匠が演じたことがあったからなのだけれど、やはり親が子を谷に突き落とすところで胸を突かれる。当時母が子獅子を演って、子供心に心配していたのを思い出す。(師匠が大柄だったので余計に母がか弱く見えたのです・・・)
連獅子といえば大薩摩連中ですが、後継者がいなくなって長唄連中が引き継いだとのこと。太鼓と鼓(つづみ)の掛け合い、「来るぞ、来るぞ・・・」と緊迫感があって好き。獅子の毛振りもさすがに身長が高い男性がやっているので、豪快で観ていて気持ちよかった。海老蔵はいつか勸玄くんと演ったりするのかなー。楽しみです。

来月は三部構成で、二部に岡本綺堂/十返舎一九、三部は野田秀樹という豪華な脚本陣なので何回か観に行く予定。備忘録がてら、熱が高いうちに書こうと思います。

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