セミナー1

教える人が、きっと一番、学んでる。/今週の、いちばん。57

もう10年以上も前だけど、僕は「先生」だった。
国語の教育実習生として、母校の都立高校で授業をしていた。
現代文と漢文が担当で、毎日「教材研究」に追われていた覚えがある。
実習生だからといって変な授業はできないし、受験生のクラスを持っていたから、しっかり教えなくてはというプレッシャーは相当のものだった。

先日、久しぶりに「先生」に戻った。
お世話になっているブロガーさんの依頼で、<他人に伝わる「出版企画書」のつくり方>というセミナーの講師を務めたのだ。
『新・投資信託にだまされるな!』などの著書で有名な、竹川美奈子さんとのコラボ。
こちらも、まったく手を抜けない「授業」だった。

セミナー終了後、懇親会をはさんで、僕は参加者の一人である旧知の編集者と二人で飲んでいた。
飽きずにビールを飲み干し続ける彼が、ふと「滝さんにとって、このセミナーをやるメリットて何なの?」と聞いてきた。
メリット。
さて、一体何がメリットだろう?

まず、今回、個人事業主の仕事として講師を引き受けたので、謝礼というわかりやすい対価がある。
また、今回の参加者の方々が、僕に将来、出版企画のコンサルティングを頼むかもしれないという、淡い期待もある。
(*ただし、企画のコンサルティングは、最初に企画書を拝見して、「僕のアドバイスで、出版の可能性が大幅に上がるだろう」人に限定している)
けれど、セミナーの準備に費やした時間を考えると、それらのメリットは、意外と大きくない。

今回、セミナー講師を引き受けた一番のメリットは、けっきょくは「僕自身が学べた」ことにあると思う。
参加者の方々の出版の可能性を高めるために、自分は「編集者」としての経験を、どう体系化して教えることができるのか?
それを考えることは、自らの経験の棚卸に始まり、重要事項の選択、伝わりやすい表現への変換…と、出版(社)や編集(者)について、学び直すことだ。
そして当日、参加者の方の質問に答えることなどで、伝えるべきことを再整理する。
ずいぶん前の教育実習生のときのように、僕はその教室の誰よりも一番学んでいたはずだ。

教師という道は選ばなかったけど、「教える」とはそういう行為ではないかと、僕は思っている。

今週のいちばん、真剣に学んでいた瞬間。それは5月30日、五反田のセミナールームで出版と編集について教えていた瞬間です。


*「今週の、いちばん。」は、その1週間で僕がいちばん、心が動かされたことをふりかえる連載です(下の「このマガジンに含まれています」のリンクから全部の記事が読めます)

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