【連載】未来に吹く風 ~君と短歌と一年間~ 第2章

~長野 鈴の述懐 水無月の時~
 
すれ違い追いかけ時に逃げながら 過ぎ去ってゆく夏よ、とまって
 
暑いの苦手なんですよ。寒いのもなんだけど。あの夏はもう一回やり直していいよって言われたら、どうするかなぁ、やり直したい気もするし、うん、やっぱりいらないかな(笑)あの夏はね、沢海君は簿記の研究と就職試験で私は吹部と公務員試験、お互い忙しかった時期だったね。彼はかまってもらえなくて拗ねてたかもだけど、私としてもやっぱり面と向かって接する機会が減るのは寂しいと感じてた。でも、きっと彼も分かってくれてたと思う。私の勘違いだったら結構恥ずかしいんだけどね。この頃彼とは朝の時間と、たまに帰るとき玄関で会うくらいの頻度でしか会わなくなってて、ちょっとヤバいかもって思ってた時期だったかも。きっと二人とも気持ちを向ける先が少しずれちゃってた時期だったのね。気持ちってのは、時間が進む中で流動するものでしょ。例えばね、時間が止まってほしいなんて思っちゃうときない?今の幸せが続くようにとか、ちょっとした嬉しいことでももう少し噛みしめていたいなって思うこと一回くらいはあるでしょ?でもね、自分の中で時間を止まめてしまったら、気持ちも一緒に留まっちゃうものなんだって気が付いたの。人って不思議でね、心が止まってる人って一定数いるのよ。それが何らかの感情によって止められてしまっているのか、それとも過去の栄光にすがっているのかは別としてね。だけどどちらも共通することが一つ、生きている人間の温かみが抜けていると思うの。必ず彼は私の心が止まれば気付いてしまう。きっと心配して寄り添ってくれることは想像がつくけどね、彼は気持ちが止まっちゃった私なんて嫌だろうって思ってさ、何とか彼の時間軸についていこうとしてたのかもしれないし、でも、私がただもがいてただけのような気もするわね。
彼とは来年の春から遠距離になる。もしかしたら振られるかもしれないし、自然消滅だってあり得るじゃない。あの人のことだったら私を傷つけないように自然なふりしていなくなるとかもやりそうだし。私は彼と別れるなんて考えてもみなかったし、彼の居ない生活ってどんなものだったろうって思い出すことすらできない。彼は私の生活に知らないうちに食い込んでたの。これから彼といかに過ごすかをきちんと考えていかないと一生の後悔が残るんじゃないかって、次の瞬間私が一つ選択を間違っただけで今まで積み上げてきたものが無かったことになるんじゃないかって怖かった。もしかしたら自分でちょっと気持ちを止めかけてたかもしれない。女子なんてそんなもんだって言われるかもしれないけど、心に揺らぎが出ないように自分と自分が苦しめ合って慰め合ってた時期だったのね。

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