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『た子の足跡日記』ー有料老人ホームにてー

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有料老人ホームで10年間に出会った入居者様に感謝。 皆様お元気ですか?地上でも天国でも・・・
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記事一覧

桜の木

『た子の足跡日記』ー有料老人ホームにてー 病院の真ん前に1本の桜の木がある。 病院の前に立っているこの施設の5Fの窓から、その桜はよく見える。 桜の花が咲く季節は窓からお花見が出来る。 特にマサハルさんの部屋からの眺めは最高だ。 2月、まだ桜は細い枝の先が冷たい風を神経質に捕らえていた。 マサハルさんがその桜の木を窓越しに眺めて私を呼ぶ。 「ちょっと、ほれ、あそこに子供が居るんじゃないか?」 「えっ、子供ですか?」 「あんな所に登ちゃって、降りられなくなったんだな~ 下で

ビールと七夕

「た子の足跡日記」ー有料老人ホームにてー 色々なお題が出てnoteはありがたい。 「#ここで飲むしあわせ」で、思い出した人がいるので時季外れの題名で書いてみたいと思う。 有料老人ホームなので自室を持ち、ある程度自由に生活出来る。 ミツオさんは本当に自由に生活されていた。 居室には好きなビデオ、本や雑誌、おやつが完備されている。 ちょっとしたキッチンがあり、小腹が空いたらカップラーメンくらいは食べられる。 シャワー室まで付いていて好きな時間にシャワーを浴びることも出来た。

滑る話

『た子の足跡日記』ー有料老人ホームにてー クロックスのサンダルが何故あんなに人気なのか分からない。 軽量で履きやすくて値段もリーズナブル。色も色々でお洒落だ。 私も、流行に負けて買って試してみたことがある。 でも私には合わなかった。 何もない平坦な床にさえ突っ掛かって転びそうになってしまうのだ。 私の歩き方の問題なのかもしれないが。 入浴のためにちゃんとゴムのサンダルが用意されているのに、それでも殆どのスタッフが個々に買い求めて履いているのがクロックスのサンダルだ。 「こ

柿畑さんばんざい

『た子の足跡日記』ー有料老人ホームにてー キミさんが言うには、柿畑さんは何でも話を聞いてくれるのだと言う。 「あなた、悩み事があったら何でもカキバタさんに相談するといいわよ。 別に答えが返ってくる訳じゃ無いけど、すっきりするから」 と、言うので私は、 「どうやったら柿畑さんに会えますか?」 と、質問してみた。 キミさんは、 「カキバタさんよ」 とだけ言った。 怪しい。 私はキミさんがその柿畑さんに電話とかで話を聞いて貰っているお友達か、下手したら変な宗教みたいなものかも

安売りノーベル賞

『た子の足跡日記』ー有料老人ホームにてー 大声で 「職員さん、職員さん」と職員を呼んでいるのはツヨシさんだ。 ツヨシさんは、何かにつけて頭にノーベルを付けたがる。 何かを否定するとき 「ノーベルダメ、ダメ!」 固い物を食べるとき 「ノーベルこれは固いでしょう」 という具合だ。 ツヨシさんは『ノーベル』を多発乱用している。 「ノーベル」とは「ノーベル賞」のことだ。 ツヨシさんの友人の知り合いだか、親戚の知り合いだか、知人の親戚だか、とにかくツヨシさんの知り合いに『ノーベ

夢は続くよどこまでも・・・(2)

『た子の足跡日記』ー有料老人ホームにてー 夢が大きくて悩みが尽きないユメコさん。 そのユメコさんの悩みを解決すべく、リハビリの先生が立ち上がった。 『歌会始めに出席するにはお金が掛かる!』 と、言う悩みだ。 「もしも、もしも、ユメコさんの歌が選ばれたなら、僕が街頭に立って募金を集めてあげましょう」 「でもね~私は車椅子でしょ~私一人じゃ行けないから・・・誰か付き添いがいるでしょ?」 「それじゃあ、付き添いの方の分も集めて・・・何だったら僕が付き添いますよ」 「天

夢は続くよどこまでも・・・⑴

『た子の足跡日記』ー有料老人ホームにてー ユメコさんは夢見る夢子さんなんです。 とにかく夢が大きいので悩みが絶えません。 今の夢は小説を書いて芥川賞を狙うこと! 「ねえ~、小説を書くって難しいわね。書きたいことは決まってるんだけど文章にならないわ」 「どんなことを書くんですか?」 「娘のこと・・・題名は『ひまわり』・・・私って、若い頃モテたのよ」 「じゃあユメコさんの娘時代の事ですか?」 「いいえ、娘のことよ。あの子はいい子だから・・ それでね。私が若い頃、質

🎶東京のガスガール

『た子の足跡日記』ー有料老人ホームにてー 介護業界に入って昔の歌をいくつか覚えた。 カラオケはレクリエーションの定番だからね。 ランコさんはとっても陽気なおばあちゃんだ。 シルバーカーを押している。 片足が悪いからシルバーカーを押して一歩前に出ては、もう一方の足を引きずるように前に進む。 歌が大好きでいつも楽しそうに歌を歌っている。 その歌い方には特徴がある。 強弱があって、へんなところで突然ボリュームアップする。 例えば『リンゴの唄』 ”♪リンゴは何にも いわないけ

トメさんの家族!

『た子の足跡日記』ー有料老人ホームにてー! トメさん百歳、小さいおばあちゃん。 居室には孫や曾孫から届いた手紙や写真が沢山飾ってある。 トメさんから広がる家族が、とっても温かく感じてうらやましい。 トメさんにはトメさんそっくりな娘さんが三人いて、娘さん達はとても仲が良い。 週に一回は二人、または三人で面会に来ている。 娘さん達が面会に来ると居室からはいつも 「ガハハハ・・ガハハアハハ・・」と、楽しそうな笑い声が聞こえて来る。 確かにトメさんは可愛くて居るだけで和むけれ

名調査員の足元

『たこの足跡日記』ー有料老人ホームにてー ミツエさんは電動車椅子に乗っている。 正義感が強く、社会的に弱い立場に立って色々な活動をして来た。 その経験を生かして、施設の内外に何か不具合は無いかと見回りに余念がない。 「今、カーテンを調べているの」 と、他人様の居室に遠慮なしに入って行って、レールは曲がっていないか?留め金はちゃんと付いているか?等々をチェック。 チェックはするだけで、だからどうって訳でもない。 床にきしみがないかチェック。 床にきしみがなくても、ある

カメラを向けるな!

『た子の足跡日記』ー有料老人ホームにてー 老人ホームでの楽しいエピソードを綴っています。 マツさんは写真を撮られるのが大嫌いだ。 理由は知らない。 大抵の方は「写真撮りますよ~」と言うと、にっこり笑ってくださるのだが、マツさんは逆に怒ってしまう。 なのでマツさんには「写真撮りますよ~」とは言わない。 「マツさん、ちょっとこっち向いてくださ~い」と言って振り向いたところをササッと撮るのが精一杯。 それでもカメラを見ると「止めて~」と言って怒ってしまう。 元々マツさん

あなたはタイムトラベラー

『た子の足跡日記』ー有料老人ホームにてー 老人ホームの楽しいエピソードを綴ってます。 ぬり絵を楽しんで貰おうと思い、今日届いたばかりの雑誌『月刊デイ』の、ぬり絵コーナーをコピーして、 「これに色を付けてくださいね」 と、言ってお渡しした。 「わし、昨日これ塗ったから・・・」 と、お断りがある。 「ええ~、今コピーして来たばかりですよ。昨日塗るはずないと思いますけど」 「塗った、塗った、散々やらされたよ」 「それじゃあ〇〇さん、色付けお願いします」 「あ~これね、

「ベットの下に猫居ます」

『た子の足跡日記』ー有料老人ホームにてー とってもおちゃめなおじいちゃんがいた。 『とんがりコーン』というお菓子が大好きでよく食べていた。 【明太マヨ】【バター醤油】など、色々な味があることを教えてくれた。 『とんがりコーン』を食べるとき、わざわざ人差し指にはめていた。 昔そんなCMを見たような気がする。 ある時『とんがりコーン』がベットの下に4,5個転がっていた。 最初は落としたのかと思い(あら、勿体ない)と、拾って捨てた。 次の日も同じようように落ちていたので(

驚異のあんパン効果

『た子の足跡日記』ー有料老人ホームにてー ミワコさんは朝ご飯を口にするなり開口一番 「今日もまずいな~」 と、お隣のお友達に言う。 お隣さんは 「そうだな~」 と、相槌を打つ。 こうして和やかに朝食が始まるのである。 『不味いな~』と言いながら、美味しそうに食べて、必ず完食。 私はそのギャップが面白くて好きだった。 ミワコさんの家族がある日あんパンを差し入れに持ってやって来た。 小さな丸いあんパンが5個一袋になっている。 ミワコさんはその一袋を家族の前でいっぺんに