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今週の、いちばん。第10回/「直球」を投げられない編集者は、いらない。

今日これから書く話は、ある意味「内輪話」です。だから今でも、会社のパソコンの前で、この話を書くべきかどうか迷っていたりします。
けれど、今週はどうしてもこの話がしたいとも思っていました。
なので、誰かを嫌な気持ちにさせるかもしれませんが、書きます。

今週の火曜日、約半年前に出版された担当作『「やめる」習慣』の実績が好調だったため、会社から企画賞を受賞しました。
以下は、そのときにした受賞スピーチを(一部は削りつつ、かなり言葉を補って)ふくらませた文章です。

* * *

このたび「企画賞」をいただきましたが、誤解を恐れずに言えば、この本は別に「いい企画」ではないと思っています。
なぜなら、著者の古川さんのこれまでの実績や「習慣化」という強みを知っていれば、入社1年目の編集者であっても立てられた企画のはずだからです。

僕はしばらく担当作のセールスがよくない時期がありました。
そこで、「どうしても売れる本が作りたい」と、著者の古川さんに頭を下げました。
そしてとにかく、古川さんの強みを生かした「売れる本」を作れないかと考えたのが、この「直球」の企画でした。

もちろん例外はありますが、編集者はある程度経験を積むと、「変化球」を投げたがる人が少なくないように思います。
(それは何より僕僕自身がそういうタイプですし、今うちの会社でもそういう人が多数派だと感じます)

他の編集者でも思いつく「直球」のテーマや著者は避け、人が注目していない分野や人をピックアップする。それで売れたときの喜びは、たしかに大きいです。
ただし、変化球は、投げ方によっては大暴投にもなります。
加えて、いま読者は本当に、そういう球筋を求めてるのでしょうか?

僕は社員数が多くて儲かってる会社であれば、「変化球」だけ投げる編集者がいてもいいと考えます。
けれど、そんな余裕がない会社ならば、みながもっと「直球」を投げられないとまずいのではないでしょうか?

「直球」の企画を成立させるには、それはそれで、編集者としての足腰を鍛えなければなりません。
自分の持つ企画の中に、少しずつ「直球」を混ぜていかなければと思っています。

* * *

前にも書いたかもしれませんが、「編集観」は人それぞれで、本当はいい悪いを論じるべきものではないのでしょう。
ですが、僕はあのとき、この場を借りて自分が何を伝えるべきか考え、迷った末にこんな話をしました。
「直球」も「危機感」も足りない組織は、いつまでたっても変われないと。


今週の、いちばん「伝えたい」と思った瞬間。それは、6月10日、当社の会議室で賞状を手にスピーチした瞬間です。

*「今週の、いちばん。」は、その1週間で僕がいちばん、心が動かされたことをふりかえる連載です(下の「このマガジンに含まれています」のリンクから全部の記事が読めます)

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